不穏な会話
正直言って最初に感じた嫌な予感をなめていた。
城の中にはいってから嫌な予感がだんだん強くなり、今では次の瞬間いつ攻撃されてもおかしくないほど高まっている。
そしてこの感覚は他の者も感じており、全体的に空気がピりついている。
指揮官の方もしきりに案内人のことを見て周囲を警戒していた。
「本当にこの先か?」
「は、はい、この先に宰相様がおられます」
案内人は嘘をついている様子はない、むしろこの状態にビビっている。
ここまで嫌な予感を感じるだなんて、罠の可能性が高い。
凍らせている魔王は指揮官のすぐそばで運ばれており、その魔王を見張る関係上、指揮官のすぐ近くにいるため、案内人の反応が分かりやすい。
交渉相手はこの国のトップである魔王が動けないことで自動的に二番目に地位が高い宰相とすることになった。
この部隊を指揮していた指揮官はかなり偉いらしくそのまま交渉をまかされてようだが、これ本当にこのままで大丈夫か。
絶対に何かある。
そして大きな扉の前にたどり着いた。
「こ、ここです。護衛の皆様はここでお待ちください」
「護衛は連れて行く、それとここを開けろ」
「はひぃ」
案内人の要求を拒否し扉を開けさせる。
この先にヤバいのがいる、そう感じながら開く扉の先をのぞき込んだ。
扉の先の部屋は広く、護衛の500人ぐらいだったら入りきれそうだ。
そんな部屋の中心には大きな長方形の机とそれを囲うように椅子が並べられ一番奥の席に誰か座っていた。
奥の席、いわゆる上座は一番偉いやつが座る席で、その対象者は魔王だから魔王がいない場合この席に誰も座らないとか聞いたことある。
なのに座っているってことは、そう言った分化が無いか、何らかのアピールのためか、実は捕まえている魔王が偽物であそこにいるのが本物だったか。
今思いつくのはこの程度だ。
一番最後の可能性はないと否定したいが、あの席に座っているやつは感覚的に魔王と互角の実力を持っている。
もしかしたらさっきまで戦っていた魔王より強いかもしれない。
「どうぞ、護衛も入っていいですよ」
指揮官が扉の前で固まって動かなかったのを見て席に座っている者が声をかけた。
が、中には入らない、どう考えても怪しすぎる。
そもそもこの男が本当に宰相なのかすら怪しい。
「どうしましたか、その数の護衛程度ならこの部屋に入れますよ」
「・・・側近と精鋭の者だけ付いてこい、残りはここで待機だ。ここの指揮は任せる」
指揮官の側近の者は30名ほどで戦闘している姿は見たことないが、全体的に質が高い。
特に指揮官の左右に立っている4人はBランク冒険者並み、もしくはそれ以上の者もいる。
ちなみに今呼ばれた精鋭の中には俺たちも混じっている。
一番偉い指揮官が他の指揮官に待機する部隊を預け部屋の中へ入り、俺たちもそれに続いた。
部屋の中にはいったことで宰相の顔がはっきり見えるようになった。
顔は良くも悪くもなくパッとしない普通の顔だった、きっと人混みの中で見たらまったく印象に残らないだろう。
だが、その表情は薄暗く笑っており不気味だった。
宰相の背後に4人兵士が立っているがそいつらの顔はヘルムで覆われて見れない。
「さて、とりあえず魔王を返してもらいましょうか」
交渉は始まってすぐ、いやまだ始まってもいないのにこの言いぐさ、自分たちが敗戦国だと分かっているのか?
それとも魔王は負けたけど自分の実力だったら勝てると思っているのか?
もしかして相手はまともに交渉するつもりすらないのか?
「貴殿は自分の状況を理解できていないようだな」
「分かってますとも、十分対処可能な範囲の問題ですから」
「口を慎め敗者が!」
「ククククッ、勝ったと思っているのか?」
「貴様らの大将は手中にある。この結果負け以外の何がある」
「魔王とは世界に一人しかいない、それは王系のスキル保有者すべてに言える事。大事なのは世界に一人はいるという事実」
「何が言いたい」
「王系スキル保有者が死んでもまた新たな王系スキル保有者が現れる。魔王は同じ時代に一人しかいませんが、魔王自体は何人、何十人も存在している。ようするに魔王は替えが利く存在でしかない。そんな存在程度があなた達の手に渡ったところで私にとってはどうでもいいことです」
「貴様正気か、魔王は封じられ、帝都の兵どもは諦め、すでに多くの味方が貴国に侵略し3割は占拠されている。勝ち目などどこにもない!」
「ええ、正気ですとも。まあずっと封じられるのは困りますが、・・・そろそろめんどくさくなったので無理やりにでもいただきますか」
次の瞬間、部屋中が水に沈んだ。




