船の中で
あれから日が昇るまで一度も止まらなかった。
減速もしなかった、一度もこっちを心配しなかった。
叫んでいたら、楽しんでると思ったのかさらに加速した。
止まった時、今までで一番安心した。
握っていたところは、形が潰れていた。
多分今までで、一番パワーが出たと思う。
「今日はここまでだ、飯食って寝るぞ」
「は、はい」
「ひゃ、い」
疲れた、前世もあわせて、今までで一番叫んだ。
ジェットコースターの方がましだった。
「どうした?何でそんなにぐったりしてるんだ」
あんたのせいだよ、と言わなかった自分を褒めたい。
「うぅ、ローザさんのせいですよ」
ミリアは言ってしまったが、
「ん?どうしてだ?」
「スピード出しすぎです」
「このぐらいたいしたことないよ。それより飯だよ」
ダメだ、この人全く人の話を聞かない。
これからどうしよう。
意外とローザさんのご飯は美味しかった。
魚が中心で、特にスープが美味しかった。
「ローザさんって料理、上手ですね」
「はい、とっても美味しかったです」
「ん?そうか、普通だぞ。それよりさっさと寝ろ、日が暮れたら出発するからな」
「「はい」」
明日からローザさんの暴走をどうやって止めよう?
着くまでこのままだったらいつか死んでしまう。
景色をゆっくり見たい、って言ってもここは海の上だし見るものがない。
魚を釣りたい、って言っても俺は釣りとかやったことないからなどうしよう。
「ミリア、ローザさんの運転どうしたら止められると思う?」
「ローザさんに心の底からお願いしたら、聞いてくれると思います」
ローザさんに心の底からお願いするのか、まあ相手も人間(吸血鬼)だし、話せばわかる、って言うしね。
そういえば、これ言った人その直後に殺されたような・・・、まあ大丈夫だろ。
「おやすみ、ミリア」
「おやすみなさい、レサレイン様」
ちなみに船内にあまり部屋がなかったので、ミリアと同じ部屋だ。
この部屋には二段ベッドがあり、ミリアが上を見ていたので上の段を譲ろうとしたら、
「レサレイン様の上で寝るなんてできません」
って言われた。
別に上の段で寝たからといって気にしないのに。
明日は絶対快適な海の旅をするぞ。
次の日、日が暮れた直後にローザさんにたたき起こされた。
いや、どちらかというと船が急発進したことによって壁にぶつかって起きた。
「いった。え!?もう動いているのまだ外ちょっと明るいのに」
「うぅ、レサレイン様大丈夫ですか?」
ミリアはベッドから落ちたようだ。
俺も寝る向きが反対だったら落ちていたかもしれない。
もしミリアが上で寝てたら落ちていたかもしれない。
そう思うと俺が上の段を使っていてよかった。
まさか話す前から死にかけるとは思わなかった。
「とりあえず操縦席に行こう。ローザさんにこの運転を止めてもらうように説得しよう」
「はい。でもどうやって行くのですか」
船の揺れは激しく立ってられない。
「ほふく前進で行くしかない」
「え、ほふく前進ですか」
「立ったままの方が大変だよ。とにかく行くよ」
「はい」
ほふく前進で進んで行っても、どうしても壁や床に叩きつけられる。
床に叩きつけられるのは、波を乗り越えたときに浮くからだ。
この大きさの船が五メートル浮くのは滅茶苦茶怖い。
そうしてやっと操縦席に着くと、
「おっ、起きたか。まだ寝ててもよかったのに、若いのに偉いね」
「「寝れるか(ません)」」
今度は我慢できなかった。
「ん?もしかして枕が変わると寝れないタイプ」
「違います。ローザさんの運転で目が覚めました」
「船の振動で?繊細だね」
繊細じゃなくても、船が浮いたりしたら寝れるわけない。
「こんな運転誰でも起きますよ」
「そうなのか、でも今まで出航してから着くまでずっと寝てたやつがいたぞ」
「「ほんとですか!?」」
「ああ、着くまで部屋から出なかったからな。そしてその客、使った部屋を血まみれにしてたんだぞ酷い嫌がらせだ」
「あんたのせいだよ」
絶対その人ローザさんの運転で怪我して気絶して、部屋が血まみれになったんだ。
「まあ、それより起きたんだから飯にするか」
そう言ってローザさんは調理場に行った。
どうやってローザさんの暴走を止めよう。
止めないと着いた頃には最悪死んでしまうかもしれない。
しかし、いくら考えても答えは出なかった。




