ミリアについて
「きれいに逃げられちゃったね」
やっぱりあのおじさんは逃げたのか。
「レイン様がせっかく助けたのに、面倒ごとを押し付けて逃げるなんて。最低です。もう一度盗賊に襲われたらいいのに」
「言いすぎだよミリア。それにしても鮮やかな逃げっぷりでしたね。それでレントさんこいつらどうします?」
目の前にはレントさんによって積み上げられた盗賊がいる。
邪魔だからこのまま放置して置いていきたいけど、流石にダメだな。
「うーん、こいつらのアジトを聞き出してもいい物はなさそうだからなあ。近くの街で引き渡すのもめんどくさいし、かと言って放っておくこともできないからなあ。持っていくしかないか」
「そうですね、盗賊は五人だからヒスイに二人持ってもらって残りは一人ずつ運びましょう」
「じゃあとりあえず、移動中に起きたとしても抵抗できないように縄で縛っておくよ」
「「はい」」
鞄から縄を取り出し、手分けして盗賊の手足を縛る。
武器はもうすでにレントさんが取り除いているから、縄を切られる心配はない。
盗賊の内二人をヒスイの背中に乗せて固定する、これで準備は完了だ。
「今回は荷物があるからゆっくり進むよ。もし速かったら言ってね。じゃあ行くね」
レントさんが走りはじめ、俺たちもそれに続く。
ざっ、ざざざざー
走り始めてすぐ、後ろから何かを引きずるような音が聞こえた。
まさかと思って振り返ったらミリアが盗賊をロープで引きずりながら走っている。
あれ?ミリア何やってるの?
「ちょっと、ストップ」
俺がミリアの行動に呆けていると、レントさんが止まるよう指示しみんな止まった。
それで俺はやっと、ミリアがやっていることを正しく認識できた。
「えーっと、ミリアちゃん何でその盗賊を引きずっているの?」
「何でって、運ぶためですけど?」
ミリアが、何かやっちゃいましたって顔してる。
「あ、うん、ちょっと待ってね。・・・あのね、盗賊を引きずるのはやめようね」
レントさんの語彙力が下がっている!
「?、何でですか?盗賊が死ぬかもしれないからですか?そこは大丈夫ですちゃんと死なないように引きずっています。それにもし死にかけても回復魔法で回復するので安心してください」
「盗賊が死ぬとか死なないとかそういった問題じゃなくて、その運び方がね」
「運び方ですか、でも盗賊が死ぬのが問題ないのでしたら、処分すればいいじゃないですか?邪魔ですし。それに処分したら運ばなくてもよくなります」
「え?」
今ミリアが物騒なことを言った気がする。
処分ってあれだよな、亡き者にするって意味だよな。
・・・この状況だとそれ以外無いか。
「えっ!えーと、人を襲った盗賊を殺しても誰にも文句は言われませんよ」
「まあそうだけど」
レントさんがそういってチラリと俺を見る。
「ミリアちゃんはちょっとそこで待っててね。レイン君と話したいことがあるから」
レントさんがそう言って、俺と肩を組みミリア達から少し離れたところまで進んだ。
そしてレントさんは小声で俺に話しかけた。
「ミリアちゃんってレイン君の眷属なの?」
「はい、そうですけど」
レントさんの小声にたいして俺も小声で返す。
「眷属になる前はどこで何をしてたか知っている?」
俺の眷属になる前、ミリアは傷つき、飢えながら一人で生きていた。
その時の話はあまり詳しく聞いたこともないし、ミリアからも話したことはなかった。
「ミリアが街で死にそうになったのを見かけて助けたんです。そして俺の眷属になりました」
「もともと吸血鬼だったの?」
「いえ」
「眷属になってからは?」
「眷属になってからは、俺の実家で従者として働いてました」
ここまで言うつもりはなかったけど、今までの行動から俺がいいとこのお坊ちゃんだと知ってるだろうし、レントさんの真剣な表情に気圧されつい喋ってしまった。
「眷属になってからずっとレイン君の実家で働いていたの?」
「は、はい」
「そっか。レイン君、ミリアちゃんって元からあんな感じだった?」
「そんなことはない、と思います。あのさっきからの質問はどんな意味があるのですか?」
「主人と眷属であまりにも性格が違うから少し気になって。・・・もしかしたらミリアちゃんはレイン君のこと以外どうでもいいと思っているかもしれない。僕がミリアちゃんに何を言ってもミリアちゃんは特に何とも思ってなかった。けどレイン君が少し反応しただけで自分を正当化させようとした。・・・ああいったタイプは見たことある。今はレイン君以外雑に扱っている程度だけど、いずれ何らかの形で暴走する。ミリアちゃんのことを見た方がいい、それがレイン君の為にもなるから。じゃあ、戻るよ」
レントさんの言葉は重く、今の俺はすぐには受け止められなかった。




