4 帰郷
読者は3たび次へ>>を押した 筆者は涙を流して感謝した
宿屋の従業員が仕事を始める音で起きてしまったが、空はまだ暗い時刻だった。こういう時は冒険者特有の危機察知能力がうらめしいがこれで命を多々救われてきたのでしょうがない。二度寝する気分でもないので、お嬢さんの寝顔でも見て時間を潰そうか。
翌朝、朝日を浴びて、想定通りの時刻に起きた。リリーは先に起きていたようで、目の前の椅子に座って待っていてくれていた。朝食を取ったらすぐに出発し、午前中に目的地のマルロー市の館に着く事を目指す予定なので着替えを急ぐ。
お嬢さんが着替え終わって暫くしたら、従業員が朝食を持ってきた。甘い甘いシロップをかけた甘パンという平民からすればよしてくれ、と言いたくなるような内容であったがお嬢さんは平気で食べていた。まぁ一生に数えるほどの贅沢なので楽しませてもらおう。
宿屋の人は私が甘い物が好きだと知っているので、おもてなしのためか、甘い物で固めてきた朝食であった。表情を見る限り、甘い物ばかりの内容にリリーはちょっとつらそうにしている。確かに、甘い物が苦手な人にとっては地獄のような内容よね…
セバスチャンと合流し、荷物を確認した我々は支配人に見送られて宿を出た。今さらながら、マルロー伯爵家が後ろ盾となっている宿屋だと気付いた。なお、目的地までは馬車で4時間もあれば確実につくと推察できる距離だ。ほとんど居た意味が無い依頼だったが依頼料は沢山出る。夕食は何にしようか。
リリーの朝食の時の少々困惑していた顔がちょっと気になる所であった。昨日、色々と甘い物を食べさせてしまっていたから、もしかしたら無理をさせていたかもしれない、と。「リリーさん、朝食の時ちょっと困った顔をされてましたよね。もしかして甘い物、苦手でしたか?だとしらた昨日はごめんなさいね。」
夕食は牛肉ステーキにしようかな。と考えていたらお嬢さんが話しかけてきた。「あ、ああ。甘い物は好きですよ。食べ過ぎないように気を配る程度に。ただ、その朝食から甘い物尽くしってのは人生初めての経験でして。その、びっくりしてしまって。」
ああそうかと、半分程度納得した。「そうですね。一部の甘い物好きな貴族か大商人ぐらいしか、ああいった朝食は食べませんから。リリーさんが甘い物が苦手でなくて良かったです。昨日、色々とお出ししてしまったので…。あ、もしかして量が多すぎました?食べ過ぎに気を付けてるっておっしゃってましたし…」
色々とお嬢さんは混乱しているようだった。「別に大丈夫ですよ。1日2日程度食べ過ぎただけで太ってしまうような鍛え方はしてませんから。それに、ああいった高価な物は食べる機会も少ないですから、いい経験になりました。」
リリーさんの屈託のない笑顔を見て、ああ、よかった。と心から感じた。それからは、ちょっと鍛え方はどんなものか気になったので聞いていたら、あっという間に時間が過ぎていた。なお、少なくとも、自分には到底真似できそうにない鍛練であることがわかった。
甘い物の心配をされたら、昨日、私の裸を見たせいか鍛練法を聞いてきた。ありのままの事実を述べるが、この豊満な体つきのお嬢様はもしかしたら痩せたいのだろうか?だとしたらもう少々別の方向に厳しい話を伝えておいたほうがよさそうだ。
「もしかして、痩せる方法を知りたいのですか?」そう、若干いぶかしむ感じで聞かれた。確かに、色々と贅肉が気になることもあるがそこまで痩せたいとは思っていなかった。が、興味は有った。「実行するかは別ですが、方法を一つでも多く知っているに越したことはないでしょう。」
また、変なレトリックだ。と感じたが、伝えておこう。「まず、食事は一生今の物には戻せません。痩せるには、小作人のような貧相な物にし、運動をするのみです。十分に痩せても管理は続ける必要があります。そして、時間が必要です。お嬢様の場合、その弛みきった腹をへこませるだけで年単位でしょう。」
「正直な意見、ありがとう。でも、多分実行する事はないわね。痩せるために必要な労力をもっと他の有益な事、つまりは領民達の生活の向上に使いたいわ。そして、彼らがより贅沢できるようになった分、私も少しだけ贅沢をさせていただく。ということよ。」実はこれは、ここ数年考え続けた事だ。
「さようですか。確かに、お嬢様が痩せる努力をされるより、領民のために働いた上で贅沢をされるのなら後者の方がよいですね。」そうは言いつつも、お嬢様の弛んだ腹についた贅肉を見ると、その材料となった食糧を路地裏に居るであろう腹を空かせた孤児にでもやれないのか?と思ってしまう。
リリーはジト目で私のお腹を見ていた。今でもコンプレックスなのだからやめてほしいが…「リリーさん、今は秘密になっている事が多いですけれど、様々な計画がいずれ公開されます。みんなが贅沢できる世界にするために。リリーさんこそ、カッコいいこと言って、まん丸に太らないでくださいよ。」
お嬢さんはなんか一人で話を遠くまでもってってしまった気がする。が、この少女は少女なりに努力しているのだろう。それに、私が太るなど多分一生ない。天涯孤独の冒険者は迷宮で欲にくらんで死ぬのが相場だからな。「お嬢様、私がまん丸に太るなんてありえませんから。」
リリーさんと変な会話になって、太らないから。と言われた時に、馬車は伯爵邸の前に停車した。数秒後、セバスチャンが相変わらずの早業でドアを開けてくれたので、家族と久しぶりの再会を果たした。父が抱き上げようとして、「まだ14歳なのに、思ったより重いな。」なんて言ったので若干ショックだったが。
馬車から降りて、セバスチャンという執事らしい執事に依頼完遂の証文を頂いた。この時点で、先ほどのお嬢様との会話は記憶から去って、夕飯のステーキが脳内を占拠した。そして、伯爵(?)によるシャーロットお嬢様の年齢暴露により、謎の敗北感が満ち溢れた。思い出されるのは昨日の風呂場であった。
優秀な家庭教師の多い王都での6年間の勉強が終わり、王都から地元に帰ってきたので、全てが懐かしく感じた。父と母それから、兄二人との昼食はなつかしいものであった。(なお、この4人は時折用事で王都に来るので2年間顔を見なかったわけではない)
マルロー市のギルドで依頼料を受領し、その夜はステーキを食べた。が、面白い事に港町であるマルローは船乗りも冒険者ギルドの酒場で食事をするらしい。その夜、剛毅だけれど配慮のある一等航海士と意気投合し、連絡先を交換した。その後、文通から始まる恋の存在を自ら証明してしまった。
4話目も見ていただき、本当に、本当にありがとうございます。
至らない事、ダメな事、沢山あった作品だと思います。が、こうして最後まで読んでいただけた読者がいると思うと、筆者はとてもうれしいです。
おこがましいお願いではありますが、できれば↓の星等を使ってこの小説に対する評価を筆者に伝えていただけますと、筆者が反省したり大反省したり喜んだりいたします。
なお、本作はいったんここで終了です。続きを書く可能性は、ハーフハーフといったところでしょうか。