3 宿屋
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昼過ぎの会話によってわかった結論は、業火のエンチャントによって出てくる炎は何者かという議論は象牙の塔に籠る学者たちによる間だけで興味深い話であり、実際の使用者にとっては全く興味が無いというのが真相であった。ちょっと残念なような、あたりまえかと納得できるような結論だった。
ふーん。というのが感想だった。確かに、相手によって業火の出方が変わるから、相手の罪の重さに応じて地獄から業火を借りているという説も納得できそうだ。でも、罪がなさそうな奴にも相当強く燃える事もあるし、命を奪うという行為に降りかかる業火を剣が代わりに纏うという説の方が都合が良い。
剣が代わりに業火を受けてくれた方が楽だからそちらを支持する。というリリーの即物的な考えはやはり実利重視の冒険者なのかと感じさせた。けれど、罪深くなさそうで、業火の出方が強い魔物の存在は初めて知った。尋問モードになって長々と尋問したら、3時ごろになったのでお菓子をあげたら微妙な顔をされた。
どうやら、お嬢さんの知らない内容に踏み込んだらしく、尋問されてしまった。が、3時ごろになると、突然お茶とお菓子を用意しますわ。なんて言って、紅茶とクッキーを貰ってしまった。つい、これを食べたら目の前に居るお嬢さんぐらいまで太ってしまうのか?なんて思って微妙な顔をしてしまった。
おいしいですわよ。さあ、どうぞ。と勧めると、リリーは普通の顔に戻って、クッキーを食べた。当然、私も食べる。私が気に入った王都のお店のクッキー。リリーは初めて食べる味らしく、気に入った様な風に見えた。食べ過ぎると一気に太るから伝えた方が良いかしら?
これが貴族の食べる物の味か。と思った。同時に、これなら何枚でも食べてしまいそうだ。とも思った。多分、目の前に居るのは何枚も食べてしまった人の結果なのだろう。「おいしいものを、ありがとうございました。何枚でも食べられるような感じで、いいですね。」
「何枚でも、食べてしまえるのが欠点でもあるのよね。一時期、見境なく食べてた時期があるから、危険性がよく分かるわ。」元から太めの女の子だったのは覚えているが、8~9歳の頃、王都に暮らし始めてお小遣いをこれに使い込んだ頃から今のような体型になったのを覚えている。
「何枚でも、食べられる身分が羨ましいです。」あ、しまった。貴族の護衛をする時に、貴族に面と向かって、こんなことを言うなんて。しかも、相手はそれを嫌味と受け取れられるかもしれないときに…「あ、いや、その。なんでもないです。ごめんなさい。許して下さい。処刑だけはご勘弁を…」
あー。そっか平民は買えないか。と思った直後、怒涛の謝罪からの命乞い。どうやら不機嫌にさせてしまったかもしれないと思ったらしい。「大丈夫よ。私が何枚でも食べられるのは運がいいから。でもね、今、伯爵家ではみんながお腹いっぱい食べられるようにする作戦が進行中よ。」
一体何なんだろう。と不思議に思ったが、対外戦争か何かだろうか。確かに、掠奪は成功すれば一気に穀物の流通量が増えるが、そういう話は聞かないし、今ここで言うわけが無い。なんでだろうと疑問に思うが処刑を免れた事に取り敢えず感謝する。「あ、ありがとうございます。」
ちょっと誤解させてしまったかもね。と思ったので、付け加えて説明をしておく。「別に、怖い事はないわ。ちょっと、農地一つ一つの効率をあげられるようにする。たったそれだけだけれど、ちりも積もれば山となる、素晴らしい話よ。あと、言いふらしちゃだめよ。詐欺をする人が出てくるかもしれないから。」
侵略戦争じゃないならいいや。あと、後半の詐欺云々は取って付けた理由だろうが、他言無用なのも理解したので、気づいたら首振り人形のように首を振っていた。冒険者としては、食糧が安定的に安く手に入るなら嬉しい事に越したことはないが、まぁ未来に期待しておこう。
その後、リリーに元通りの軽快さを取り戻してもらうために雑談をしているとビリーバウム市に入り、十数分後に今日の宿に着いた。伯爵家が懇意にしている宿であり、防犯は万全。護衛のリリーも安心して寝てもらって大丈夫。そんな高級な宿である。もちろん、予約済み。
護衛対象と同じ女性であるため、部屋の中での護衛をセバスチャンという執事みたいな執事に言いつけられたので部屋の中で一緒に居ると、宿屋の人に風呂が沸いたから、入浴できる。と言われた。お嬢さんに伝えると、いっしょに風呂に入りましょう。と言われた。平民と同じ風呂でよいとは珍しい貴族だ。
今日の女性の宿泊者は私とリリーの二人だけ。なので、女湯は実質貸切だ。脱衣所で服を脱ぐと、私の弛んだ体とは大違いのリリーの引き締まった体が拝めた。腹筋が割れてる腹はカッコいい。体を洗う姿が見れたが、引き締まって余分な肉が無いからどのポーズもかっこよく見えたのは不思議だ。
お嬢様が服を脱ぐと、やはり体つきは豊満な女性のそれであった。そのためか、腹が弛んで肉が出ているのさえ自分が持っていない女性的な何かに思えた。が、眺めるだけだ。なお、確かに胸や尻が垂れかかっている等の太り過ぎの弊害は見受けられたが、それでも体を洗う姿は背徳的な魅力の様な何かを感じた。
風呂に入りおっぱいが浮力によって勝手に浮くのを感じつつ、疲れをとる。リリーも割と疲れていたようで随分と癒されているような顔をしていた。ところで、夕食前に風呂に入ったせいか、湯船につかると余計にお腹が減った気がするのは気のせいだろうか。
身長の関係で見下ろす形で見てばっかりのお嬢様の顔だが、こうやって真正面からみると思ったより幼いかもしれないと思われた。が、そのちょっと前に浮かぶ2つの小島を見ると、若くても17歳ぐらいかな。と年齢を推察する。引退して太ったら自分もこうなるのかな?と風呂上りのお嬢様の体を眺めながら思った。
風呂から上がり、体をふき、着替え、部屋に戻った。体を拭くのをリリーさんに手伝ってもらったので,
お返しとして手伝ってあげたが、見た目通り、筋肉質で固い体をしていた。もしかしたら、兄たちよりも脂肪の無い体かも知れない。
お嬢様のお体を拭いて差し上げたら、感謝されてさらには拭いてくれた。これは素直にうれしい。なお、部屋に戻ると、すぐに夕食が出された。お嬢様と同じ量の、高級料理がたくさん並んでいる。「毒見などは必要ですか?」同じ料理という事はそういう事だろうか。
「毒見って、これは、この宿の方のサービスみたいなものよ。さ、冷めないうちに食べましょう。」伯爵家の庇護の下存続してきたこの宿が裏切る訳はないので美味しいうちに食べるに越したことはない。特に、この宿は普通のパンと一緒に出してくれる菓子パンが美味しいのでおかわりをたくさんした。
これが貴族の食べる料理なのか。と、興味深いと思ったのは最初のうちだけ。徐々に、美味しさに心を奪われてしまった。菓子パンは食べ過ぎると太ってしまうのは理解していた。が、お嬢様につられてちょっとぐらい大丈夫、と思って、3個おかわりして食べてしまった。よくよく考えれば食べすぎだ。
夕食を食べ終わり、就寝準備なども終わったので今日はおしまい。私はベッドで眠らせていただく。リリーさんはもう少々何かする事が有りそうな雰囲気だったので、やるべきことがあるならやっておきなさい。とだけ言っておいた。
座っているだけだったのに、一日を通してお嬢様につられて明瞭なカロリーオーバーなので運動を今さらながらやる。が、うるさくできないので、基礎的なトレーニングをいくつか静かに行う。お嬢様も、やれと言うのだから、やっていいのだろう。そうして、私は一汗かいててから寝た。
実験要素の強い、変な作品を3話も読んでいただき、感謝感激です。
残念な点が多い作品ですが、可能であれば、↓の星などで筆者に反応して頂けると、筆者が喜んだり反省したりします。
なお、3話目は、2話目と違って、視点変換のルール変更が既に登場している人物同士ならまだ大丈夫かもしれない。という実験と、短いスパンでの視点変換でどこまで人物像を描写できるかの実験であります。多分、筆者の腕の悪さが実験失敗の要因な気がしてきてる。反省中。