1 出発
見てみようと思ってくれて、ありがとうございます!
貴族の護衛任務というのは非常に楽で実入りの良い仕事だ。冒険者としては、年に1度ぐらいのラッキーという認識の依頼だ。そして、目の前に居る丸っこいお嬢さんが今日の護衛対象のようだ。王都から北方の領地へ帰る1泊2日の旅、職務を遂行しつつ、楽にいかせてもらおう。
集合予定時刻に目の前にやって来た女冒険者ということは、この背の高いすらっとした赤毛の方が今回の護衛なのだろうか。そっと目をやると、御者と世話役を兼ねる執事のセバスチャンは忙しそうだ。冒険者の方が依頼票を突きだしてきた。前回の苦い思い出が思い出されるので、少々まごついてしまう。
ほい、確認お願い。そんなつもりで突きだした依頼票の半券(兼旅程表)だが、このお嬢さんは意味を理解できていないのか、まごついている。教養がない貴族は一定数いるが、さすがに文字が読めずに15歳ぐらいになる人は居ないと思ったが……あ、反応した。
少々まごついてしまったが、依頼票を確認し、実際に正しい人だと確認した。「マルロー伯爵家のシャーロットです。よろしくお願いします。お名前は?」冒険者に名前を聞くと、二つ名で帰ってくるのか否かを知りたかったという好奇心が前回の苦い思い出を上回った。
「どうも。業火のリリーなんて呼ばれてますが、ま、リリーでお願いします。移動においてはどうしますかね?」自分が乗る用の馬がいなさそうな雰囲気から超楽ができそうなことに気づいたので若干うきうきして質問してしまう。なお、言葉づかいが正しくないのは直しようがないだけだ。
二つ名も教えてくれるが正解みたいね。それから、粗野な感じの言葉づかい、女冒険者ならまだ好感が持てるね。セバスチャンから今回の護衛は馬車の中で一緒に過ごすと告げられていたので、その旨を伝え、馬車の中へ案内した。
よっしゃぁ、これはスーパーイージーモードだぁ。と私は歓喜した。元より、王都とマルロー市の街道は交通量が多く、危険など存在しない上に、馬車での呑気な移動であり、給金は十分。これほどよい依頼はこの先の人生において一度もない気がしてきた。ギルドでご褒美ですといわれた理由が分かった
荷物の積み込みの確認は終わっており、私が乗り込むとセバスチャンが馬車を出してくれた。石畳の滑らかな街道を馬車はスムーズに進む。本を読んでも良いかもしれないけれど、この冒険者とお喋りをしてみたい。一体どんな冒険をしてきたのだろうか。
お嬢様と対面する形で座った。お嬢様のぽっこりお腹は座るとより強調された。胸も結構大きい。胸の方はちょっといいなって思うけれど、遺伝だからしょうがない。そんな事を思っていると「リリーさん。業火の二つ名の由来ってなにかあるのですか?」そんな事を聞かれてしまった。
取り敢えず二つ名について聞いてみようかしら。と思って質問すると、思いのほか驚かれてしまった。二つ名は自分で勝手に言い始めたり、知人友人に勝手につけられたりしてしまうあだ名の一種のはずだけれど…二つ名の由来を聞くのは珍しい事なのだろうか。
二つ名を短時間でも忘れないでくれた貴族様はこれが初めてだった。まぁ、する事が無く呑気に過ごすだけが仕事の様な雰囲気のこの令嬢は余ってる記憶領域が多いのかもしれない。「由来ですか。この剣、実は迷宮由来でして、業火のエンチャントついてるんですよ。敵を斬る時だけ燃やせる優れものです。」
武器が由来の二つ名だったのか、と納得した。とはいえ、業火のエンチャントつき武器は滅多に手に入らないという事は、迷宮に沢山潜られているのかしら?ちょっと気になったので質問してみると、若干面倒くさそうな顔をされた。
あー。いつも貴族が聞きたがる迷宮話だ。と、若干面倒くさいけれど、話し始める事にした。「この剣を手に入れたのは、王国北方にある、石柱の迷宮と呼ばれる場所の第18階層っすね。石柱の迷宮ってだけありまして、石柱が並んでるんですが、時々宝箱もあるので、それを開けたら出てきたという所です。」
リリーさんは色々はしょって教えてくれたようだ。王国北方の事はわが家の書庫にある文献が粗方教えてくれる。それには、石柱の迷宮の18階層に着くまでには、随分と苦労するはずだし、宝箱からの業火のエンチャント付き剣なんてのも滅多にない。そして18階層の危険性もそうだ。そう、追及してしまった。
ほう。思ったより詳しいなこいつ。というのが感想であった。「えーっと、18階層に着くまでだよね。そん時は剣士とヒーラー、それから魔術師と召喚術師と組んでたから、言ってしまえば魔法と使役魔物による面制圧が使えたんだよね。だから、楽だった。」
圧倒的な量の投入を召喚術師にやらせ、見晴らしの良い場所は魔術師に戦わせれば、確かにあの迷宮は簡単に攻略できる。20階層には魔術師と召喚術師が欲しがるアイテムがドロップするから、そのついでなら説明が付く。……パーティーメンバーについて聞いてはいけない気がするのはなぜだろう。
「それから、宝箱からの獲得割合に関してだけれど、まあそれは私の運の良さがほとんどだな。偶然見つけた一つ目の宝箱で偶然一発目に手に入った。それだけ。で、18階に関しては、20階へと焦る魔術師君がオーバー気味にフロア全体にデバフをかけて使い魔に任せたのでイージーでしたね。」
話を聴く限り、魔術師と召喚術師は優秀そうだ。国内屈指の危険地帯を圧倒するだけの力を持つ二人、恐らく名が知れていて王国からも何らかの首輪をはめられているのだろう。でも、この人の強さについては聞いてないな。もっと色々と話を聴きたいな。と思ってしまった。
この丸っこいお嬢様は思ったより難敵だった。どんどんと、根掘り葉掘り聞かれてしまうし、ぼやかそうとしても知識があるせいで誤魔化せない。まぁ、あまり悪い気がしないのは不思議ではあった。延々と不快感を与えないように尋問をする方法なんてのを貴族たちは勉強したりしているのだろうか?
延々と話をしていくと、この女冒険者は立派な剣客であることが分かった。話もこれでひと段落、と思ったらお腹がすいてきた。街道近くの村の村長宅で話を聴きながらの昼食のはずなので、よく実った小麦畑が見えるという事はもうそろそろということで合っているはず。
実験要素の強い作品ですが、読み通していただきありがとうございます。
至らない点など多々あったと思いますし、読みづらかったと思いますが、↓の星を使って評価するなどといった方法で作者へ反応を伝えていただけると嬉しい限りです。