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0話 プロローグ

初めまして。

ご覧頂きありがとうございます。

初めての小説投稿です。がんばります!


しばらく毎日投稿予定ですので、どうぞお付き合いください。

見慣れた景色が白く塗りつぶされた。


いつもの通学路、いつもの交差点。

何も変わらないいつも通りの日々に、

目も開けていられなくなるほどの強い光が差したのだ。


何も考える暇なんてなかった。

とにかくオレは一歩を踏み出した。

目の前で、光に飲み込まれながら、

1人の少女が助けを求めるように手を伸ばしていたから。


――助けたい。


しかしそんな想いを打ち砕くかのように、激しい衝撃が体を襲う。

なにが起きたが起きたのかわからない。


背骨が軋み、筋肉が繊維ごと引き裂かれる。

肋骨が割れて心臓が突き破られる。

口の中に鉄くさい液体が充満していくのを感じた。

血液が逆流し迫り上がってきている。


ああ、オレ死ぬんだな。

直感した。

だって伸ばした腕が、あり得ない方向に曲がっていくのが見える。

体が沈んでいく。

それは膝の骨が砕けていくからだ。



オレの人生、一体何だったんだろう。

そう考えたとき、走馬灯っていうのかな。

今までの人生が急に蘇ってきた。



子供の頃はなにをやっても人一倍うまくできた。

勉強、スポーツ、友人関係。すべてが順風満帆。

テストも運動会も主役になれたから大好きだった。

でもそんな満帆さも中学生になる頃には萎み始めた。


自分がなんでもできるスーパーマンからどんどん平凡な存在になっていくのがわかった。

スポーツも勉強も、すごいやつはどんどん別の世界に突き進んでいく。

それなのにオレはいつまでも同じところに立っていた。

オレはすごいやつじゃなかったんだ。


だけどオレだって自分が取り残されていくのをただ見ていた訳じゃない。


負けたくない。

そんな思いだけを抱いて誰よりも努力した。

ひたすら頑張った。



たとえば部活だ。

色々あってオレは陸上部に入っていたから、

休む間も遊ぶ間も惜しんでひたすら練習に明け暮れた。

小学生の頃はクラスでトップクラスに足が速かったから、

あの頃の自分に戻れるように、誰よりも速く走れるように。


わずかゼロコンマ数秒のタイムを縮めるために、それだけを目的とした筋肉を作って体をいじめ抜いた。

胃液が遡って、肺が破れるような思いだって何度もした。


それでも絶対に超えられない壁があった。

オレがひたすら練習に明け暮れた時間をあざ笑うように、

いつも遊んでいたようなやつが簡単にオレのタイムを超えていった。

努力しているやつに負けるならいい。

でも練習もせず、遊んでいるようなヤツに負けた。


至極単純な勝負。どちらがより速く走れるか。

そこには如実に才能という壁が反り立っていた。



だけど才能なんて物の前に今までの自分を否定されるなんてバカバカしいじゃないか。

だからオレはさらに自分を追い込んだ。

多少体が悲鳴を上げても、そんなの無視して走り続けた。

追い込んで追い込んで、走って走って……その結果、壊れた。


元々感じていた左足首の違和感は、確実にオレの体を蝕んでいた。

お医者さん曰く、もう走ることはできないそうだ。

歩くときも変に力がかからないように意識しないといけない。

じゃないと歩くだけでも激痛が走る。



結局オレの人生は何だったんだろう。

才能は努力で超えられる。

そう信じてやってきたのに、こんなところでわけもわからないまま終わりだ。


せめてなにか一つくらい成し遂げてみたかった。

オレにしかできないこと。オレだけのこと。

でももう駄目だ。

さっきまでのまばゆい光ももう暗くなってきた。

視界が閉じかけてる。


自然と先ほどまでの悲しみや悔しさが消えていく。

もうすべて諦めがついたのか。

きっと死ぬ直前はみんなこんな気持ちになるのだろう。

ここで終わる……でも仕方ない。不思議とそう思えた。


仕方ない、もうどうすることもできない。

頭はそう理解している。


だけど……


嫌だった。

なにもできずに終わりたくなんてない。

頭で理解しても、心で終わりを認めたくない。


『助けて』


不意に聞こえたその声に、閉じかけた意識を無理矢理こじ開ける。

ここで潰えるな。

潰えたら本当に終わってしまう。



目の前にはこちらに手を伸ばし助けを求める人がいる。


だったら、

せめて大切な物を守ってから散ってやる。


オレは砕けたであろう膝をさらに一歩前へ踏み出す。

膝から脳、奥歯にまで金槌で叩き潰されるような激痛が広がる。

それでも構わない。進め! 


ただ前に進め!


さらに足を踏み出す。壊した足首が爆ぜる。

それでも構わない。

自分が存在した意味をここで見せつけろ。

目の前でこちらに助けを求める、たった1人の大切な少女を救いだせ。


あと一歩、あと数センチで彼女に届く――千切れてでも手を伸ばせ。



その時、今までの光が失せ、すべてが暗転した。

真っ暗闇。

痛みも苦しさも、音や血の臭いまで消える。


その瞬間にすべてを理解した。


オレは、死んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――



なにも見えない。真っ暗闇で上下も左右もわからない。

動いている? 浮かんでいる? 沈んでいる? 

そんなことも感じることができないけど、不思議と居心地はいい。

これが死後の世界っていうやつなのだろうか。

もしそうなのだとしたら、このまま何も考えずにすべてを放り出して眠っていたい。


『本――、―けて――すか?』


けれど、声が聞こえた。

その声を聞かなくてはいけない気がして、耳を澄ます。

『本当に、助けてくれますか?』


か細い、今にも消えてしまいそうな少女の声。

どこか優しさと悲しみに満ちた安心できる声。


――助けたい。


もしもオレにまだ出来ることがあるのなら。

その声に頷く。

とはいえ体があるのかもわからないから、頷いた気持ちになっただけだ。


『どんなに辛くても、苦しくても、それでも……』


辛いのも苦しいのも、もちろん嫌だ。

それでもこのまま何も出来ずに終わってしまう方が怖い。

ここで負けてしまったら、今までの自分を否定することになってしまいそうで。


自分を取り巻く居心地のいい暗闇の中、

いつまでも漂っていたい気持ちに鞭打って力を込める。


するとわずかに世界が動いた。

そして遠くにほのかな光が浮かぶ。

その光に意識を集中すれば、微かに見えたのは人影だった。

具体的にどんな容姿なのかはわからない。

わかるのは、ただ白い色をした少女ということ。


――助けるから。


そう伝えると、少女は微かに微笑んでくれた気がした。




お読み頂きありがとうございます。

楽しい、楽しそう、と少しでも思って頂けると幸いです。


ぜひブックマーク&評価&感想もよろしくお願いいたします。


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