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第91話 原因

カウスの屋敷に到着するなり、リザルは屋敷の武装したエルフたちに切りかかった。

あまりの突然の出来事に成すすべもなく切り伏せられていく。

すぐに屋敷の前に陣取ると勢いよく扉あけ、わざとバタンと大きな音がするようにした。


「家令!」


「お館様の御前ですよ、静かになさってください。」


そういって家令はリザルに切りかかった。


「くふふ、さっきの騒ぎを聞きつけて、もうここにカウス様はいないよ。残念だったな。しかし、あの魔獣を打ち倒すなんて、まったく恐れ入ったよ。こんなところに長居は禁物、さらばだ、若様。」


家令が屋敷の奥の暗がりに姿を消す。


「この奥に、祭壇のような場所があります。そこに向かいます。」


リザルの言葉にエクサが聞き返す。


「リザルさんよ、なんでそこに行くんだ。」


「父が、カウスがよく悩みなどがあるときにそこにこもっていましたから、今回も。それに、カウスが逃げるにはまだ時間がかかるはずです。まずは祭壇に向かいます。」


「了解。」


屋敷の中は武装したエルフでなかなか進ませてもらえなかったが、獣人族2名の働きで、主に、屋敷が壊れても構わない、と聞いていたティゲルとカトルの絶大な力を前にいくら武装したエルフでも歯が立たなかった。

屋敷の裏出口から出て、教会のような作りの祭壇のある小屋に一行は向かった。

中に入ると家令が待っていた。


「おやおやもうここまでおいでなすったか。せがれさんよ。俺はなぁ、退屈してたんだよ。血の海、見たいじゃないか。それを、そこにおわします我が主様は次から次へと見せてくれたと。時にはティーヴァとして、時にはフーマンとして。心地の良い日々だった。だが流石に年を取りすぎた。体がいうことをきかなくなってなぁ。家令として、雇ってくれたのさ。侵入者なら殺しても構わん、と。ここでも夢を見させてくれる主様に、俺は心底惚れたのさ。」


家令が自身の武器を解き放つ。


「だからよぉ、俺の楽園を荒らす奴は、死んでもらうしかないよなぁ!」


家令は多重に分身し、その像全てがリザルに襲いかかった。

セルヴェがリザルをかばう様に立ちふさがったその眼前で戦槌が真横に振り抜かれ、一気に分身が消し飛ばされた。

壁に激突する家令に容赦なく、カトルが戦槌を振り下ろす。

教会の床が戦槌を中心にひび割れ、窪む。

戦槌の下から鮮血が流れ出してきた。


「それ、的が増えただけだべ。」


これでカウスへの障害はすべてなくなり、ゆっくりと祭壇に近づいていく。


”皆、聞こえるか。”


クレイブの声が教会にこだまする。


”そこの祭壇のエルフ、お前は知っているな。戦争が起こった理由を。”


祭壇のエルフはゆっくりとうなずいた。


”起こした理由、と言っても良いな。当事者なのだから。”


クレイブの声がやんでしばらくの静寂のあと、ぽつぽつとカウスは語り始めた。

昔、まだ戦争が始まる前

神は私以外に、男神と女神がいた。

どちらも容姿端麗で、神同士お互いに存在を認識している程度だった。

ある時男神と女神がこの世界に降り立つと、人族、エルフ族、魔族、獣人族、さまざまな種族から歓待された。

男神と女神は何度も歓迎を受けるうち、赴いた場での待遇が徐々に淫らになっていき、酒池肉林の宴と化していった。

種族は怠惰した。

ただそれでは生きていけない。

位の高低があらわれ、高いものはただ起きてはありったけの食事と性交で欲求を満たすだけの生活となり、低いものは高いものの命令で奔走し、痩せ細りやがて死に至った。

男神と女神はこれを正すことができず、また男神と女神は性行為にのめり込むものたちが後をたたないことに興味を持ち、体の関係を持つようになった。

ハマってしまったのだ。

男神と女神は高位のもののもと行っては酒池肉林を楽しみ、行為も激しさを増していった。

私はそれを憂いて、男神を太陽に、女神を月に、追放したのだ。


幾年かたち、女神が再び世界に降り立った。

贖罪だったのだろうか位の高低に関係なく平等に、ある程度は低いものに手を差し伸べるように世界を回った。

そんな中、女神は求婚されてしまう。

人族の王、魔族の王、エルフ族の代表、3名からだ。

女神は断った。

だが、自分のものにしようとそれぞれ女神に迫り、ついには恋敵に戦いを仕掛けるようになっていった。

女神は憂いた。

自分がまた世界に降り立ったことで無用な争いが起きてしまっている。

自分はこの世界を狂わせる存在なのだ、と。

女神は月に帰ってしまった。

3名は激昂し、女神を我が物にできなかったのは恋敵のせい、とそれぞれ宣戦布告し、戦争となってしまった。


「こんな、こんなどうでも良いことに・・・!種族を振り回して・・・!」


リザルが唇をかみしめ、血が滴る。


”してこの戦争、どう決まりをつけるつもりなのか、伺いたい。”


「女神は、帰ってこないのか?」


”世迷言を。まだ夢現なのか。女神は貴様らと一緒になることはない。彼女が愛しているのは男神だけだ。”


「そんな!わたしは!仕方なく娶り、子を成した。私がダメでも私の子なら!私の意思を継いでくれると!それがお前だ、リザル!」


「父上・・・私は仕方なく出来た子、と言うことでしょうか。やはり間違っている!そんなことのために戦争をするなんて!私がこのエルフ族の始めた戦争に、終止符を打ちましょう!」


激情にかられ、剣を鞘から抜き去り、カウスに向かって構えた。

剣身が震える。


「やはり私は正しかった。あなたの行動全て、ずっと疑っていた私が!父上、いやカウス!覚悟おお!」


リザルがカウスに向かっていく。


「や、やめろ!お前も、あの人の姿を見たら考え」


ザン、と言い終わる前に首を刎ねられ、頭部がごとっと音を立てて落ち、声として生み出されなかった音が口の形をつくり動かしている。

やがて頭部は目を見開きながら、動かなくなった。


「これで、皆も救われる。」


リザルは、歯を食いしばりながら泣いていた。

そして自分に突き立てようとした刃を、セルヴェが素手で制した。


「死んでしまうことが責任の取り方ではない。生きて、この間違った道を歩まされてたエルフたちを正しい道に導いてください。」


その日エルヴス領首都エルフェンは、戦争の始まりから指揮していた族長が死亡、反戦争派が次期族長となったことを公表し、エルヴス領は戦争から手を引く声明を各領に出したのだ。

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