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第90話 対ブラークテスディス戦 大詰

バーゴオオンと音をあげて左から右にブラークテスディスの頭が弧を描くように回り、自身の甲羅に頭を打ち付けた。

四肢が力を失い、小山が地面へと崩れ落ちる。


「この機を逃すな!叩き込め!」


リザルの声がこだまする。

戦士たちはリザルが言うのが早いか自身が動くのが早いか、ブラークテスディスの体を登り、柔らかいところにありったけの攻撃を加えた。

まず、リベンがずっと狙い続けていた尻尾が爆風でちぎれて飛んでいく。

その痛みに目を覚ましたのかブラークテスディスが起き上がろうとしたが、ヘルトの斬撃が後ろ足の一本を飛ばした。

血染まるヘルトを見て、近くにいたティゲルが少しばかり戦慄する。

片足では踏ん張ることができず、大きな音を立てて足のない方に崩れる。

崩れたところで左前脚をセルヴェが渾身の一撃で刎ね飛ばした。

鮮血が3か所から飛び散る。

もう動けまいと死を悟ったブラークテスディスはフロスコルムを唱え、甲羅ごと、周りにいる戦士ごと、勢いよく氷の柱で持ち上げた。

あまりの勢いにまともに立っていられず、逃げ遅れてフロスコルムに持ち上げられたのはアベンとマーセン、ヘルト、リザル。


「ここからの高さから落とされたら、お前も助からんぞブラークテスディス!」


マーセンの声が聞こえているのか、ブラークテスディスがにやりと笑ったような顔をした。

雲にほど近い場所ほどの高さまで持ち上がると、柱が音を立てて軋み、割れて、霧散する。

重く流線型の甲羅が戦士たちよりも速く、地面に向けて落下し、加速して甲羅の先から地面にたたきつけられた。

地表から土を巻き上げ、土埃が部隊を空地表にかかわらず襲う。

落ちるカトルにエルフが集まり、つかまって地表にたたきつけられるのを待っている。

落ちる先に甲羅が粉々に砕けたブラークテスディスの肉塊が広がっている。

落下地点にあるブラークテスディスの甲羅の破片が落ちてくるものを切り刻んでしまうだろうし、どかす時間がない。

反重力魔法と慣性制御の魔法を同時に行使する高等な技術を使えるものはなく、オムやマギローブが右往左往して方法を模索している。


「万事、休す!」


セルヴェが叫ぶようにして言った瞬間だった。

黒い空飛ぶ2体の何かが滑空するリザル達と一緒に滑空し、2名ずつその胴体に括り付けると、そのまま下に向かって飛び、上体を徐々に地面に水平になるように起こして、地表面すれすれのところでなんとか水平となって空の方へと飛んでいった。


「遅くなってすまないな。」


「ウィリス!サヴィーヌ!」


モービルが着陸する。

バーリはリザルに駆け寄り泣きながら抱きついた。


「うぐ、孤児たちは、ひっく、全員無事です。うわああん。」


「お前さんたち、よくやったな。こんな大物を仕留めるなんて大したもんだ。」


ウィリスが部隊全員を労った。


「だれだべ?このおっさん。」


カトルが首をひねる。


「申し遅れたな。ティーブ領タフト家のウィリスだ。」


「んー?タフトー?誰だべ。」


「はっはっは。知らんか!そりゃあいい!はっはっは。」


「しかし、なぜウィリスさんがここに?」


「それは、ワタクシたちの預けた武器に不足がないか、使えるかどうか見に来たのですわ。」


「うむ、山奥の方も見てきた。見事だったな。そしてここも、皆素晴らしい働きだった。武器を工面した我々も鼻が高い。それに、最後には私自身も役に立ったようだしな。」


「ありがとうございます!」


「うむ、それでは私たちはこれで失礼するよ。本来ここにいてはいけないからね。今度私の家でじっくり、話を聞かせてもらうとしよう。」


モービルを起動したタフト夫妻は、また会おう、と挨拶をして去っていった。

部隊は、誰も欠けることなく、ブラークテスディスを撃破した。



「アベン!」


「母さん、俺。」


「ああ見ていたよ。お前の母ちゃんだなんて、なんて鼻が高いんだろうね!」


アベンの母がアベンを抱きしめる。


「よくやったよ。最期に、息子の雄姿が見られて本当に、良かったよ。」


最期、という言葉にアベンの肩がびくっとなる。


「最期、なんだよな、このままじゃ、だめんだろうか!」


アベンの瞳から涙がこぼれる。


「・・・駄目だよ、アベン。私は死んだんだよ。孤児の親もみんな、死んでしまった。でもこうやって奇跡に近いことが起こった。神様が少しだけ、私たちに時間をくれたのさ。これから強く、生きてもらうためにね。」


「ああ、わかってる。わかっているのに。」


「ありがとう、アベン。いつかまた生まれ変わったら、そうだね、これから生まれてくるお前の子供にでもなれたら、どれだけ幸せだろうね。早くいい人を見つけて、私を安心させておくれ。」


「・・・ああ、でもあまりモテないのは、母さんもよく知っているだろ?」


「そうだね、あんたモテなかったね!でも、大丈夫だよ。戦士として、腕が立つじゃないか。自信を持ちなさい。あの魔獣を倒したんだ。引く手数多だよ。」


アベンと母親は離れて立った。


「さあ、お願いします。私を連れて行っておくれ。」


エクサがフロアトで準備した魔法陣を発動して、光の中へといざなう。

既に肌着を着ているもの以外の浄化はエクサの手で済んでおり、残すは肌着をきるものたちのみとなっていた。

アベンの母が光に包まれ、光の玉となって天へと帰った。

孤児たちの両親も、次々に魔法陣に入り、天へと帰る。

アベンの村とは別の村人があと十数人のところで像が粉々に砕けてしまった。


「おい、そんな。もう神気を帯びた像は残っていないぞ。まいったな。」


境界近くで立ってみていたコサックが、こぶしを握り締め、荷馬車にある神気の剣を持って来ては境界を越えて、剣を握り突き立てた。


「コサック君、それも像がなければできないんじゃなかった?ほら、こっちに。」


シビルが心配そうに剣を握るコサックの手の上に、手を重ねた。


コサックは目を瞑る。


「・・・。」


「ん?なーに?」


「今できなきゃいつできるんだ!」


コサックが目を見開き、握りを持っていた両手を放して、刃に両手を押し当て切り傷をつくり、流れた血が剣身にしたたると、神気の剣が光り輝き始めた。

今まで以上の範囲が光に包まれ、残っていた十数体のフィルシズを同時に光の玉に変えた。

光に包まれたまま、神の息吹が起こり、あたりは草原から見る見るうちに背の低い林のような場所に姿を変えた。

神の息吹が終わると同時に、浄化の光が失われた。

ばたっ倒れる音がする。

コサックがまた昏倒してしまった。

今度はすぐに目覚めることがなかった。

息はあり脈もある、体温こそ考えられないほど冷たくなってしまっているが、生きていることは確かだ。

この地の転移石を作っていたオムがエルフェンへの転移石を使い、部隊全員をエルフェンへと運ぶ。


「ワシらはこのまま辺境伯の屋敷に戻るぞい。コサックを診ねば。」


そうオムがリザルに伝え、オムたちが転移していった。


「バーリ、アベンにリベン、子供たちを孤児院に頼む。」


「あ、ああ。」「わかった。」


「あなたは?」


「このままカウスの屋敷へ向かう。引導を、渡してくる。」


いつになく決意のこもった瞳を見たバーリは身を引き締め、凛として夫の出発を見送る。


「わかりました。お気をつけて。」


「セルヴェ、ティゲル、カトル、マーセンも私についてきてくれるか。」


「おうよ、主様。」「同盟の行く末、見届けさせてもらう。」「ああ、他に仕事はない、構わないぜ。」「おいらも、ついていっていんだべか。」


鬼気迫る表情のリザルに2名のエルフと2名の獣人族が付き従った。

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