第9話 戦闘
にわかに監視都市の方が騒がしくなった。
雄が警戒し気配を伺う。
様子から、監視都市が何者かに攻め入られているようだった。
攻撃側の数は10ほど、その中の一つが身震いするほどの気配を放っていることを感じ取った。
雄が駆け出す。
雌も籠を咥えて雄の後を追い、子供たちもそれに続く。
梟は木々の上に出ないように舞い上がる。
監視都市と外とを繋ぐ跳ね橋が見えた。
速度を落とし身を潜めると同時に跳ね橋が勢いよく降りて大きな音を立てた。
跳ね橋の前に10人。
跳ね橋の柱の上に、梟が降り立った。
魔狼たちと念話を繋ぐ。
『人族が大半を占め、魔族が混じっている。魔族の前に魔狼がいる。大きい。』
雄が跳ね橋前の魔狼を見る。
『あの大きな魔狼は!』
雄が唸る。
「ここを潰しに来たぜ、同族さんよぉ!このアルトゥムカニスの親玉を前にしてどれだけ抗えるか、見せてもらうぜ!行けオラァ!」
梟が魔族といった人型の種族が大きな魔狼に右手を前に出しながら命令した。
大きな魔狼が悶えながら命令に従い、橋の上を駆けて監視都市内部に向かう。
人族に寝返った魔族を先頭に監視都市に攻め入った。
種族に対する矜持など戦争が激化し長期化するにつれ薄れていき、全線で戦うものにとっては待遇の良しあしや殺戮や虐殺への期待から、寝返ることはもはや当たり前になっていた。。
(跳ね橋が下がっている。中にも仲間がいるようだな。)
コサックが考えている隣で、突然雄が遠吠えをした。
大きな魔狼が遠吠えのする方に目をやり、無理やり立ち止まって遠吠えを返した。
「ちぃ、仲間がまだ残ってやがったか。群れは潰したはずだぜ。まあいい、今はここを落とすのが先だっ!」
魔族が大きな魔狼に命令し右手を向ける。
再び大きな魔狼は内部へと駆け出した。
雄は跳ね橋とは全く別の方向へと走り出した。
雌と子供たちは目で雄を追う。大きな魔狼は合図を出していた。
『群れがこいつらによって惨殺された。まだ残っているものがあるかもしれない。場所はここから遠くない。探せ。』
大きな魔狼からの遠吠えに雄は従い駆け出した。
母親の雌たちは群れから追い出されたみであるため、動かずに跳ね橋を注視している。
『火だ。所々で燃えている。こちらに逃げている人族?魔族?がいる。魔狼の爪撃に倒れていく。体がバラバラに転がっていく。血の海だ。なんだ?大きな魔狼は苦しんでる?』
梟が見たままを伝えてくる。
『ここは、だめ。母さん、逃げ、よう。』
コサックが雌に言った。
雌はコサックを見て頷くと籠を咥えて梟に監視都市から離れることを伝える。
梟が飛び立つのを確認して魔狼たちは全力で離脱する。
梟は見ていた。
攻撃側が監視都市を蹂躙し種族を無惨に殺していくのを、それを待っていたかのように不浄の地の侵蝕が加速し拡大するのを。
攻撃側がやってやったとばかりに恍惚の表情で跳ね橋のもとに戻ってきた。
すぐそばに不浄の地が迫っていた。
同時に、雌たちが退けた魔鳥のなれ果てが攻撃側の前に飛来した。
攻撃側が戦慄する。
「なんだこいつは!まあいい、蹴散らして本部への道を開くぞ!」
魔鳥は以前対峙した時のようは狂った感じはしなかった。
ただ相手を見据え、捕食の機会を窺っているように見えた。
人族が不浄の地に入り、魔鳥に向かっていく。
魔鳥に剣や槍がつきささった。
魔鳥は何事もなかったかのように、刃物が刺さったまま飛んでいる。
一歩二歩と人族が後ずさった。
魔鳥が動いた。
瞬く間に人族の目の前に移動したかと思うと、魔鳥は1人の人族を咥えそのまま丸呑みにした。
魔鳥に一切の攻撃は効かなかった。
逃げようとした人族が、不浄の地は跳ね橋から先、監視都市の中心に届く勢いで広がっていることに気が付いた。
もはや逃げ場はない。
魔鳥はまた1人、また1人と飲み込んでいく。
最後に大きな魔狼を従えた魔族と対峙する。
魔鳥は魔族を、というより魔狼の出方を窺っているようだった。
「この都市さえ落としてしまえばディーヴ領の崩壊など問題だな・・・。おいアルトゥムカニス!俺を乗せろ。本部へ戻る!」
魔族は大きな魔狼に跨ると監視都市のど真ん中を突っ切り、そのまま姿をくらました。
魔鳥は追うことはせず、不浄の地の奥へと飛び去った。
不浄の地が監視都市を飲み込んでいく。
雌たちは監視都市が炎と不浄の地による浸蝕で変わり果てていく様を、ただ見つめていた。
アルトゥムカニス:銀色の毛並みをした魔狼。銀の学名argentumとイヌの属名のCanisを参考にしました。
アクシピトリ:鷹。タカ目の学名Accipitriformesを参考にしました。




