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第87話 神の息吹

当初危惧していたより、浄化は滞りなく進み、不浄の地はその範囲をどんどん狭めていった。

コサックが剣を持って魔法陣を展開し、陣を囲むように光の柱が上下に伸びているところに、村長をはじめとするフィルシズを放り込んでいく。

陣の光に照らされたフィルシズたちは浄化され、天へと帰っていった。

狭まると同時に浄化に参加していない者たちも進んで、境界から外でその浄化の様子を見ていた。

1時間ほど過ぎたあたりで収縮が加速し、境界は速度を上げて移動し始め、境界を追うものたちはほぼ走っていないと追いつかないほどとなった。

コサックが剣を突き立てることより、生者を狙ってとびかかってくるフィルシズは、あたかも飛んで火にいる夏の虫のごとく、攻撃を加える手前で浄化されていった。

それほど剣の魔法陣の範囲は広がっている。

やがて反対側にエクサの姿が見えるくらいまで、不浄の地が収縮した。


「もうわかる、残っているのは我々だけだ。」


コサックが剣を突き立てるのをやめ、浄化の魔法陣の光が霧散する。

流木は灰のようになることなく、何事もないようにそのままの形を残している。

不浄の地の収縮はとどまらず、やがてエクサと合流し、魔法陣一つで浄化することとした。

1名ずつ見送る。


「リベン、まさかこんな時が来るとは夢にも思わなかった。本当にこれで死ぬことができる。最期に皆の手伝いができ、もう思い残すことはなにもない。ありがとう。我々を救ってくれてありがどう。」


村長が魔法陣に入り、光に包まれ、光の玉となって天に昇って行った。

リベンが握手を交わして旅立つ者たちを見送る。

4組の家族は、これが本当の最期と、泣く子供たちを言い聞かせて、別れの言葉を告げている。

素直に親の言うことを聞いて離れるもの、最後まで抱き着いて離れようとしないもの、手を離すことができないもの、最後には孤児全員が魔法陣の前に並び、泣きながら家族を見送る。


「それでは皆さん、リザルさん、子供たちのこと、よろしくお願いしますね。」


言葉を残し、光となって去っていく。

全員、浄化が完了し、不浄の地が完全に消滅した。

草木が時の流れを無視して茂り始める。


「始まったぞい。」


この地で起こったであろう歴史が目がぐるしい速度で進み、葉の香る夏前の季節で止まった。

突然の出来事に今まで泣いていた孤児たちは驚きのあまり泣くのを忘れ口をあんぐり開けて呆然としている。

それはこの光景を始めてみる者たちと全く同じ表情だった。


「神の息吹・・・。」


リザルが呟く。


”コサック、聞こえるか?”


「クレイブ!」


”また、この短期間に浄化を成功させたようだな。私も嬉しいよ。”


「ああ、そっちに行った人たちのこと、よろしくね。」


”ああ、任された。輪廻転生に乗せる。それと今見ていて気がついたことなんだか、いいか?"


「なんだ?」


"コサック、自身に神気が宿っていると感じることはないか?"


「いや、わからん。」


剣と流木を交互に見る。


"神気はそれこそ神に近い存在にならねば宿ることはない。魔力のようにそこら中にあるものでもない。祈りを捧げているものも、捧げる対象となることで神格化し、初めて神気を帯びる。その剣も神気を帯びているはずなのに、他2名は使えなかった。もしコサック自身に神気を宿しているならば、剣が共鳴して魔法陣が発動したこともうなずける。そして発動中、不浄の地ではコサックに傷をつけられるものはいないということだ。となると、その後のことを心配している。これをやつも見ていて、ここでのことなど考える時間は余るほどある。"


「やつが新たにフィルシズに力を与えると?・・・ない話じゃないな。」


"ああ、そうだ。今後の浄化が厳しいものにならないことを私から祈ろう。悪いがそろそろ時間だ。また話そう。"


「ああ、またな。」


皆が天を見上げ、声がしなくなると、次にコサックを見た。


「う、うわぁ。」


いきなりコサックの体が持ち上がる。

カトルが軽々とコサックを肩車して小躍りしている。


「神のつかいだったんけー?ここもこんなにしちまうし、すんげーなー。」


リザルたち討伐隊は、リベンの村まで戻ってきた。


「オムさん。不躾で申し訳ないのですか、頼みを聞いてくれませんか?」


リベンとオムが何やら話している。


「ほっほっほっ、問題なかろう、ここで良いか?」


「ええ!お願いします!」


リザルはオムから何かを受け取っていた。


「皆さん、よろしいでしょうか。私たちはヴェノセルペンテスを打ち倒し、不浄の地の浄化をも行いました。次に向かうはブラークテスディスのいるエルヴスの西の端に向かいます。ここからかなり距離があり、長旅になると思いますが、気を引き締めて体調に気を付けて進みましょう。」


勢いよく手をあげるヘルトにリザルが気付き、ヘルトの発言を促す。


「すぐにここを発ちますか?」


「あ、いえ、何か用でも?」


「食料を調達したいのですが、30分もかかりません。ここで待機をしていてほしいのですが。」


「わかりました。旅の往復分、お願いします。」


「承知!」


するとすぐにヘルトは空となったストラジを数個担いで、リベンを連れて転移石でエルフェンのリザルの家に戻り、市場への買い出しを行った。

30分後、宣言通りにヘルトとリベンが帰ってきた。

孤児たちもヘルトを手伝おうと手を伸ばし、ヘルトはストラジを渡して荷馬車に乗せるよう指示をした。


「本当にいい子たちだな。すみません、リザルさん、準備できました。」


「わかりました。それでは向かいましょう。」


部隊は、山裾の緑が深い廃村を後にした。

当初の隊列のまま、エルフェンを西へと進んでいく。

魔獣の量が増え、魔獣大陸に近くなるからなのかその強さも増していく。

しかし、部隊は4日ほどの行程をよどみなく進み、次の目的地であるエルヴスの西の端にたどり着いた。

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