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第83話 対ヴェノセルペンテス戦

部隊は日が昇ると当時に動き出した。

大樹に近づくとそれはどんどん大きさ広さを増し、数千年は生きているだろう偉大さ、歴史を見てきた聡明さ、また根元の養分はすべて自分の物というような高慢さも合わせたような、そんな印象を与える大樹の根元にたどり着いた。

荷馬車にあるストラジを孤児を使って次々と置いていく。

ストラジを置き終わった後で、ヘルトが皆の目の前に自らの収納魔法に入れていた、ストラジに入りきらなかった武器防具を置いていく。


「皆さんにはこれからここにある防具をつけて戦っていただきます。防具には魔法付与されていますので、つければすぐに発動します。皆が、孤児も含めて防具で身を固めた後で、マクシムさんに出発していただきます。」


ヘルトがお試しにと、自ら防具を身に着けて付与効果を確かめさせた。

マーセンが眼鏡のような道具を使ってヘルトを見る。


「おお、毒無効じゃないか。麻痺無効も。こんなものどこで手に入れたんだ。結構あるんだな。昨日の嬢ちゃんの支援、回復いるのかね。」


「まあやつの攻撃で魔法付与が消えてしまうと大変だからな。今回の相手はそれだけの相手だろう。」


「そうか。防具が壊れては無効もへったくれもないものな。」


なるほど、とみるのを止めたマーセンが自分に合う防具を選び始め、身に着け始めた。

マーセンのあとを追うようにアベンとリベンが防具を身に着ける。


「なあリザル、お互い頑張ろうな。」


エクサはすでに適当に防具を選び終わっており、じゃあなとシャーロットの方に歩いて行った。

するとシャーロットから何か言われているようで、エクサの背中に少しの哀愁が漂い始める。

お互い妻を持つものとして、なんとなくリザルは理解してしまった。

頑張ろうな、は魔獣討伐に向けた言葉でないことを。

カトルに合う防具もすぐに見つかり、自身にほれぼれするようにポーズを決めていたが、無理やり被った兜は角で穴が開きすでに壊してしまっていた。

これらを準備していたオムは、ウィリスのところの兵長がかなり有能な存在であることを今日思い知ったのだった。

孤児たちやバーリ、シャーロットも防具をつけ終わった。


「皆さん、防具はよろしいですか。次は武器です。自分の使う武器を選んでください。」


ヘルトがまた最初に武器、剣を手に取ると少し魔力を剣に込め、剣身が炎に包まれる。


「攻撃魔法付与の剣かい。」


マーセンとリベンの開いた口が塞がらない。

アベンがおもむろに自分の武器である弓などを探し始めた。


「これは。」


「それは矢の飛ぶ速さを向上させて、あたりの時に鏃が爆発するようになる弓よ。」


シビルが武器の解説をする。

アベンはすぐに気に入り弓を手に戻る。


「おいらはー、お、これはおいら向き。これにすんべ。」


カトルが戦槌を軽々持ち上げ背中に背負う。


「武器もよろしいですか?では、どこから現れるかわかりませんがなるべくこの大樹から離れましょう。ティゲルさん、マクシムさんがやってくる方向に皆さんを誘導してください。そうしたら、ここでの戦闘を開始します。」


マクシムとミハイル、キリルが大樹の後ろ側にあたる森に勢いよく入っていく。

とはいえ大樹から森までそれなりに距離はある。

しばらく静寂が続く。

30分ほど過ぎたとき、突如山が揺れるような轟音が鳴り響いた。

粉塵を上げ木々がなぎ倒されていく。


「これは!」


「こんなの!俺の誘導なしでもわかんだろ!」


ティゲルが後ろに控えているものたちに向けて叫ぶ。

なぎ倒される木々、吹き上がる土煙の中心にうごめく巨大な影。

大樹めがけて直線的に向かってくるその大きな山雪崩が、魔狼たちが出てきた目の前の平原と森の境界を破壊し土煙で包まれる。


「この煙を、どけてくれ!」


リベンが叫ぶ。

オムがすぐさま反応し、風魔法で一気に視界を晴れさせた。


「これは、でかいのう。」


ティゲルの目の前に、鎌首をもたげた大蛇が細い舌を出し入れさせて様子をうかがうように見ている。

胴体の太さはティゲルの2倍はあろうかというほど、長さに至っては計り知れない。

ティゲルは一瞬その見た目にひるんだ。

それをヴェノセルペンテスは見逃さない。

まずは1匹と大きな口を開けて飲み込もうとしたその時、戦槌が大きな胴体に振り落とされた。

続いて発動する風の刃で鱗が数枚切り刻まれ飛んでいく。

続けざまに振りかぶり、またその大きな胴体めがけて振り下ろされた。

ティゲルの目の前で衝撃に苦しみだす大蛇の顔を見て我に返り、己が爪で顔に攻撃を加えたが、固い鱗に阻まれる。

カトルの連撃に悶えながらもヴェノセルペンテス後退し、森にまた姿を消した。


「助かった。でも、お前なんでそんなところに。」


「んー?行きすぎちまったべ。」


カトルは、魔狼たちが出てきた場所めがけて全力疾走し、目の前が土煙で何も見えなくなって走るのをやめようとしたが止まれず、やっとの思い止まったらいきなり晴れた土煙と、目の前にある胴体を見て、攻撃を加えた、ということだった。


「ありがてーけど。そんな無鉄砲な。」


「いんやー、褒められても何も出ねーぞ。」


一度森に隠れたヴェノセルペンテスは今度はゆっくり森から音もなく出てくる。

弱肉強食のヒエラルキーのトップに君臨しているのはこの私、とでも言いたげにその姿はとても悠然としている。

近接攻撃専門のリベンとマーセンがヴェノセルペンテスに向かい、走り、剣を振るおうと構える。

ティゲルとカトルはもう一発と近づいた。

その時、ヴェノセルペンテスが咆哮したのか鱗を振動させ鳴り響く音が大きく、とてもうるさく発せられる。

耳を劈くほどの音に戦士たちは耳をふさぎながらも正気を保ち攻撃を加えようとしていた。

鱗の間から、肉眼でも確認できる紫色の何かが発せられ、周囲の空気を漂う。


「この鱗、邪魔!」


カトルが、肉を削ぐように胴体を戦槌で薙ぐ。

だがあまり鱗に対して効果がなくそぎ落とすことはできなかった。

リベンが異様な気体が充満していくにもかかわらず向かっていき、剣を振り下ろした。

しかし鱗にはじかれてしまう。

マーセンもヘルト、エクサも手ごたえは一緒。

カトルはまたぶっ叩く方法に変え、胴体を攻撃している。

ヴェノセルペンテスはカトルのこの攻撃に対してのみ、反応して嫌がり、むきを変えて警戒している。

首がカトルの方を向き、胴体がとぐろを巻き始めた。

カトルの戦槌の速度では、ヴェノセルペンテスの意識がそちらに向いているときは避けられてしまう。

ヴェノセルペンテスの体が山のように大きく見え始めたころ、カトルはちょうど森を背にしてヴェノセルペンテスと対峙、いまだに流れる異様な気体に包まれながらも意識ははっきりと保てている。

ヴェノセルペンテスはシャーと喉を鳴らして大きな口を開けてカトルから目を離さず威嚇し、全身からも鱗が擦れ合うのかガラガラと音を立ててる。

カトルは顔目掛けて威嚇して近づいてきたタイミングに合わせて、戦鎚を横に振った。

ヴェノセルペンテスは当たらぬとばかりに首を引き、今度はカトルに食いかかる。

カトルは空振りをしてその勢いのまま背を向ける格好になってしまった。

背中にかぶりつく!

ドゴオォン、と大きな音がヴェノセルペンテスの背中、とぐろの中から音がした。

カトルはヴェノセルペンテスの後方から駆けて近づいては弓を放つアベンの姿を、見逃さなかった。

そのまま腰を回して戦鎚に勢いを乗せ、横からヴェノセルペンテスの顔をぶっ叩く。

ヴェノセルペンテスの顔が横に歪みながら潰れるようにひしゃげ、放物線を描いて飛んでいく。

ズウウゥンと音を立てて地面に倒れてぴくぴくと体を痙攣させている姿から、脳震盪を起こし前後不覚になっていることが見て取れる。


「爆発で鱗が剥げたところを攻撃するんだ!」


マーセンが叫び横たわる大蛇の鱗が剥がれ落ちた部分に剣を突き立て魔力を込める。

彼は雷魔法が付与された剣を持っていた。

突き立てられた剣先から電流が迸る。

電流はヴェノセルペンテスの全身を大きく痙攣させ、びくびくと大きくのたうち回るように動く。

他の戦士たちも一気に畳みかけ、アベンは弓を構えながら爆風で仲間を巻き込まないように様子をうかがいつつ、周囲に影響がないよう爆風を見舞う。

それぞれが思い思いに火雷風の魔力を帯びた武器で攻撃を加える。

伸びていたヴェノセルペンテスが目を覚ますように起き上がり、先程の俊敏な動きはないがとぐろを巻いて防御を固め、頭で攻撃する態勢を再びとった。

爆発にあっても警戒を怠らず、今一番の脅威であるカトルの方をずっと向いている。

俄かに、ヴェノセルペンテスの体が光りだした。


「「「あ、あの光は!」」」


オム、エクサ、コサックが同時に叫ぶ。

大蛇を覆っていた光が霧散する。


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