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第82話 大樹

討伐のための遠征初日、孤児院の院長たちも含め、リザルの家に全員集まっていた。


「皆さん。おはようございます。本日より、魔獣討伐に出発いたします。エルフェン以外からもお越しいただきありがとうございます。武器防具は慣れ親しんだものもあるとは思いますが、魔獣討伐時にはこちらで用意した武器防具に換装していただきます。荷運びはそちらの子供たちにお願いしております。どうぞ、思う存分に暴れ、魔獣を討伐し、全員無事でここに戻って参りましょう!以上です。」


握手して回る者、我関せずで自分の準備だけ進める者、孤児たちに抱きついて泣き崩れる者、集まった者たちが思い思いに行動している。

部隊は、ティゲルを先頭にマーセン、アベン、リザル、セルヴェ、リベン、カトル、エクサとシャーロットの引く荷馬車と所狭しと乗り込んだ孤児、バーリ、オム、ヘルト、シビル、魔獣たちと続く。

ティゲル、カトル、コサック以外は馬に乗るなどして、エルフェンの中心に走る道路を部隊が練り歩く。

街民からの大きな声援と若干の悲痛な声に囲まれ見送られながら、エルフェンより討伐部隊がヴェノセルペンテスの潜む山裾の廃村へと出発した。

先頭を走るティゲルが道ゆく魔獣で襲いかかってくるものを蹴散らしていく。

昼に食事の休憩を少しとりまた走り続け、目的地に近づくにつれ襲いかかってくる魔獣も弱くなっていき、数も減ってきた。

部隊がエルフェンを出てから4日目、平原から徐々に森へと切り替わりそうなところで、討伐隊は足を止めた。

ただならぬ気配を感じ取ってか、馬も耳を前後させ警戒している。

戦士たちがリザルのもとに集まる。


「目的地までまだ距離はあります。」


リザルが馬上で揺られながらも器用に地図を手にして距離を測っている。

このままの足であれば夜には廃村にたどり着くだろう。


「夜の戦闘は避けたいのですね。」


リザルが地図をしまって戦士たちに漏らす。


「ああ、夜は避けたい。孤児たちも暗い中では嫌だろう。森を少し行ったところで野営しよう。」


ティゲルの提案に皆賛同し、隊列に戻っていく。


「この荷馬車、よく走るな。」


リベンがエクサに話しかける。


「ああ、いまより速く走っても壊れないぜ。」


「護衛についても申し分ない。馬車は正直頭を悩ますタネではあるが。杞憂で済むならそれでいい。」


リベンはエクサから離れ隊列に戻る。

孤児たちは出発してからずっと、休憩中であっても、静かに荷馬車に乗っていた。

コサックはソフィアの背中に乗り荷馬車を追いかけ、こちらを向いて座っているラベリーと何度か目があったが、ラベリーの方から視線を切って取りつく島はなく、会話を交わすことは一度もなかった。


鬱蒼とした森が行く手を阻む。

単騎であればそうでもないが、荷馬車も通るとなると、平らな道が少ない森の道は障害物だらけで、それだけで隊列の足に遅れを生む。

それに少しずつ勾配もきつくなってきている。

普通ならここで投げやりな声の一つでも飛びそうなものだったが、全員状況はよく理解しておりそれでもかまわないと了承した手前もあるのか、そういった心無い言葉が出てくることはなかった。

何より孤児が誰も弱音を出しておらず、10歳に満たない子供たちの集団にしてはあまりにも静かだった。

ティゲルが斥候を買って出るように少し足を速め、すぐに視界から消えた。

隊列は速度を落とさぬよう、現状維持をしっかり続けている。

マーセンの視界になにかが映る。

少し構えるマーセンを見てアベンも身を引き締めた。

4足歩行でこちらに向かってくる獣のようだ。

見る見るうちに近づいてくる獣をしっかり確認し、マーセンが武装を解いた。

ティゲルが先頭に合流した。


「この先でいったん森を抜ける感じだ。幹が太い大樹のある場所だが、そこで休めるか?」


セルヴェがすぐに指に火をともし、リザルに近づくと彼の広げた地図が見やすいようにかざす。


「今日はそこで休みましょう。その大樹なら廃村までもうすぐそばです。」


ゆっくり動いていた隊列に速さが戻る。

ティゲルは、荷馬車がちゃんと通れる道を選んで、多少迂回となろうとも先頭をひた走っていた。

リザルは内心でティゲルが部隊に残ってくれていたことに安堵しており、何より荷馬車が何かにはまってもカトルがなんとかしてくれるだろうとは考えていた。

獣人2名に感謝しつつ、リザルは森を抜け大樹の平原にたどり着いた。

森から少し離れ、日が落ちていなければ大樹の全体像がわかるであろう場所に定め、馬を降りて野営の準備を始めた。

遅れて荷馬車が到着すると、蜘蛛の子を散らすように孤児が降り、野営の準備を手伝おうと荷物運びを買って出ている。

孤児院の従事者たちが教え込んだのだろうが、どのような気持ちで教え、どのような気持ちで教わったのか、せわしなく動く孤児たちを見るオトナたちの気持ちは複雑だった。

食事はヘルト、バーリ、エクサ、シャーロットで振る舞い、温かい食事がとれることに皆喜んでいた。


「こんなんまい飯はじめてたべただよ。もうこれだけしかないだか?」


カトルの食欲が旺盛でエクサの持ち合わせた食料を食べつくす勢いだ。

だがエクサは食料を出し惜しみするつもりはない。


「ほら、おまんらも食べんだべ。よく食って大きくなれ。」


孤児たちに食事を勧め、自らもがっつく。

ヘルトとバーリの頑張りで全員の胃袋は落ち着き、こんなうまいもの他では食べられないとマーセンは絶賛していた。

焚かれた火の前にリザルが歩み出て、皆に明日の作戦を伝える。


「明日の話ですが、おそらく魔獣と対峙することになります。やつの潜む廃村はここからちょうど大樹の裏側にあるの森の中。廃村は今不浄の地に侵されてしまっているので今はわかりやすいと思いますが。廃村で魔獣とやりあうつもりはありません。ここにこれだけの広い、侵されていない場所があるのを使わない手はない。まずはあの大樹を目指して移動し、装備を整え、偵察またはおびき出しをここまで誰かにやってもらいたいのですが。」


『ならば我々の出番だな。』


リザルの前に出て念話を全員に送ると、びくっとなるアベンとリベン。

物珍しそうに見るマーセンとティゲル。


「犬や狼の獣人と話すことはあったが、まさかアルトゥムカニスと話すとはな。」


「マクシム、そうですか。ならこのアルトゥムカニスマジョアの群れにこの役をお願いします。装備については明日、あの大樹に到着した後で選んでいただきます。あとは、今回の魔獣ヴェノセルペンテスですが、毒の使い手です。毒を食らったと思ったら前線から退いて回復を受けてください。もちろん耐性防具も身に着けること前提ですが、動けなくなる前になるべく下がるようにしてください。以上です。」


「奴の毒、そんな簡単に解毒できるのかい?」


ティゲルが少し拗らせてやろうとばかりに質問をする。


「ええ私にかかればすぐですね。この場で一瞬で解毒して差し上げますよ。」


シビルが魔法陣で目を光らせながらティゲルの質問を一周する。


「おお嬢ちゃん頼もしいねぇ。よろしく頼むよ。」


「嬢ちゃんと呼ばれるほどケツの青い娘ではありません。シビルです、回復と支援魔法を担当します。こんなやつ、さっさとぶち殺してくださいね。」


「はっはっはっ、見た目と違って威勢がいいじゃねぇか気に入ったぜ!ティゲルだ、よろしくな!」


「んじゃあこの状況に乗じて、ぼくぁカトルっていうんだ。よろしくだべ。」


「アベンだ。」「リベン。この町の生き残りだ。」「マーセン。」「エクサだ、よろしく。」「シャーロット、エクサの妻よ。」「リザルの妻のバーリです。」「ヘルトだ。」「オムじゃ。」


ヘルトとオムが名乗ったところでマーセンが声を上げる。


「おー、戦場の勇者が2名か。ここにエクサが入るとなると、これは本当に短時間決戦が見えてきたんじゃないか?」


マーセンの目にはもう明日のイメージが映り、立ち回りを確認しているように見える。


「それでは、また明日あの大樹の下で確認しましょう。今日は明日に備えて、体力魔力を温存してください。おやすみなさい。」


リザルが言い終わると目の前の火を踏みつけて消す。

コサックがリザルのそばに行く。


「自己紹介、しそびれちゃいました。」


リザルはコサックの頭をくしゃくしゃに撫でて、しゃがんで微笑む。

無言のまま立ち上がり、その場からいなくなってしまった。


「俺はラベリーだ。」


後ろから発せられた声に驚き勢いよく振り返ると、そこには暗がりに方を向いて目を絶対に合わせない意思を感じさせるラベリーが立っていた。


「コサックです。よろしく。」


コサックが手を前に出すと、ふん、と言ってラベリーも去ってしまった。

コサックは手をポケットに突っ込んでソフィアとエレンが丸まっているところに行き、屋敷から持って出た人形や像に祈りを捧げ、ソフィアに抱き着いて眠りについた。

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