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第81話 出立

食堂で一悶着したあと、リザルはこのままタフトに約束を取り付けたいと屋敷へ向かうことを望んでいる。

日も少し影っており、約束するくらいなら、とオムからの転移石を預かってエルフ一行はタフトに飛んだ。


「おや?コサックは?」


「バーリに連れて行かれたわい。」


タフト家の中庭に着いたエルフ一行は、ウィリスを探していたところを使用人に見つかり、あっという間に手足を拘束されてしまった。


「お忙しいところ失礼いたします。ウィリス様、侵入者を拘束いたしました。」


「なに?侵入者だと!」


書斎で書物をし難しい顔をしていたウィリスが勢いよく立ち上がり、椅子が勢いで後ろにガタンと倒れる。


書斎の扉が勢いよく開き、簀巻きにされうねうねと動きギャーギャーわめくエルフと、静かになすがままのコサックがなだれ込む。


「エクサ、お前何をしとるんだ・・・。ん?おおお、コサック!おい、子供の縄は解いてやれ。」


使用人が黙って頷き、コサックの拘束を解く。

使用人が解いている時、胸元にキラッと光る何かをコサックは見かけた。

すべて解かれたところでウィリスはコサックを抱き上げる。


「すまんなコサック。この使用人も手加減を知らんのだ。それで、だ。君たちはここに一体なんの用かな?」


「面通しの約束、日時いつにするか決めようと思って転移してきたら屋敷の中庭についてウィリスを探してたらいつの間にか縛られてた。」


うねうねと動きながら説明するエクサをみて、ウィリスは仕方なさそうにエルフたちの拘束も解くよう、使用人に手で合図を送る。

拘束が解かれ、急いで立ち上がり身だしなみを整えるエルフたちを見て、ウィリスは首を横に振る。


「この私を拘束するなんて、やるわね!」


「「突然の訪問大変失礼いたしました!」」


リザルとセルヴェがウィリスに平謝りをする。


「まあいい。今日は辺境伯のところに戻るのか?予定がないなら、今日このまま泊まっていくといい。おい、部屋に案内してやってくれ。」


「かしこまりました。」


「「失礼します!」」


勢いよくお辞儀をしエルフ一行は使用人に続いて部屋を退出していく。

エルフ一行に遅れまいと足早に出ていこうとするコサックを、ウィリスは呼び止めた。


「おい、コサック。稽古はいいのか?」


「あ、はい。ヘルトさんが倉庫を立てている間にバーリさんにつけてもらうことになりました。ここに来たのはその、成り行きで。」


「そうか、お前さんならいつ来てもいいぞ、歓迎する。」


コサックはウィリスのやさし気な笑みを見て、微笑み返してお辞儀をし、失礼しますと部屋を退出した。


翌日の面通しは滞りなくことが運び、両者とも固い握手を交わしてお開きとなった。


「パトリアルチに出入りしているものはその家令をよく知っているらしい。下手にこちらの情報が漏れても困る。遣わせなくて本当に良かった。」


リザルたちはたった1日旅行に出かけただけなのにクタクタに疲れ果てている。

家に転移後、コサック、ソフィア、マクシムを客間に残して自室へと行ってしまった。


『・・・外を警戒するでいいか?』


『うん、父さんお願い。今きっとすごく無防備だから。』


さっと外に出て行く2匹、何もすることが無いコサック。

客間にある本棚を見つけ、一つ本を手に取って立ったまま読んでみる。

果実などの挿絵が散りばめられた本、どうやら植物図鑑の果実に特化したもののようだ。


(あ、これりんごに似てるな。名前はプミラ・・・あの動く木は確かマルプミラだったよな、なってるのりんごか。ん、マルプミラが付けるプミラは普通のプミラと違って甘くて美味しく、取引が高騰する、か。ふーん。辺境伯の屋敷、何もない廃墟同然だったのに、みんなが来て明るくなって、新しくなって、高級食材が自生して、トイレも変なのに替わってたし、みんなすごいな。)


パタンと静かに植物図鑑を閉じる。

本棚に本を戻し、背表紙を一つずつ見て行く。

野草図鑑

きょうの料理

大皿に躊躇わない

エルフなら一度は入りたいお店番付

エルフェンにきたら絶対に抑えておきたいお店はここだ!

卓上作法

エルフェン周辺の危険地帯・危険なもの

徐々に本棚の背表紙の文字の羅列から自分の心の声に読んでいるものが変わっていく。


(この世界にきてもうすぐ5年が経つ、文字は読めるようになったけど、魔法はこれからもずっと簡単なのしか使えない。素質がない、だっけか。前回の浄化の時はただ祈っていただけ。何もしていない。しかも最近、考え方や発言が年齢相応になってきてしまっている気がする。なんだか、自分が消えてしまいそうなそんな物悲しい感覚。着いていけると思って始めた稽古も成果はあまり出ていないようだったな。この世界の人々を救いたい、それは間違いない。だが、それだけでできることが無い。魔法陣も、この前クレイブが見せたもので革新が起こったようだから。このコサックとしての存在価値は、一体どこに。)


客間の片隅にある本棚の前で、本の背表紙に手を当てながら、悲しげな顔をした心ここに在らずの少年の顔を、散歩で外を通りがかった孤児たちが見つける。

孤児院の中もリザルが発したあの言葉から、笑顔と笑い声が日を追うごとに淡く霞んでいく。

通常であれば賑やかな散歩の行列は、今日は増して、葬列のそれと大差なかった。



翌日から、コサックは師がヘルトからバーリに代わり、ヘルトとは違う、より実践的でより難易度の高い稽古を、リザル、セルヴェと共に行った。

リザルはもちろんだが、セルヴェも文句を言わず、顔色変えずに稽古に臨んでいる。

エルフ3名と、コサックの稽古の目的とは全く別の、孤児を守り切る方法の模索として、コサックの動きを見て研究し、隙のできがちな場面はどんなところか、多少の魔物ならコサックに本当に任せて平気なのか、子供とその守り手、攻め手の2名ずつに分かれて行い、観察研究を繰り返した。



日は流れ、ついに討伐の日を迎えた。

街民からの大きな声援と若干の悲痛な声に囲まれ見送られながら、エルフェンより討伐部隊がヴェノセルペンテスの潜む山奥の廃村へと出発した。

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