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第78話 誓い

エクサたちがエルフェンに飛び立つときまで遡る。

転移石でリザルの家にエクサたちは、早速家の扉を叩くとバーリが出迎えた。


「よう、突然で悪いんだがリザルはいるかい?」


「今外出しております。それよりもこんなとこで立ち話もなんですから、中に上がってください。」


バーリの言葉に甘え、エクサたちは部屋に上がり、先日話し合いを行った客間に通された。

着席を促し、エクサたちがテーブルの前の椅子に腰を下ろすと、エクサの対面にバーリが座る。

にこにこと微笑みながら顔をエクサの方に向け、一向に喋り出そうとしない。

エクサは頭を掻きながら気まずそうにバーリの方を見て話し始めた。


「今日ここにきたのは」


「まず、エクサさん。その隣のいらっしゃるのはどなたかしら?」


「あ、はい。シャーロットです。ネウトラルで出会い、連れてきました。」


「ふうん、シャーロットさんね。それで、この家には何しにいらっしゃったので?」


バーリのにこにこしている顔とは裏腹に声色が段々と低くなっている。

エクサは姿勢を正し、なぜかわからないが吹き出す汗を拭う。


「はい、シャーロットと誓いを立てるため、その証人にリザルとバーリさんにお願いしようと思いまして参りました。」


「ふうん。誓いを立てに、証人を私たちに。」


バーリのにこやかな顔がふっと消え、目をクワッと開いてエクサを睨むように見つめる。


「あんた、覚悟はあんのかい??」


エクサはだらだらを流れる汗をそのままに、渇く喉に唾を飲み込む。


「はい!」


しばらくカエルを睨む蛇の光景は続いた。

シャーロットと魔狼たちは2名の会話をただ見守っており、エクサがはいと叫ぶように言ったのを機に、シャーロットは顔を赤らめる。

バーリが毅然とした態度でエクサに尋ねる。


「ネウトラルに、ということは出会ってからそう日にちも経っていないということですね?それで、コサック君はなんと?」


エクサは呼吸を整えるように大きく息を吐いてバーリの問いに答える。


「大丈夫と、笑顔で送り出してくれました。」


バーリは目を瞑り、そうですか、と一言呟いた。

しばしの沈黙の後、目を開きまた微笑みを浮かべる。


「コサック君が認めるなら、私も証人をさせていただきます。ちょっと早いけど、おめでとう、エクサさん。」


強張っていたエクサの顔が解けていく。


「あ゛ー緊張した。なんで尋問みたいなことをしたのか、教えてくれないか?」


「それはだって、孤児院にいたロッちゃんよね?私、家庭に入る前は孤児院にいたのよ。実の子供のように世話をしたロッちゃんをそう簡単に、生半可な気持ちで預けられますか。」


バーリの言葉に反応してシャーロットはバーリを観察するように見つめた。


「孤児院・・・?」


シャーロットのバーリを見る目が俄かに変わる。


「バーさん!」


「その呼び方やめなさい。」


シャーロットの顔がパアッと明るくなり、立ち上がってバーリに駆け寄り、そのままの勢いで座っている彼女に抱きついた。


「バーリさんだ!」


シャーロットはバーリの胸にずっと顔を埋めて離そうとしない。

生き別れた母と娘の再会のように、エクサには感動的な光景に映つり、涙ぐんだ。


「こんな、感動的な再会他にあるかよ!よかったな!シャーロット!」


エクサが椅子から立ち上がり喜びを全身で表現しようとした、その時だった。


「孤児院でのこと、忘れないんだから!掃除をサボってたらはたき倒されて消灯時間まで廊下で立たされたこと、授業中つまんないこら紙飛行機を折ってたら外の焚き火に全部飛ばされて燃やされたこと、魅了の魔法で男を手足のように使って手玉に取っていたら尻を百叩きにされたこと、全部、忘れないんだから!」


ん?とシャーロットの言葉の数々に様子のおかしさを感じたエクサは、さらに彼女たちから放たれる殺気に息苦しさを感じ、悪魔のような形相して見つめ合う2名のエルフを見た。


「あなたが、私の服に虫やらミミズやらを入れたこと、男性の前で制服を破いてはだけさせたこと、店で飲んでいて絡んできた奴らを再起不能にしたことを院長に密告したこと、私も忘れたりしませんでしたわ。」


エクサは大きく開いた口を閉め忘れ、あの質問の意図は、覚悟とは、と頭の中をぐるぐる言葉が巡り、やがて思考が完全に止まった。

シャーロットが、座っていた椅子に戻って、深く腰をかける。

エクサがふと部屋の扉を見ると、少し開いており、外から覗き込む2つの目に気がついた。

ゆっくりとエクサはバーリの方を向く。


「バーリ、さん、その、裸を見た男性って。」


「今の旦那様ですわ。」


あわあわとしてエクサがまた扉の方を見ると、焦りと恐怖の色をした目と視線が合う。


「あの、セルヴェも、一緒に?」


「ええ、セルヴェもその時主人と一緒にいましたよ。私たちの本当の馴れ初めを、セルヴェから、聞いたのですか?」


ゆっくりと確認するようにバーリがエクサに問いかけた途端、扉の方からドシーンと何かが倒れる音がした。

バーリがゆっくり扉を開けると、直立不動のリザルと泡を吹いて倒れているセルヴェがいる。

エクサは内股になって震えていると、尻をむんずと鷲掴みにされてヒッと情けない悲鳴を上げた。

顔だけ、ゆっくり振り返ると、満面の笑みでエクサの尻をもぎ取らんばかりの力で掴む、シャーロットの姿がそこにはあった。

エクサとリザルの目が合い、悲哀と同情と諦観を感じさせるリザルの眼差しに、エクサの流れる汗が止まらない。


「よう、リザル、数日ぶりだな。」


震える声でここに来た顛末を説明した。


「なら早速行きましょう!誓いを立てるならこの街の高台にある場所が」


「あら、私たちと同じ場所で誓いを立てるのですか?」


半分涙目で言葉が出てこずパクパクしているリザルを尻目にバーリが提案をする。


「折角ですから街の外れにある魔力濃度の高い不思議な場所がありますのでそこで」


「私はバーさんと同じ場所で誓いを立てたいな♪」


バーリの引きつった顔と蒼白のリザルを見たシャーロットは、いたずらな笑みを浮かべてエクサの腕に抱きついた。


「決めるのはエクサさんです。」


「さあ行きましょう♪エクサ♡」


エクサの脳裏に一つの言葉がよぎる。


(覚悟、とは!)


エクサの目が据わり、足を肩幅に開いて息を深く吸い、バーリの方を向いて軽くお辞儀をする。


「誓いの場所は高台にある場所で、お二方には証人としてお立会いいただきたく存じます。こうして再会したのも何かの縁。誓いの場所にも縁を感じずにはいられません。どうか、ここは一つ若輩者の未来を同じ場所で祝してはいただけないでしょうか!」


バーリが目を細めてエクサを見て、ふーと息を吐く。


「エクサさんがそう言うなら、仕方ありませんね。私にとってとても大事な場所ですけども、あなた方にとっても大事な場所になるというなら、仕方ありません。さあ、そうと決まれば早速行きましょう。」


バーリが部屋から出ていく。


「あなたはいつまでそこで寝ているんですか。」


首根っこを掴まれた猫のように運ばれる大男が女性の細腕一つで運ばれていく。

こうして婚姻の挨拶はひと騒動あって収まったのだった。

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