第8話 対話
念話は、魔力と熟練度に応じて複数の対象に同時に思念を送ることができるようになる。
コサックはまだ念話を使い始めたばかりで、思念を送ることができる対象は一つしかない。
コサックは雌に念話で語り掛けた。
『ふじょう、ち、なおす。クレイブ、やくそく。なまえ、コサック。』
たどたどしい念話の内容だった。
コサックが慣れない念話とまだ少し痛む頭をかかえ、雌に向かってなんとか語り掛ける。
雌が言われたままその場にいる全員に向けて念話で伝える。
説明が進むにつれ、まず梟が理解したように目を細めた。
雌の心境は複雑だった。
今まで手をかけて育ててきた子供が、すっかり別の何かにすりかわってしまった。
もう赤ん坊がいなくなってしまったような気持ちになった。
雌のとても寂しそうな顔を見たコサックは、堪らず雌に言った。
『ここまで、育てて、くれて、ありがとう。これからも、母さん、いっしょに、いたい。』
コサックは生れ落ちてからここまでの記憶ももちろん残っており、雌に対して場面ごとに話しては感謝を伝えた。
雌は目をつぶって考えた。
大事に育てた赤ん坊であることは間違いない。
コサックという話も本当なのだろう。
悪意の気配は感じられない。
母という言葉を何より信じたい。
心配そうに子供たちが雌を見る。
(私は、この子の母親だ。)
雌は気持ちを改めた。
雌の目に曇りも迷いもない。
雄と子供たちは雌の目を見て安心していた。
梟がコサックに問う。
『お前のこの世界における役割はわかった。不浄の地は広がって悪くなる一方だ。大変な役割を引き受けたな。大丈夫か?』
『うん、かぞく、いっしょ、だから、あなたも。』
突然の家族という言葉に梟は戸惑った。
が、その言葉はどこか心地が良かった。
『わかった。』
梟はただひとことコサックに言い、籠の端にとまった。
コサックは声に出してありがとうと伝えようとしたが、あーうー、としか発音できなかった。