第76話 付与
まずは武器、と片っ端から魔法付与を始めたオムとシビル。
両者とも基本的な魔法であれば全属性を扱うことができるかか、シビルは支援・防御系統に特化、オムは攻撃系統に特化している。
相性良い属性も昔はあったが、戦場に出ていたオムは有無も言わさず生き残るために全属性を習得するに至り、シビルはオムから全属性を扱えるようにしごかれた。
シビルはオムへの反骨心から、攻撃ではなく支援・防御系統に特化させている。
オムが武器に攻撃魔法の付与、シビルが防具や装身具に補助・防衛魔法の付与を思いつく限り与えていく。
競売で落札したものを例に挙げれば、戦鎚には風魔法を付与させ打ち込み速度の補助と打ち込んだ場所周囲に風の刃を発生、宝剣に雷魔法の付与で感電と剣を持つ者への反射速度と攻撃速度の上昇、反射の盾は魔力消費量の低下と反射率の向上、首飾りは毒消しと麻痺治し、と効果を変えた。
「武器は、攻撃の属性ひとつ、防具と装身具もひとつで稀にふたつといったところじゃな。屋敷で試した通りじゃのう。身につけるものが多いほど受ける補助も多くなるが、その分動きにくくなってしまうな。」
ある程度武器に付与を終えたオムが腕組みをして言った。
「ヴェノセルペンテスの対策としては、放出される毒と硬い鱗の破壊、素早い動きの足止め、であったな。シビル君はウロスとアギリ、どっちを取るかね?
問いかけられたシビルは少し手を止めて考え、答える。
「攻撃勢にはウロスをつけます。支援や防衛勢にアギリをつけます。素早さを上げるなら装備に頼らなくても魔法師側で行えますが、相手への妨害となるとかかるかどうかも分かりませんし、近接攻撃で一か八かウロスがかかることを願って攻撃してもらった方が賢明かと思います。」
一旦言葉を切って、またシビルは続けた。
「ブラークテスディスにおいては、まずブリーゼが怖いですね。これは皆凍結しないようにしておくのが良いかと。滑らないように足場も固める必要がありますし。降ってくる氷塊は魔法師側でなんとかなるでしょうが、イセミシルは攻撃勢にある程度叩き落としてもらう必要があるかと思います。動きは緩慢だそうですから、アギリをつけて弱点をチクチクついていくしかないのではないでしょうか。魔力増幅はいずれの魔獣においても必須ですね。」
「ブラークテスディス、彼奴は水魔法に分類される氷を使うことから、雷属性も付与してはいるが、感電が厄介じゃのう。周りのものたちに影響が出やすい。他の属性でもそうじゃが、防具に属性耐性や属性無効を付与すると武器にも影響が出るのは、やはり身につけているものに入るからじゃろうな。」
「最悪現地で換装することも視野に入れておきましょう、先生。」
武器にあらかた魔法付与をし終えたオムが腰を叩きながら話す。
「ふう、しかし、これだけの数を付与するのに従来の方法だとフィロソとザルーフがいくらあっても足りんのう。」
「じゃあ地下室にある石は先生の部屋に移動させますね。」
「なぜそうなるんじゃ・・・。」
オムは、転移石がやっと片付いた部屋にまた変な石が溢れるのを想像して、肩がずっしり重くなるのを感じていた。
「これで、終わりっと。先生、最後の付与が終わりました。」
「うむ。ウィリスに電報をする。待っておれ。」
オムからウィリスに電報が送られる。
倉庫の外から、うわっ、と声が聞こえてきた。
オムが扉を開けると、すぐ前にウィリスが跪いて頭を押さえている。
「なんじゃ、そこにおったんか。」
「いやはや、いたた。呼びに行こうと。一晩たって、もう次の日の朝だ。心配して扉に近づいたら突然、電撃と言葉が頭の中に流れてきてな。」
オワッタ、と聞こえたとウィリスがこめかみ辺りをさすりながら立ち上がる。
「ほっほっほっ、そりゃ失敬。」
「これ次の日の陽の光ですか。でも体は快調ですね。不思議です、なんででしょう?」
シビルが不思議そうにしていると、オムが呆れたように話す。
「なんじゃ、昨日の食事じゃよ。ウィリス君が気を利かせて滋養強壮体にすこぶるいいものを振る舞ってくれたからじゃよ。ワシは毒が入っていないか、目で確かめさせてもらったんじゃが、結果を見て黙っておった。」
「私、毒なんか盛られるようなヤバいことオム先生みたくしていないので、そういう自己防衛にまだ頭が働かなかったですね。でも快調なのは嬉しいです。そういえばサヴィーヌさんは?」
ウィリスはシビルの言葉を受けて、倉庫から少し離れた場所を指さした。
サヴィーヌは中腰でウェラと何か話をしているようだった。
「ウェラに先生になってもらってああやって念話の練習している。まだ個々に繋げることしかできないようだが、練習の成果か使えるようになったようだ。」
ウィリスの言葉を聞いて、シビルは無言でサヴィーヌたちの方に駆けていく。
現場に到着するや否やウェラに抱きついて撫で回し、すごいわーすごいわー、と褒め称える声が聞こえてくる。
「ああしているところを見ると、やはりアルトゥムカニスマジョア、もとい月光魔狼は大きいな。シビルさんがまるで女児のような対比だ。」
「いや中身もそんな感じじゃよ。」
オムがウィリスに手招きをして倉庫の中に入ると、武器と防具に魔法付与したことを告げ、オムが実際に身につけるなどして効果を掻い摘んで説明した。
ウィリスは眉を顰めつつ、頷いてオムの話を真剣に聞いている。
「保管と輸送は任せて良いかの?」
「保管は良いが、輸送はこれだけの量だ、ストラジに入れるにしてもストラジの置き場が必要だな。」
「辺境伯の屋敷の倉庫は崩れておるからのう。とりあえず、辺境伯の屋敷の転移石を渡しておくでな。」
転移石を渡されたウィリスの顔がパーッを明るくなる。
「なんじゃどうした。」
「これで正式に仲間入り、といった気持ちだ。感慨深い。」
「ふふ、あ、そうじゃ。こちらの転移石も作っておきたいんじゃが、場所はどこにするかの?」
「タフトに戻ってくるなら、モービルを使えば」
オムが首を横に大きく振る。
「だめじゃ、あれは、ダメじゃ。転移の座標はここで良いな。」
オムが勝手に杖で地面に円を描き、円の真ん中に杖を突きさして両手を添えてウィリスの方を向き、死んでも動かんぞ、という気迫に満ちた目をして立っている。
「わかったから、そんな目をしないで、そこで頼む。」
ウィリスとサヴィーヌの間に立って無言で見守っていた使用人が、目を細め品定めするような眼差しで倉庫の方を眺めていた。




