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第75話 倉庫

「やっぱり、辺境伯の屋敷より格段に美味しいですね。食い溜めしないと。」


シビルがタフト家の料理の美味しさに唸っている。

その細身の体のどこに入るのか、食事作法を他所に次々と平らげていく。

オムも目を瞑り、食事を堪能していた。


「お気に召されたようで何よりです。」


「そういえばなんじゃが、子爵という地位のものがワシなんぞに敬語を使って良いのかね?」


「この街の発展にはオム様の力なしではなし得ませんでした。私にとっては地位よりも大事なことです。」


「ウィリス君、小っ恥ずかしいからやめておくれ。ウィリス君もしているように、敬語は結構じゃよ。」


ウィリスはとんでもないと大手を振って敬語を止めることを固辞しようとした。


「ウィリス、お主はワシらの仲間である以前に、貴族なのだ。ワシらもその貴族という地位を利用しようとしとるんじゃよ。じゃから、内ではなんでも構わんが、外では貴族であってほしい。良いな?」


「・・・わかり、ました。いや!わかった!よろしく頼む!あと、タフト子爵やウィリス卿などかたっ苦しいのは無しだ。ウィリスで良い。」


「ふふふ、その調子じゃよ。改めてよろしくな、ウィリス君。」


ウィリスの吹っ切れた顔を見て嬉しそうにオムが微笑む。

見守っていたサヴィーヌもつられたのか笑顔になっていた。


「食事の後、すぐに作業に入りたい。武器防具の選別はできとるかね?」


「兵長!」


オムがウィリスに準備段階を尋ねると、大きな声で兵長を呼び、部屋に兵長が入ってきた。


「お食事中失礼します。お呼びでしょうかウィリス様。」


「うむ、昨日頼んでおいた選別は終わっておるか?」


「はい、終わってはおりますが、なにぶん討伐しようなど考えも及ばない未知の魔獣ですので、その。」


兵長が口籠る。


「大まかで良い。確かに未知の魔獣だ。選別ご苦労であった。」


「は、ありがたきお言葉。・・・ウィリス様、この場をお借りしてお伺いしてもよろしいでしょうか。」


「なんだ?」


「選別した武器をお客様にお預けになられると伺っておりますが、お客様とはどのようなご関係で。」


使用人が兵長の言葉に怒りを露にした。


「今この場はそのようなことを聞く場ではありません。慎んで退出し」


「友人であり、そこに掛けているオムは私の尊敬する人物の1人だ。その友人から魔獣を討伐すべく武器防具提供の依頼があり、使用する武器の選別を終え、貸与するところだ。他に何か聞きたいことは?」


憤る使用人の言葉をウィリスが遮り、兵長に優しい声色で説明した。


「そ、ん、失礼しました!お答えいただきありがとうございます。それでは失礼いたします!」


兵長がそそくさと部屋から出て行った。


「食事の途中で失礼した。あの者がこの場で問いかけるとは、余程不審に思ったのだろう。」


「構いません。不審者扱いには慣れていますから。」


シビルが凛とした態度で答えた。


「美味しかったのう。さて、よく休め、腹も膨れた。早速選別したものを拝みたいのじゃが。」


「では。」


そう言ってウィリスが立ち上がり、サヴィーヌ、続いてシビルが口を拭いて立ち上がった。


「先程は失礼いたしました。保管庫までご案内します。」


使用人が先立って歩き始めた。

屋敷の外廊下を歩き、程なくして大きな扉のある倉庫のような高さのある建物の前に着いた。


「こちらに入ってすぐの広間に、選別した武器や防具を広げてあります。灯りはありますが必要最低限で暗いので、足元にご注意を。」


そう言って使用人が大きく重たそうな扉を開けた。

外の光が建物の中に差し込み、幾多の武器防具を照らしている。

ウィリスから順に中に入っていく。

オムの目にまず映ったのは、大きな戦鎚だった。

オムが戦鎚を触れようとした時、ウィリスがオムに語りかけた。


「オムさん、それはエクサがこの前の競売で競り落とした戦鎚だ。見事なものだが、扱えるものが果たしているのか。」


オムがウィリスの方を向いて、戦鎚に触ろうとしたのを途中でやめた。

髭を蓄えた顎をなで、考え込んでいる様子だ。


「威力を殺さないようにするには、軽量化の魔法は御法度じゃな。重みはこのまま、攻撃魔法を付与するのが良かろう。扱えるものは、まあエルフが揃える討伐隊の中におるじゃろうて。」


「・・・聞いてもいいか?」


ウィリスの真剣な言葉に、武器と防具の品定めをしていたオムとシビルが振り返る。


「どうやって付与する。解析や転写などを経て、小型化するために威力や精度を犠牲にしてようやく付与できるものだと認識している。付与しても、その魔力消費量は多く、並の魔力量を持っているものでは扱うことすら難しい。それを、誰でも、簡単に、扱えるようにするなど、神の御業以外に考えられない。」


ウィリスの言葉に、シビルはニヤッと笑い、オムは声を出して笑った。


「まさに、神の御業よ。ひとつだけ、見せてあげます。」


そう言ってシビルはすでに魔法が付与されている剣の魔法陣に手を触れた。

触れている場所、魔法陣が光だし、みるみるうちに魔法陣が書き換えられていく。


「この剣には火魔法が付与されていたけど、生活における着火の魔法くらいかしら、その程度の魔法が、相当量の魔力を消費して剣に炎を纏わせるというものでした。でも今私がしたことによって。」


シビルが両手で重そうに剣を構え、切先をウィリスの方に向けた。

先端から炎が吹き出し、勢いのある火炎流を剣身に纏う。

切先を向けられたウィリスは一歩後ずさった。

シビルが熱そうに片目を瞑り、しばらく炎を発生させた後、剣から炎がかき消えた。


「ご覧のとおり。私は全然、魔力もあまり消費してないわ。ピンピンしています。あら、これ、前髪燃えてないかしら。」


前髪を払うとポロポロと燃えた髪の毛が落ち、シビルが大きくため息をついてオムに文句を言っている。

ウィリス、サヴィーヌ、使用人までもが目の前で起こったことを理解できない様子で固まっていた。


「だから剣に炎なんて実用性に欠けるんですよ。自分まで燃えるじゃないですか。」


「切ったそばから燃やして痛みを倍増させ治癒も遅れさせるんじゃから実用的ではあるじゃろう。魔力を纏っていても攻撃が通りやすくなるじゃろうて。なあ、ウィリス君。あれ、ウィリス君?おーい。」


話しかけられても固まっているウィリスに、オムは水魔法で頭からパシャンと水を被せた。

ウィリスの目に光が宿る。


「はっ、私は!何を。なぜ濡れている。ああオム様、じゃなかったオムさん。私は一体。」


シビルに向けられた剣先の場面が抜け落ちてしまっているかのように、記憶が曖昧で慌てふためいているウィリスに、オムは優しい声で話す。


「今から作業するでな。屋敷の中に戻ってくれるとありがたいのだが。そこの2名も一緒に連れていってくれると助かるんじゃがな。」


「あ、はい。わかりました。あいや、わかった。外に出ます、る。終わったら声をかけてくれさい。」


しどろもどろしてウィリスは女性2名を抱えて倉庫から出ていった。


「さあて、始めるとするかの。」


「オム先生じゃなくて、もっと若くて逞しくて私と一緒に作業できる男性と2人っきりになりたかったです。」


「ワシが若ければよかったのかのう。ほっほっ。」


「オム先生となんて、女性であることを誇りに思っている私が今男に性転換するくらいありえないですよ。」


「なにもそこまで否定せんでも・・・。」


オムはシビルの冷たい視線を避けるように、端から付与を開始した。

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