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第74話 気絶

オムとシビルはそれぞれ別室に運ばれ、ベッドの上で横たわっている。

ウェラがオムに近づき、回復魔法をオムにかけると、苦悶の表情をしていたオムが次第に穏やかになっていき、パッと目を覚ました。

ゆっくり起き上がり、ベッドの横にいるウェラに気が付くと、ゆっくりとウェラの頭をなでる。


「ありがとう、ウェラ。」


ウェラは回復したオムを見て、一声鳴くと部屋から出ていった。


「きょああああぁぁぁ!ウェラたあああああああん!」


しばらくするとシビルの叫び声が聞こえてきた。

靴だけ脱がされ着の身着のまま寝かされていたことに、オムが手足の稼働を確認して気がつく。

オムはベッドから降りて靴を履き、杖を探し始めた。

近くのテーブルに立てかけてある杖を見つけ、手に取り部屋の外に出ようと歩き始める。

近くで伏せて見ていたミハイルが立ち上がるとオムの後ろに続いた。

オムが部屋を出ると、向かいの部屋からウェラがシビルを引きずりながら出てきた。


「お目覚めですか?」


オムの右手の方から声がする。

家事使用人らしき格好をしたディーヴァの女性がオムたちに話しかけてきた。


「ああ、すまんの。今起きたところじゃ。ワシらはどのくらい寝ておったのかな?」


「1日ほどですね。そこのアルトゥムカニスも先程目を覚ましたばかりです。お客さまがお目覚めになられたことをお館様にお伝えしてきますので、今しばらくお部屋でお待ちください。」


そう言って軽くお辞儀をすると、音もなく去っていった。

オムは寝ていた部屋に戻り、椅子に腰をかけた。

ウェラも部屋に入ってきたが、まだシビルはしがみついていてしばらく離れそうにない。

オムが黙って座っていると、微かに音がするのに気がついた。

耳を澄まして音のする方向を探すと、どうやら窓の外から部屋に入ってきている。

オムが窓に近づき開け放つと、屋敷の外、街の方から音楽が鳴り響いてくる。


「タフト子爵夫妻様が凱旋されたのを祝して、住民が街を上げてお祭りとなっています。」


先程の使用人が音もなく部屋に入ってきている。


「ここの、住民の方々は、なぜここまで子爵夫妻のことを慕っておられるのか、教えていただけないかの。」


冷たい表情のまま眉一つ動かさず、使用人は語り始めた。


ウィリスがまだこちらに婿に入る前は、ここはまだあの街も発展しておらず、使用人も私と執事長のみが仕えている小さな領地だった。

タフト家に男子を授かることができなかったことが大きな理由で、ディーヴ領では男児が爵位を継ぐこととなっており、貴族としての地位や名声、王都からの支援も世継ぎの男子がいて初め受けられるが、タフト家にはなかった。

世継ぎの男子は婿養子であっても良しとされており、そのサヴィーヌの婿取りは、タフト家が後手に回り競争に負けてしまい、ディーヴ内で世継ぎを貰い受けることは不可能となった。

それでもタフト家を見限らず、住人はここに住み続けることを選択し、タフト家も住民に身の安全や保証を、私財を投げうってでも守ることを約束した。

そんなおり、サヴィーヌとウィリスは出会い、一度はサヴィーヌの両親も婚姻を反対、だがサヴィーヌの熱意に根負けしてウィリスを婿に取ることとなった。

ウィリスを婿にとってからというもの、ウィリスは住民に全員対して読み書きができるようにし、商売を屋敷を開放して教え込んだ。

住人たちが領地の外で商売をするようになり、その利益をタフトに持ち帰る。

出た利益から新し商売を企画してまた出稼ぎに出る。

ウィリスもただ住人に商売を教えただけでなく、領地の拡大や生活基盤の整備を進めてより住みやすい領地を目指し、私財を運用して現金を蓄えていった。

そうこうしているうちに王都と変わらない暮らしができるぐらい、生活水準は向上し、移住者も増え、今のタフトにまで発展した。


「ウィリス様は過疎から消滅しようとしていたこの領地を王都の支援なしに見事復興させた立役者なのです。住民からの信頼は厚く本日のお祭り騒ぎも無事であったことを祝うものです。」


オムが窓の外を再び眺めた。

部屋の扉が開く音がした。


「おお、お目覚めですか、オム様。」


振り返るとウィリスが立っている。


「これだけの街にした者に様をつけられて呼ばれるのは、ちと恥ずかしいのう。」


「いえ、生活のために役立つ魔法の研究第一人者であるオム様に比べれば、私のしたことなど。この屋敷にも昇降機があるのですよ。大衆浴場も流湯機と流水機のおかげで皆清潔な体を保てています。水洗のお手洗いから上下水道、浄水場に至るまで、あなたの多大なる研究成果があってこそ、この街は発展したと言えますから。」


熱量こそ抑えているが、ウィリスはこのままずっとオムに対する感謝の言葉を延々と続ける勢いで話している。


「初めて人に褒められるところを見ました、オム先生。」


シビルがジト目でオムを見ている。


「それで、今回の件ですが、技術的特異点となりえる内容になります。あまり多くの方にお見せしたくないので、私たちが作業をしている間は誰も作業場の中に入れないように配慮をお願いします。」


はあ、と生返事を返すウィリスにシビルはため息をついた。


「はあ、モービルでしたか。小型化して魔力量を減少させても高出力化ができ、扱える機能を増やして機能ごとに変形させ、かつ誰でも安価で手に入り安全に扱えるようになる、そんな作業が今回含まれている、その作業内容は今は教えられない、と言うことです。」


な、と言ってウィリスが固まる。


「辺境伯の屋敷で思いつく限りの試作をしとってな。浄水の機構なんかはそこら辺にある魔力のみで稼働しておる。純水とそれ以外にわかれ、有害なものは無害化して田畑の肥料になる。栄養不足で凶暴化しとったマグノリオも無力化しとったわい。実つけとるやつもおったな。完全に無人じゃよ。雑食のゲルを使った処理は脱走や増殖のし過ぎが問題となっておるが、それも解決じゃの。」


「マグノリオはちょっとやそっとの肥料では無力化できませんよ!浄水にそんなに行程があると魔法の機構もそれなりに大きくなるはずですよね?お邪魔した時はそんなものどこにも。」


顔を赤くしてオムに抗議をするようにウィリスが声を上げた。


「水洗で流した瞬間から分解を始められるように作り替えたからの。水と肥料を排出する機構さえ整えば場所はとらん。大きな施設もいらん。」


唖然としてウィリスはオムとシビルを見る。


(私は、もしかしたらとんでもない方々を連れてきてしまったのかもしれない。)


ウィリスは額に大粒の汗が吹き出し、それとは対照的に使用人は涼しい顔でウィリスの半歩後ろに立っていた。


「ウィリス様、お客様にお食事をお出ししたいのですが。」


「あ、ああ、構わん。さあ、昨日はお食事ができませんでしたから、ご一緒にどうぞ。」


使用人は、失礼します、とウィリスに頭を下げて、オムたちを部屋の外に連れ出した。

ウィリスは腕を組んでしばらく思案した後、オムたちを追った。

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