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第71話 懐旧

広めの客間に腰掛けるエルフ2名にフーマンが4人、ティーヴァが1名。

エクサがエルフから紹介していく。


「ネウトラルで出逢ったシャーロットだ。」


シャーロットが立ち上がり膝を少し曲げでお辞儀をした。


「お初お目にかかります。シャーロット、もうすぐにシャーロット・メルチャントになります。不束者ですがよろしく、お願いいたします。」


シャーロットが頬を赤らめ自己紹介をした。

コサックとオム、お嬢様姿のエレンが微笑んだ顔で固まっている。


「ごほん。つ、次がタフト子爵夫妻だ。」


「ティーヴ領タフト家のウィリスだ。子爵の位を与えられている。先程は取り乱して申し訳ない。」


「ウィリスの妻、サヴィーヌです。タフトはワタクシの家名です。」


よろしくお願いします、と屋敷勢が挨拶をした。

ウィリスが続ける。


「フマニテ領の貴族であったが、私の代が末代となった貧しい家柄だった。フマニテでは、25になっても嫁も婿も貰い手がなく、そのうち両親は死んでしまった。没落貴族として日々過ごしていたところに、サヴィーヌの目に留まり、ここに至るという訳だ。」


「はて、没落貴族の息子といえば・・・。20年か?ほど前に良く研究所を出入りしていた貴族がおったが、ここまでふくよかではなく、逆に貧相な体をしとったような・・・。」


「オム様、それはおそらく私ことでしょう。フマニテでは今よりも痩せておりましたから。」


オムにはどうもウィリスが記憶の中の貴族と合致しないようだった。


「それで、子爵様がこんな辺境の地に何の用だい?」


エレンがいつもの口調でウィリスに問いかけると、ウィリスは眉を吊り上げ品定めをするようにエレンを見た。

エレンが術を解き、猫の姿に戻る。

訝しがっていたウィリスの目が大きく見開かれ、口をぽかんと開けなんともだらしのない顔になっている。

サヴィーヌが慌ててウィリスの顔を取り繕おうとするが、サヴィーヌもエレンがどうしても気になって仕方がない様子だ。


『猫がフーマンに化けるのがそんなに珍しいかい?』


タフト夫妻はしりもちをつくように椅子に腰かけ、エレンに釘付けになっている。

ハッとして今度はコサックをじっと見つめ始めた。


「ただのフーマンで変身も何もできません。」


コサックの言葉がタフト夫妻の安心を誘ったのか表情が和らいでいく。


「ウィリスは俺らに手を貸してくれる約束をしてくれたんだ。武器の調達や備蓄はウィリスに任せたい。俺が落札した武器もウィリスに保管を頼んでいるんだ。」


「なんじゃ、ちゃんと仕事はしとるんか。ただ女性をだぶらかしているのかと思ったぞい。顔は良いからの。」


オムがシャーロットを横目にエクサに悪態をつく。


「まぁなんだ、成り行きだな。シャーロットを幸せにするって誓ったもんだからな。えへへ。というわけでシャーロットは屋敷に新たに仲間として迎え入れてほしい、タフト夫妻の協力の許可を取り付けたい、顔合わせをしたいってことで屋敷にすっ飛んで帰ってきたってわけだ。」


「なるほどのう。コサックも先に言っとったとおりじゃが。良いのではないかな。」


オムのお墨付きが出てエクサはホッと胸を撫で下ろし、シャーロットの隣に座った。


「シャーロットさんはここに住むのはいいの?一応掃除とかはしてるけど、都市からいきなり田舎とか、住環境の変化とか大丈夫?食事も獣と一緒だよ?」


「うふふ、大丈夫よ。キリルやジーナとも仲良しなのよ。コサック君、心配してくれてありがとう。」


艶やかな笑みにコサックは少しドキッとしたが、シャーロットが隣に座るエクサに抱きつき顔をエクサの胸に埋めるようにして潤んだ瞳で顔を見ている姿を見て、コサックは安心した表情になり、微笑んだ。


「ん、どうしたコサック?」


「エクサ、故郷を浄化してから余裕があるっていうか、吹っ切れたっていうか。なんだか楽しそうで良かったなって。」


エクサがいつになく真剣な表情になり、シャーロットもいたずらに絡みつくのをやめ離れようとすると、彼女の体を抱き寄せ、コサックを見つめた。


「これからも、俺のようなやつを救いたい。浄化して、新しく生涯を始めてほしい。俺も姉さんや村の仲間が救われて、大きく前進できた。シャーロットは、もう俺の生き甲斐だ。離れ離れはもうたくさんだ。どこへでも一緒に連れて行く。」


コサックはまだ微笑んでいる。


「子どもができたら、あんまり無理しちゃいけないんじゃない?」


エクサが目を瞑り考え込む。


「コサック、できると思うか?」


「うん。浄化したら輪廻に乗るだろうし。子供はどのくらい作る予定?」


シャーロットは口に手を当てて驚く。


「私、子ども産むの?子どもできるの?」


「はい。浄化をすれば、そこに捕まっていた魂がまた世界に降りたつように神様のところに行って、世界に戻ってくるって、輪廻って呼んでるんですけど、この前浄化したところに結構いたんです。もしかしたらシャーロットさんにも子どもができるかもしれませんね。」


「本当に4歳?」


「はい。もうすぐ5歳になります。」


シャーロットがコサックを訝しがるような表情をして見つめ、子ども子どもと呟くと笑顔になり、またエクサに抱きついて甘えている。


「できたらその時に色々考えましょ。お、と、う、さ、ん。」


「話は終わったか?お茶でもどうぞ。」


シャーロットがお父さんの言葉に合わせてエクサの胸あたりを指でツンツンと触れているところで、ヘルトが扉を開いて入ってきた。

またウィリスの顔が豹変する。


「ヘルト・イダルツ団員!」


「ん?あなたは?どちら様でしょう?」


よっぽど時の流れが残酷なのかただ物忘れが激しいのか、ウィリスだとわかるフマニテ出身者はこの屋敷にはいないようだった。


「それはそうと、もうじき暗くなりますから、お食事を召し上がっていってください。タフト子爵ご夫妻。」


「ありがとうございます。ここはご厚意に甘えてお食事をご一緒させていただきます。」


サヴィーヌが丁寧にヘルトに返事をすると、ヘルトはかしこまったように綺麗にお辞儀をして部屋を出て行こうとする。


「あ、エクサ、手伝え。」


ヘルトは退出と同時にエクサの首根っこをつかまえて軽々と持ち上げて行った。

シャーロットが慌ててヘルトを追いかけていく。


「変わりませんね、ヘルト団員。」


ウィリスがボソッと呟いた。

コサックはウィリスに話しかける。


「タフト子爵様。」


「ウィリスで結構。」


出て行ったヘルトの方を向きながらコサックに呼び方の訂正を告げた。


「ではウィリスさん。お力をお貸しいただけるとのことですが、討伐しようとしている魔獣はご存じですか?」


ウィリスがコサックの方に向き直り頷く。


「知識のみで直接対峙したことはない。武器の用意はできるが、その武器を扱えるかどうかはまた別の問題だ。エクサは戦槌を競り落としていたが、とてもエルフやフーマンでは取り扱いが難しい。ヘルト団員でも持てるかどうかの代物だ。ほかにも、何のために造られたのか分からない武器もある。防具の方はそれなりに揃っているが、相手が相手だ。生半可な防具では一撃であの世行きだろう。魔法付与の防具は必須条件であると考えると、数には限りがある。頭数を揃えても防具が間に合わず、少ないと討伐しきれず全滅して終い、難しいところだ。」


コサックがオムの方を向き、魔法陣について


「オムさん。ウィリスさんのところに行ってできるだけ多くの武器防具に魔法付与をかけることはできませんか?この方なら信用できると思うんです。」


オムがコサックの方を向き、笑顔で答える。


「コサックがそう言うならやってみよう。どれ、シビルにも声をかけておくとしようかの。というわけじゃ。ここを発つときお主に同行させてもらうぞい。」


オムがウィリスに話しかけ、ウィリスはまたオムの前に跪き、かしこまりました、と大きな声で嬉しそうに答えた。


「ワシ、子爵以上の地位ではないんだがな・・・。そもそも貴族ですらない。」


ぶつぶつ言いながらオムは部屋から出て行った。


「ウィリスさん、よろしくお願いします。食事までの間、この屋敷をご案内しましょうか、それともここでお待ちになりますか?」


コサックは笑顔でタフト夫妻に声をかけると、サヴィーヌがコサックに近づいてきた。

コサックの手をとり、甲の方を見る。


「あなたも討伐に参加されるのかしら?」


サヴィーヌがコサックを見つめる。


「はい、皆と一緒に戦います。」


するとサヴィーヌはコサックを抱き上げすすり泣くような声を出した。


「こんな子どもを戦場に引き出すなんてこと、どこの種族もそのようなことはしない。禁止しているところだって。大人たちは討伐に参加させたくないでしょうに。」


「それは、ヘルトさんにも言われました。無理をするなって。でも行きたいんです。仲間が、家族が危険を顧みず戦うというのに、自分がその場にいないのはだめだと思うんです。」


「・・・偉いわ。」


コサックは強く抱きしめられた。

ハリのある肌の双丘に挟まれコサックが息ができずにもがいていると、ウィリスがコサックを引きはがされる。

涙を流し呼吸を荒くして、助けてくれたウィリスの方を見ると苦笑しているのが、景色がにじんでいるにも関わらずがわかる。


「ははは、すまないな。子どもに対する力加減がまだ未熟でな。許してやってくれ。」


「ごほっ、未熟?」


「私と結婚してから数年経つが、まだ子どもを授かっていない。子供の扱いには慣れておらんのだ。私とサヴィーヌは親子と言っても遜色ない年齢差がある。40をとうに過ぎた私にとってはもったいない、自慢の妻さ。」


ウィリスはコサックの両脇の下に手を入れ、上に持ち上げた。


「よいしょ!浄化の話が本当なら、励んでみる価値はありそうだしな。私も、子どもは好きな方さ。私に親戚など血縁者がいて、そこに子どもができたなら、こんな感じかもしれないな。」


コサックはウィリスのなすがまま、張り出た腹で受け止められ、そのまま抱きしめられた。

コサックもウィリスに手足を精一杯回して抱きしめ返す。


「ははは、届かないか。少しは痩せないといけないな。ははは。」


エレンの目には、仲睦まじい家族のようにタフト夫妻とコサックが映り、辺境伯との思い出を重ねていた。

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