第69話 競売3日目
エクサたちは朝しっかりと起床し、宿を出る準備を進めた。
とはいえ大きな手荷物があるわけではなく、エクサの持っているストラジにすべて放り込んですぐに終わってしまった。
競り落とした戦槌は宿ではなくタフトの屋敷に送る手配も済ませている。
「シャーロット、住んでる家はどうするんだ?」
「あの男に襲われてめちゃくちゃになってるわ。でも、大切なものなんて何一つないから、持っていきたいものはないわね。処理はタフト子爵が手を回してくれるって、昨日約束してくれたわ。」
「何から何まで世話になりっぱなしだな。」
「気にするな、困っているものに手を差し伸べるのは力あるものとして当たり前のことだ。目の届く範囲だけだが。」
「おおい、この部屋の防犯機構は一体どうなってるんだ。なんでウィリスとサヴィーヌがこの部屋にいるんだ!鍵も開けてないのに!」
「開かなければ壊せばいい。」
握り拳を胸元に当てそう宣言するウィリス。
「えー。やべえのはサヴィーヌじゃなくてウィリスだったか。」
うふふ困った人たち、といった表情でシャーロットは笑っている。
「冗談だ。ジーナに開けてもらった。妻がそう頼んだそうだ。」
『そうなのか?ジーナ。』
『頼まれたわ。』
『なんかここ最近ジーナの話し方が女っぽくなってきたか?』
『そうかしら?』
首を傾げるジーナとキリル。
うふふ、と笑う者がひとつからふたつに増えた。
「まあいいか!それじゃあ揃ったところで早速競売会場に行こうぜ!」
「まだ時間はある。一緒に朝食でもいかがかな?」
「おっと、そうだな。いいのか?俺ら庶民だぜ?」
「アルトゥムカニスマジョアの雌雄を連れているやつとなら、釣り合うさ。飼い主の顔の方も、男女とも申し分ないしな。」
エクサたちは部屋を出て、受付に鍵を返して宿を出ると、ウィリスを先頭に競売会場方面に歩き始めた。
「会場近くに店がある。本来朝食はやったないんだが、今日は特別に開けてもらっている。」
ウィリスが歩きながらこれからいく場所について説明した。
会場から目と鼻の先にある店に到着し、ウィリス夫妻が店の扉を開けて中に入る。
お待ちしておりました、と中から声が聞こえてると、サヴィーヌが扉から顔を出して手招きをした。
食事は、朝から豪勢なものだったが空きっ腹のエクサはすぐに目の前に出されたものは即平らげてしまっていた。
エクサの食べっぷりに店主も感化されたのか、皿が空いては新しい料理と次々に運び、迎え打っていた。
料理が落ち着いたところで、ウィリスが今日の競売について話し始める。
「今日出品されるもののほとんどは武器や兵器だ。全部競り落としたいと考えている。エクサはただ見るだけになるが良いな?」
「ああ、いいぜ。だが本当に欲しいものは参加するかもな。」
ウィリスが顎を撫でてエクサを見る。
「ならそれでもよかろう。だが!我々で一騎打ちになったら入札はやめること、いいな。」
ウィリスがエクサを制止するように大きな声で確認をとった。
エクサは冗談だよというようにニヤけた顔をして手をウィリスの方に振る。
「私とエクサは競りの席に、サヴィーヌたちは観覧席で我々の様子でも見学しててくれないか。」
ウィリスは優しくサヴィーヌに告げ、サヴィーヌはにっこり微笑む。
シャーロットもウィリスに賛成のようだ。
「お前らも観覧席で頼む。何か異変や危機があったら必ず教えろよな。キリル、ジーナ。」
『ああ、任せておけ。しっかり護衛する。』
キリルが胸をはって伝えると、サヴィーヌがキリルに飛び掛かった。
「危なくなったらワタクシも頼るのよ、キリル。」
キリルはサヴィーヌの動きを読み切ることができず簡単に捕まってしまったことに意気消沈してしまった。
「あーなんだ。シャーロットを救出するときに、俺が颯爽と連れ去る予定がだいぶ狂っちまった、っていうのもあるし、キリル、ここは適材適所で臨機応変に仲間に頼るとしようぜ。」
「なんだその予定は、まるで我々がぶち壊したみたいじゃないか。」
ウィリスがガラの悪い笑みをこれでもかとエクサに見せつけ、エクサは椅子から手足を投げ出し、あーあと天井を仰ぎ見る。
シャーロットがそんなエクサを見てクスクス笑っており、サヴィーヌも微笑みながら席に戻っていった。
「さて、食事も済ませたことだし、競売会場に行くとしよう。こんな楽しい朝食は久しぶりだ。有意義に過ごせたことに感謝する。店主、大変美味な料理をありがとう。」
店主が恐縮して店の端っこでお辞儀を何度もしていた。
店を出て競売会場へ向かうと、前2日よりも多く参加者が集まっており、受付はごった返している。
ウィリスは女性陣に観覧席へ行くよう指示し、受付前から別行動をとった。
ウィリスとエクサは連れ立って会場入りし、それぞれの指定席に腰を下ろして開始を待った。
がやがやとしていた会場内は開始時間が迫るにつれ静かになっていく。
司会進行役がやつれた顔で出てくる。
しかしその声は疲れを知らず、最終日ということもあり熱気がこもっていた。
最終日の競りが始まった。
宣言どおり、ウィリスが最初から入札をしており、入札開始額の何倍もの額を提示して見事に競り落としていく。
鬼気迫る表情と出品物に対する落札予想額の微妙な金額設定を絶妙に提示して誰にも手を出させずに落札いく姿を見て、有名になるわけだとエクサは納得し感心していた。
あれやこれやと競りは進み、司会進行役が残りの3品と言って同時に台の上に置く。
「奥から、炎魔法付与が付与された火炎剣、毒や麻痺の状態異常にかかりにくくする魔法が込められた首飾り、魔法を跳ね返す盾、が今回最後の3点となります。どれも国宝級の品物となりますので、最初の金額がこちらとなります!」
開始額が提示され、会場がどよめく。
桁数が今までの比ではない。
会場の皆がウィリスの方を向くと、ウィリスはにやりと笑い入札する意思を見せた。
参加者は出品物の方に向き直り、熱気と期待のこもった目線で競売の行方を見守っている。
「では、まずこの、首飾りから!」
ウィリスが手を挙げ、開始額より少し多めの額を提示すると拍手が起こった。
そこにエクサが横槍を入れた。
会場全体がどよめきエクサの方を見る。
ウィリスは目を細めエクサの方を見ると、エクサは真剣な眼差しで首飾りを見ていた。
出品物から、剣だろうと予想していたウィリスは眉をしかめ、すぐさまエクサよりも高額を提示した。
エクサに次の反応はない。
ウィリスが落札者となり、首飾りの競りは終わった。
剣、盾と続き、落札額を引き上げるサクラはなく、2つともウィリスが落札。
司会が競売成功の祝辞と、次回開催は未定であることを述べて、大きな拍手の中、競売が終了した。
「エクサ、なぜ首飾りを選んだのだ?」
「剣も盾も、動けるうちに使うもんだ。動けなくなったらただの金属の塊さ。」
「もうちょっと詳しく。」
「剣も盾も、魔力を流してようやくその真価を発揮する。見てみろ、ここに魔法陣があるだろ?こいつが発動しない限りは使えないし、発動してもいつまでもつのかわからん。敵前で魔力が尽きたらそれこそ終わりだ。命があればいいんだよ。初回でダメでも2回3回と挑戦すればいい。そのためにはこういう首飾りの方がいいんだよ。」
ふむ、とウィリスが唸る。
「一理ある。私は直接戦場に出向かないから、状況というのをよくわからんのだ。想像もし難い。そういう生の声は私にとってはありがたい。今後の参考にしよう。しかし、よく魔法陣がわかったな。使い方も。」
「それは、辺境伯の屋敷に着いてから説明すっから期待してなよ。さあ、最後の仕上げをしようぜ!」
ウィリスの肩を叩き、連れ添って控え室へと入って行った。
「そういえばさっき、着いてから、と言っていたが。」
「この後辺境伯の屋敷に一緒に行かないか?先に屋敷の連中に紹介しておきたいんだが。」
ウィリスは少し考えた後、問題なかろうと答え、今日競り落とした物品の確認をした。
控え室から出ると観覧席にいた女性陣がすでに待っており、合流すると一緒に競売会場から出る。
都市の出入り口の門近くにある荷馬車置き場にやってくると、エクサは馬を引き取りに厩舎へと向かった。
キリルとジーナは荷馬車を見つけて慎重に隈なく鼻をきかせて点検する。
エクサが馬を連れて荷馬車までやってくると、キリルが荷台を少し荒らされていることを報告して、エクサは荒らされた箇所を確認したが、大したことがないと判断した。
追跡の魔道具や罠などは取り付けられていないことを、キリルとジーナが報告して、エクサは御者台に乗り込んだ。
シャーロットに手を差し伸べ、御者台に座らせると、今度はウィリスに手を差し伸べた。
「こんな貧相な馬車に乗っていくのか。」
「俺らはな。貴族様は自前の馬車はないのかい?」
「いや、我々が乗ってきたものはあれだ。」
ウィリスが指さす方向を見ると、布を被り封印魔法を施されたものが2つ並んでいる。
「何だあれ。」
ウィリスが布に近づくと、封印がひとりでに外れ被っていた布がどんどん小さく折り畳まれていく。
手のひらぐらいの大きさまでに折り畳まれるとウィリスはその布を上着の内ポケットにしまう。
出てきたのは金属の塊だった。
「何だそれ。」
「これはな。」
ウィリスが金属の塊に跨ると、金属の塊の随所に赤の光の筋が流れ始めた。
光の筋は段々接地面に収束し始める。
「こうやって使うんだ。」
ウィリスが横に長い棒を持ち、前屈みになって手首を手前に捻る。
ゴウッと音がしたかと思うと、金属の塊は宙に浮いた。
「重力を制御する魔法で動く乗り物だ。魔力さえあればずっと乗っていられるし、馬より速いぞ。」
ウィリスはまた手首を捻るとキーンと音を立てて前進し始めた。
「これも競売で手に入れたのか?国宝級じゃないのか?」
「そうだな。高かった。妻の誕生日に買ったのさ。一緒に出掛けるようにな。どこでも一瞬で転移できるこの時代に、こんなものは無用の産物だろうな。だが、浪漫がある。」
いつの間にかサヴィーヌがウィリスの隣に並んで跨っている。
「さあ、行こうか。」
「ち、ちょっとまて。とりあえず門を出たらあの丘を目指すぞ。」
エクサが慌てて転移してきた丘を指さすと、それをウィリスは確認して先に飛んでいってしまった。
「自由すぎんだろあの貴族。」
エクサはウィリスが去った場所を見つめ、馬を歩かせた。
「私はこっちの方が好きよ。」
シャーロットがベッタリとエクサにくっついてもたれかかった。
エクサたちは門をくぐり抜け、都市退出の手続きを済ませると、丘を目指して出発した。




