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第64話 入札

エクサは競売会場入りするために服装を選んでいる。


「やっぱこれだな。」


白に近い淡い水色のシャツに、ターコイズブルーのジャケットにベストとズボン、茶色の鞣した革靴、髪はオールバックといういで立ちだ。


『おまえ本当にエクサか?見た目が帽子以外変わりすぎだ。』


キリルがエクサの変貌ぶりに驚愕して口をあんぐり開けている。

ジーナはというと、私が護衛するにはこれくらいの容姿じゃないと釣り合わないわね、と言わんばかりの顔をしている。


『キリル、マジで同情するわ。それじゃあ行こうか。』


部屋の鍵を閉め、昇降機に乗り、受付の男に鍵を預けた。


「昨晩はいかがでしたでしょうか。」


「ああ、最高の夜だったよ。」


受付の男が引きつった笑いを浮かべたことをエクサは見逃さなかった。


「そうですか、それではいってらっしゃいませ。」


エルフと魔狼たちが競売会場へと出発した。


『あのフーマンの顔、何だったんだ?』


『ああ、シャーロットに宿泊場所を密告して、俺から金を巻き上げるそのおこぼれにあずかるつもりだったんだろうな。最初は巻き上げるつもりだったんだろうが、朝急にシャーロットの様子が変わったろ?何もせずに帰ったし、部屋を出た後シャーロットに何か言われたんだろ。気にせず行こうぜ。それよりも俺はキリルのその後ろ足が気になるぞ。護衛できるのか?』


キリルの後ろ足ががくがく震えているのをエクサが指を差して忠告する。


『大丈夫よ。』


ジーナの不敵な顔を見て、何故お前が答える、という言葉をエクサとキリルはぐっと飲み込んだ。

競売会場に着いた頃には昼を回っていた。

受付の方に歩いていくと、シャーロットが椅子に上品に腰掛け、参加者の応対をしているのが見えた。

昨日と同じ格好をしていたが、スカーフがエクサと同じターコイズブルーになっている。

シャーロットのいる方に近づくと、ティーヴァの受付嬢が手招きをしている。


「お客様、どうぞこちらでも入場手続きが行えますので。」


エクサがティーヴァの受付嬢の前に、受付台を隔てて立つと、受付嬢が身を乗り出して口の横に手を当て声が漏れないようにしている。

エクサも耳を貸そうと顔を傾けた。


「隣の彼女、今回の競売で退職するらしいんですが、お客様と昨日何かありました?」


エクサは勢いよく姿勢を直立に戻すと、ゆっくりシャーロットの方を向いた。

シャーロットは笑顔で応対に臨んでいる。


どうしてそのようなことを、と言いかけたところでこのディーヴァの受付嬢が昨日していたスカーフの色が赤だったことを思い出した。

宿の男も赤のスカーフだったことを考えるとこの受付嬢には全て筒抜けであることが理解できた。

エクサはただ黙って入場手続きを受付嬢に依頼した。

手続きを終えたところでまた耳打ちをしてきた。


「私、興味あるんですよね。ここでの仕事は彼女にすごく合ってると思っていたんです。彼女をそうさせた引き金が何か、知りたいんです。」


「そんなこと言われても俺も知らんぞ。」


ディーヴァの受付嬢はただうふふと含み笑いをするだけで通常業務に戻った。


「お客様、こちらが入場許可証です。今回の競売は3日間行われます。その間、この許可証があれば出入り自由ですので競売の合間にお食事などでお外に出られても構いませんし、再入場のときはこの許可証を提示いただくだけで結構です。それでは、ごゆっくりとお楽しみください。」


エクサは許可証をディーヴァの受付嬢からひったくると競売の行われるホールに向かって歩いていった。


『エクサ、大丈夫か。』


『キリル、悪いがほっとけ。さあ、目当ての品を落札するぞ、ヘルトのダンナの資金があれば大抵何とかなんだろ。』


ホールの入退場口にいる受付担当に許可証を提示して中に入っていった。


競売は熱気に包まれていた。

またその熱気の中に妬みや嫉み、悔恨や殺意が入り混じっている。

落札してやろうとする異様な雰囲気にエクサは飲み込まれてしまいそうになった。

ジーナがエクサの右手に噛み付く。


「いて!」


大きな声を出してしまい、競売参加者の視線を集めてしまった。

エクサは照れ臭そうにして、許可証に書かれている魔獣と参加できる席に移動した。


『ありがとうジーナ。飲まれるところだった。』


エクサが席に座ると、凛としてエクサの隣にジーナが座った。

キリルも隣に座ったが足がガクガクしている。


『まだ、腰が痛いのか?』


エクサはキリルに念話を送ったが返事が返ってこない。

完全に雰囲気に飲まれてしまっているようだった。


『放っておいても大丈夫。目の前のことに集中して。』


肝が据わっているジーナの姿を見て、エクサは心底ジーナを護衛に選んで良かったと胸を撫で下ろした。


「さあ、次に参ります。商品はこちらです!」


ホールの真ん中に置かれた簡素な台の上に、出品物が置かれる。

出品物について、鮮やかな色で着飾った女のティーヴァが時に仰々しく時に恭しい声色で説明、進行している。


「こちらの商品は・・・。」


出品物が台の上に置かれては早い展開で落札されていくのを繰り返した。

落札者の顔や懐具合を観察しつつ、エクサは次に来るか次は目当てかと機会を窺って手を握りしめている。


「それではこちら!本日最後の商品です!」


男3名がかりで巨大な槌を持ち、台に置かれた。


『『きた!』』


エクサとジーナが心で叫ぶ。


「こちらの商品はドワーフの伝説の名工が希少金属であるアダマンを用いて作り出した槌と言われています。耐久性に優れており、みなさんもご覧いただいたと思いますが、非常に重たいものでもあります。この槌を振るうことができるものはこの世に存在するのでしょうか。さあ今日最後にして注目の商品です!金額はこちらから始めます!」


エクサがすかさず軍資金を確認する。


『おし、必ず落とす!』


落札者がこぞって手を挙げ金額を提示する。

エクサも負けじと新たな金額が提示されては手を挙げ更新していく。

やがて入札者はエクサと宿ですれ違った太った男との一騎討ちとなった。

太った男が金額を大幅に吊り上げ、会場がどよめく。

エクサはその金額に上乗せして叫ぶ。

また太った男が吊り上げ、悲鳴にも似た声が会場に響く。

エクサは構わず更新し、太った男がエクサの方を勢いよく見て睨みつけた。

太った男が金額を少しばかり更新し、拍手が起こった。

拍手がやみ、司会とも皆エクサに注目している。

エクサは何も構わず平然とした表情で金額を更新し、大きな拍手が起こった。

太った男は歯を食いしばり拳を握りしめているが、金額の提示をしないでいる。


「さて、今こちらの金額です!他に入札される方はいらっしゃいますか?」


あたりが静まり返り、暫しの沈黙が訪れた。

太った男は参ったと言うように体の力を抜き手足を投げ出して椅子に座り込む。


「では新規の入札をここで締め切ります!この槌は、そちらの方が落札されました!」


大きな拍手が起こり、やったな、と見ず知らずのものからエクサは称賛を浴びた。


「それでは本日の競売は終了いたします。皆様お疲れ様でした。まだあと2日ありますので、皆様のご入札をお待ちしております。本日落札されました方はそちら出口から控室へとお越しください。」


エクサが立ち上がり、控室に向かおうとすると、太った男が近づいてきた。


「なかなかやるではないか、見直したぞ。だが次は引かないぞ。」


「へへ、そりゃどーも。あんたも武器狙いなら残りの日も負けないからな。」


敵対心のこもった握手を交わし、それぞれの出口に向かった。


控室に入ると先程の司会や関係者が、落札者の相手をしている。


「落札されましたお品物は後日お届けいたします。まずは落札額をこちらにお納めください。」


この場で持ち帰れないことが窺い知れる。

エクサは周りを見渡していると、司会がエクサのもとにやってきては他の落札者また同様に説明を始めた。ひと通り説明が終わるのを待つ。


「それではお預かりいたします。」


渡した額の多さにエクサは通貨を数えて手にじんわり汗が滲むのを感じた。


(ヘルトのダンナ、一体どこからこんな金を・・・。個人で持つには多すぎだぜ。)


宿の代金も、先程の落札額も、全てヘルトの資金援助があってのものだった。


「はい、確かにお預かりいたしました。お品物は競売の日程終了後にお渡しいたしますが、どちらにお運びいたしますか?」


エクサは今泊まっている宿を指定し司会に告げた。


「それでは手続きは以上となります。ありがとうございました。」


エクサは控室を出て会場の出入り口を目指した。

受付が見えてくると、シャーロットの姿はなくティーヴァの受付嬢のみが残っていた。


「お客様!」


エクサは用もないので通り過ぎようとしたが、呼び止められてしまった。

仕方なく受付の方に向かう。


「私もこれで上がるのですが、どうですか?一緒にお食事でも。」


「そういうのって普通逆じゃないか?」


「そうですか?ここに座っていると、こちらから声をかけないと何も始まらないのですよ。なんせ来るお客様は女については困っていない方ばかりですからね。」


「確かに。そう言われればその通りだ。」


エクサは太った男を連想した。

相手の真意はエクサも魔狼も真実の瞳を使えないためわからないが、


「そうだな。うーん、こいつらも一緒に行っていいのか?」


エクサが魔狼たちを指さすと、受付嬢は少し考え残念そうな顔をした。


「そうですね、魔獣と連れ立って食事できる場所は少ないですし、食事の味も私の好みではないので・・・。できたらお客様のみで。」


様々いる魔獣に対応するため種類や量を揃えることに心血を注ぐことになり、どうしても食事の味が疎かになってしまうところが多かった。


『エクサ、どうする。』


『何か企んでいる、と考えるのが順当だろーな。シャーロットのことも気になる。お前らは部屋に戻ってくれないか?シャーロットが来るかもしれない。二手に分かれる、ということにしておこう。こっちはこっちで警戒して、何を企てているのか探ってみようか。』


『わかった。キリルも休ませなきゃいけない。』


『これからは程々にな。』


くうん、とジーナが反省したように項垂れた。


「わかった。一度俺らは宿に戻って、俺だけ出てこよう。待ち合わせ場所は?」


受付嬢がにやっと笑う。


「それじゃあ、1時間後、ここのお店の前で待ってるわ。」


市内の観光案内図を受付台の下から取り出して場所を指し示した。

宿からほど近い、肉を主要とした食事を出す店だ。


「わかった。よしいくぞ!」


夕日のさす中、エクサと魔狼たちは宿に向けて出発した。

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