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第61話 思惑

エクサが中立都市ネウトラルの門までやってきた。

門兵に、商人であることを伝え、商人の証を提示すると、荷馬車は入ってすぐに置き場があることの説明を受けた。

荷馬車のそばにいる魔狼について質問を受けたエクサは、魔狼は従魔であり街中を一緒に散歩したいことを伝えた。

金持ちたちが自尊心と自身の財力を示す道具として、街中を魔獣を連れて歩くことはよくあり、門兵はあまり騒ぎを起こさないようにと釘を刺すだけに終わった。

エクサたちは難なくネウトラルの門をくぐった。


『うまくいったな。』


『けっ。』


エクサが念話に切り替えた。

荷馬車置き場につき、すでに整理が終わっている荷台に布を被せて、馬を一時預かりの厩舎につれていく。

エクサに付かず離れず一定の距離をキリルとジーナは保っていた。


『確かに、刺すような気配がそこかしこからするな。』


『そうだな。そうやって一歩下がって一定の距離を保っていてくれ。俺の言うことを聞く従順な魔獣のフリをしてくれよ。このまま競売会場まで歩きながら向かうぜ。』


キリルとジーナは不快感からしていたことが逆に、目を欺くことに功を奏していたことに気が付き、大きくうなだれた。

魔狼を連れて歩くこのエルフを避けるようにして指をさしてワザ聞こえるように嫌味を言うもの、同じように魔獣を連れている者からは感嘆などが上がるなどして、競売会場までの道中退屈することがなかった。

巨大な丸屋根の建物、競売会場にエクサはたどり着いた。

入場口は二つ、落札者用と出品者用に分けられており、落札者用の入場口を通って受付に向かう。

ティーヴァとエルフの受付嬢が座って構えており、エクサは競売の出品の順番ど品物の名前を確認をした。

受付嬢はどちらも同じ服装で、胸元が大きく開いた黒のベストに薄いピンク色のシャツ、座っている姿からはわからないが案内役と思しき女のフーマンと同じ格好であるならば、膝上の短いスカートを穿いているのが想像できる。

どちらも豊満な胸を隠しきれずシャツのボタンは今にもはち切れて飛んでいってしまいそうだ。

エルフが青のスカーフ、ティーヴァが赤のスカーフを首に巻いている。

エルフの受付嬢がキリルとジーナを順番に見る。


「珍しい魔獣をお連れですね。出品されるのですか?」


「ああ、いや、こいつらは出品するつもりはないんだ。ただ連れてきただけで。」


「そうでしたか。この魔獣でしたら高額な取引になりますよ。」


エルフの受付嬢が受付台に肘をついて手を顔に添えて微笑む。

一般男子なら瞬殺の魅惑の微笑みにエクサは一切動じることはなかった。

微笑みを微笑みで返す。


「いろいろありがとう。また何かあったらお願いするよ。」


「かしこまりました。またのご来場お待ちしています。」


受付嬢がお辞儀をしてエクサを見送った。


「・・・あの客、あんたの魅惑の魔法効かなかったわね。」


「ええ、初めてですね。結構好みの方で、後で色々とお話できると期待したのですが。最近、金持ちたちの相手には辟易していたとこでしたし。」


エルフの受付嬢の表情が曇る。

ティーヴァの受付嬢がそんなエルフの表情を見て楽しそうにはにかんでいた。


「あんたがそんな顔するの初めて見た。あの犬を連れたエルフがどんなやつか、わたしも気になってきた♪」


「私が先に目をつけたのです。私が十分に味わって満足して、搾りカスになったら差し上げても構いませんわ。」


「おお、怖い怖い。でもわたしも体には自信あるから。どっちがあのエルフをおもちゃにできるか競争ね。」


うふふ、とエルフとティーヴァの受付嬢が張り詰めた微笑みを浮かべた。

エクサたちは競売会場から出て今度は宿のある場所を目指した。


『あいつら何なんだ?』


キリルが何度も後ろを振り返りながらエクサに聞いた。


『競売に参加する客を食い物にしてる奴らだよ。金持ちに言い寄って身体なんか捧げて、油断したところで機密情報なんかを聞き出して、その情報を売って金を巻き上げてるような奴らさ。金持ち同士の情報戦を手玉に取った気分でいたいのさ。』


『エクサ、魔法をかけられたのでは?』


『お、ジーナよく気が付いたな。あのエルフは俺に魅了を使ってきたな。魅了が効かなかったことを隣のティーヴァも不思議そうにみていたな。』


『なんで効かなかったんだ?』


『ああ・・・。あいつらのやってることなんか、戦場にいた奴らからしたらままごとみたいなもんさ。騙し合い、奪い合いが日常茶飯事。女はみな魅了なり何なりで命がけで情報をもぎ取りにきて、用が済んだら男を殺しにかかる。そんなことが毎日続いてみろ、そういった類の、状態異常魔法を無力化する道具なんかいつも肌身離さず身につけてるようになるさ。多分オムじいさんもヘルトのダンナも、一緒だろ。』


エクサは胸の内ポケットから薄い金属でできた板を取り出してキリルとジーナに見せた。


『お、もうこんなぼろぼろになってら。魔法を受けるとこんな感じで消耗していくんだ。次やられたらこれはもう使えないな。』


『なるほどな。それで、あいつらは仕掛けてくると思うか?』


『ああ、思う。なんせキリルとジーナを連れてるからな。あいつらからしたら俺は上玉って感じ?良いカモか。まあ、襲われることについては、たまには女を味わいたいし、歓迎かな。』


『はあ、余裕だな。』


顎に手を当てしたり顔のエクサに、キリルとジーナはため息を漏らした。

競売会場から都市の門に少し戻るように歩いていると、5階ほどある窓が整然と並んだ大きな建物の前に着いた。


『おし、宿に着いたぞ。さあて部屋取れるかな。』


宿の扉を開け受付へ足速に進んでいく。

髪の毛を額の7:3に分けビシッと撫で付け、スーツのような黒のジャケットに白のシャツ、黒のスラックス、ジャケットの右上腕あたりに赤のスカーフを巻いている、といった出立ちでかしこまった様子の男のフーマンが受付台を対面にして立っている。


「いらっしゃいませ。本日はご宿泊ですか?お食事ですか?」


「ああ、宿泊だ。この2匹も同室で泊まれる部屋はあるか?」


「確認してまいります。少々お待ちください。」


エクサが受付代に寄りかかり受付から周りを流し見る。

夕暮れで窓の外は赤く染り、窓は明るい宿の中を反射して映している。

さまざまな種族が思い想いの格好で、おそらく外行きの一張羅をその身に羽織り、宿のソファで談笑するもの、羊皮紙のようなものを熟読しているもの、荷運びの従業員に多量の荷物の取り扱いを指示するもの、誰かと待ち合わせをしてこれから街に繰り出そうとしているだろうものなどが確認できる。

エクサはそのようなものたちに比べ、いつも通りの格好だ。


『狙いを定めるような視線をかなり感じるな。危機はないようだが。』


『ここで事を起こすようなやつはいねーよ。それよりも気をつけとけよ。さっきの受付のフーマン、恐らくだが競売会場の受付と繋がってるぞ。』


『ん?何でだ?』


『腕に巻いてた布、一緒だったろ。』


『それだけでか?他にも、そこのやつも巻いてるじゃないか。色は・・・緑?赤のやつは・・・言われてみればいないな。』


エクサの予想が腑に落ちたのかキリルが警戒を強め首を左右に大きくゆっくり振って辺りを見回す。


『そうあんまりカリカリすんな。こういう時自然体が一番だ。』


「お待たせしました。」


エクサの背後から受付の男が整った容姿を連想させるような声を出した。


「こちらのお部屋が空いております。宿泊なさいますか?」


「んー、この最上階の角部屋しかないか?」


「本日はこの部屋以外で魔獣と宿泊できる部屋は満室となっております。」


「そうか、じゃあこの部屋でいい。支払いは前払いで頼む。」


「かしこまりました。」


エクサが腰のストラジから通貨を取り出して受付の男に渡した。


「お預かりいたします。少々お待ちください。」


受付の男が受付台の奥にある机の上で作業をしている。

受付の男が振り返り、釣銭を細かな装飾が施された木製の小さな盆に入れ、エクサの前に置く。

エクサが釣銭を鷲掴みにしてストラジの中に入れた。


「お荷物などはございますか?お運びいたします。」


「いや結構だ。」


「さようですか。ではお部屋までご案内いたします。鍵はこちらで一旦お預かりいたします。」


そう受付の男が言うと、受付台にある呼び鈴をならし、荷運びを呼び出した。

濃い緑のジャケットと黒のスラックスで手には白の手袋をしている。

金髪を後ろに撫で上げた頭に円筒形の濃い緑の帽子を被っており、長い耳がより一層際立つようなエルフの男が受付に優雅に歩いてくる。

受付の男が荷運びに鍵を渡して案内を指示している。


「お客様、どうぞこちらへ。」


鍵を受け取った荷運びがエクサの前に立ち進行方向に手を差し出して歩き始めた。

黙ってエクサと魔狼たちはついていく。


「こちらの昇降機に乗って5階までまいります。昇降機の到着までこちらでお待ちください。」


昇降機は4台稼働しており、釣り糸も重しも無い空中を場所を上下にせわしなく浮いている。

動くとき、昇降機内の天井が淡く光る。

しばらく荷運びの後ろで昇降機の到着を待っていると、一番右の昇降機が下に降りてきた。

昇降機の扉が開くと中から、貴族らしき格好をした太った男のフーマンと、煌びやかなドレスを身に着けたフーマンよりも背の高い女性のティーヴァが降りてきた。

男のフーマンがぎろりとキリルとジーナを見た。

2名とすれ違うように昇降機へとエクサたちは乗り込み、昇降機を操作している荷運びと同じ服装の女のティーヴァに行き先を伝えた。

昇降機の扉が閉まろうとしたとき、男のフーマンが振り返り値踏みするように昇降機の方を眺めた。


「あれは珍しい。マジョアか。」


「ええ、そうですわね。」


似つかわしくない2名が耳打ちをして、登っていく昇降機を眺めていた。

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