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第60話 多量の石

フマト魔法研究所に到着したエクサは、以前ここについた時にシビルたちが出てきた部屋の位置を途切れた記憶から必死に思い出そうと辺りをうろついた。


「わからん。忘れた」


虱潰しに探すに変更。

中庭を中心に建物は円形に作られ、両開きの大きな扉の隣に等間隔に普通の扉が並んでいる。


「確かここから外に出て、ヘルトのダンナを・・・。」


大きな扉の前に来てエクサが呟く。

エクサは大きな扉の隣から順番に扉を開けて中を物色していく。

扉を開けた先には明らかに危険な雰囲気が漂っている部屋のところもあり、そういう部屋は後回しにする。

ちょうど大きな扉の反対側にある扉を開けたとき、剥製のような作りの細かい魔狼を模した像をエクサが見つけた。


「よおうしここだ。絶対ここだ。」


エクサがシビルの研究室と思しき部屋に入り、奥へと進むと魔法陣が何も描かれていない山積みの転移石が見つかった。


「本当に、腐るなこりゃ。」


エクサは上から順に転移石をストラジに放り込んでいく。


「ちょっと魚臭い。」


ヘルトがエルフェンで食料の買い物に使用したストラジだった。

調理場にあるストラジに移し替えた時に魚の匂いがうつったのだろうとエクサは推察しつつ、もくもくと転移石を入れていく。


「もう無理。」


半分ほど山を崩したところでエクサが音を上げた。

ストラジもちょうど一杯になろうとしていた。

ストラジを抱えて部屋から出て、荷馬車にストラジを置いて御者台へと移る。


「あ、やべ。」


エクサが御者台から飛び降り、開けっ放しの扉を次々と閉めていく。

すべて閉め終わり荷馬車にかけて戻っていった。


「何もなかったな。よし!戻るぞ!って屋敷に直接いけるのないじゃん・・・。うへぇ、エルヴス領旅立ちの岬へー。」


肩をがっくり落として転移石に魔力を込める。

荷馬車が揺らいで掻き消えた。

荷馬車と入れ違いに王国騎士団の団員が見回りに入ってきた。

何事もなかったものとして、よく見まわることなく大きな扉の外に出て行った。

それからエクサは2日かけて辺境伯の屋敷に戻った。


「やあっとついたぞおお。」


エクサが結界の中に入ってくるなり屋敷に向かって叫んだ。

だが誰も出てこない。


「ったく仕方ねーな。キリルー、荷馬車を見ててくれ。」


荷馬車を中庭にとめ、ストラジを抱えて屋敷の地下室を目指した。

扉を開けると椅子に腰掛け武器が置かれた机の前にいるシビルが目に入り、エレン、マギローブ、オムがいることに気がつく。

シビルは扉の方に目を向けて、片眼鏡をしているが外そうともせずそのまま武器に向き直る。

オムが席を立ってエクサの近くに寄った。


「転移石、持ってきたぞ。」


ドスンとストラジを床の上に置くと、エクサが中から転移石を取り出そうとした。


「ちょっと待って、ここで出さないで。」


シビルがオムの後ろから声を出す。

シビルがようやく立ち上がり片眼鏡を外してやってくる。


「なんでだ。」


「量があったでしょ。ここに全部出されても入らないわ。」


「置くなら広いから置けるだろ。」


「浄化の魔法陣の上に置くのはダメよ。あれまだ使ってるんだから。」


「そーですか。それじゃどこにおきましょーか。」


「エクサ、あなたの部」


「断る。」


「まだ最後まで」


「断る。ん?何だこの金属の板。」


「その板は!魔力増幅の魔法陣を小型化したものよ。作ってみたけど私のような優秀な魔法師には必要ないわ。」


「んじゃもーらいっと。」


「ちょっと!私に断りもなしに持っていかないで!」


エクサが胸のポケットに魔力増幅の金属板をしまった。


「これこれ、エクサ、そのストラジはワシが預かっても良いかな?」


「ストラジは持っていきたいんだよな。中身を出さないと使いたい時に使えなくなっちまうから、オムじいさん、じいさんの使ってる部屋に置いとくぜ。」


「あ、ちょ、ま、エクサ!」


エクサが地下室から出ると一目散にオムの部屋に走っていった。

オムの部屋に着くと扉をバーンと開けて、フロアトを出してストラジを逆さまに浮かした。

フロアトを揺らすとストラジも一緒に揺れ、中に入っている転移石が雪崩のようにドバァッと出てきた。

何故か転移石の山の上に魚が乗っている。

オムが部屋についたのは、エクサが中身が全て出たストラジを抱え、フロアトをしまったときだった。


「な、何という」


「さいならー。あと屋敷の転移石持ってくぜー。」


エクサは目にも留まらぬ速さで荷馬車に戻ると武器探しに転移石を握りしめてキリルとジーナを連れて転移して行った。


「さて、ここはどこでしょうか。」


転移した先でエクサがキリルに問いかけた。

丘のような少し高い場所で、辺りは木が目隠しになる程度に生えている。

丘のふもと、木々の間に煉瓦でできているような建造物が見える。


『知るわけないだろ。』


ぶっきらぼうな回答が返ってくる。


「まあそう言わずに。ここは中立都市ネウトラルだ。この都市周辺で戦争をしてはいけない区域として種族間で定められている。エルフやフーマン、ティーヴァには娯楽が必要ってことで、ここではいろんな娯楽施設がある。これから行くところは競売会場だ。金持ちたちが珍しいものを買い漁って購買欲求を満足させたり散財して日頃の鬱憤を発散するような場所だな。」


『ならエクサだけで行くといい。俺らは荷馬車の守りだ。』


「それがそうも言ってられないのよ。キリルやジーナはアルトゥムカニスマジョア、希少生物なんだわ。捕まったら即競売行きだぞ。」


『我らが後れを取るなど!』


「まあ落ち着け。戦争をしてはならない、この言葉の重みが他のとことは段違いだ。武術や魔法に長けているものがいるし、荷馬車を守りながら戦うなんて不利な状況ならキリルやジーナが負けて捕らえられる可能性なんかいくらでもある。俺と従魔契約しているとして都市に入る方が安全だ。荷馬車の荷物は貴重品以外放置から護衛は必要ないさ。」


キリルが口を真一文字にして黙って聞いている姿を、表情豊かな魔狼のことをエクサは面白がりながら話をした。


『ぐぬぬ、ジーナが守れるというなら、致し方なし。貴様に従うなどと。』


「まあまあ、あくまで、つもり、だから。荷物の整理をするからちょっと見張っていてくれ。」


ぐるぐる言っているキリルをよそに、エクサは腰に小型のストラジを巻き付けて貴重品を入れていく。

ジーナはキリルに良くやったというように、顔をなめてやっている。


「こっちは準備できた。さあこれをつけてくれ。」


キリルが今日一番の嫌な顔をした。


「この首輪をつけて都市に入る。俺の腕輪とお揃いだぜ♪」


エクサが荷馬車の上で気取った態度をして腕輪を指さした。

げんなりした様子のキリルと、エクサの腕に咬みつかんと飛び掛かったジーナの姿があった。

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