第59話 転移と親心
エルフ3名は風呂に一緒に入りそのままエクサの部屋で仲良く就寝となった。
次の日の朝、朝食を終えて中庭に全員集まっている。
「ほれ、これを持っていくとよい。」
リザルに転移石が手渡された。
「ここの転移石じゃ。持っていることを知られぬようにな。ワシらも十分に気を付けるでの。」
オムが中庭の地面に指をさしながらリザルに忠告した。
「はい、ありがとうございます。それでは早速家に戻るとしましょう。」
リザルが馬の手綱を引っ張り、立っているところの近くに馬を寄せる。
セルヴェは馬と自身をリザルにぴったりくっつく。
「そんなにくっつかなても大丈夫じゃわい。」
そんなセルヴェをオムが笑った。
「それではまた、ひと月後にお会いしましょう。何か突発的な動きがありましたら、その時はこちらに寄らせていただきます。」
リザルが転移石に力を込めてるよう強く握りしめた。
「エルヴス領エルフェン、私の家。」
呟くようにゆっくり唱えるようにリザルが言った。
リザルたちの足元に魔法陣が展開する。
オムやエクサは魔法陣から離れるように一歩後ずさる。
「またな!同胞!」
リザルたちが掻き消えた。
エクサがそそくさと荷馬車の方に駆け寄り御者台に飛び乗った。
「さて、それじゃあ俺も行ってくるぜ。まずは転移石だな。オムじいさん、研究所の転移石をくれ!」
エクサがオムの方に手を差し出す。
オムが懐から転移石を取り出してエクサに投げ渡した。
「ほれ、行ってこい。」
「おう。フマニテ領フマト魔法研究所!」
魔法陣が展開し荷馬車が掻き消える。
「そういえばエレン、昨日ずっと黙ってたけど、魔獣討伐には参加するの?」
コサックが思い出したかのように変身中のエレンに声をかけた。
「そうさね。マギローブが行くだろうからワタシはここに残るかねぇ。屋敷の防衛も必要だろうし、今オムに結界を教わっているからワタシの方で結界をかける練習でもして待っているよ。できるようになりゃ、オムも結界で使っている魔力を他に使うことができるだろうしね。」
「辺境伯が帰ってくるのを待ってたりする?」
「・・・ワタシゃあの言葉を信じるだけだよ。」
エレンがコサックに笑顔を向けて屋敷に戻っていった。
コサックは今度はオムに話しかける。
「オムさん、エルトレドの結界ってどうしてるの?」
「ん?ああ小屋のかね?小屋はまだ結界を張っておるが、あの規模じゃ。大したことは無い。街の方は何名かで手分けして張っておったが、ワシの分は必要なかろうと思って消したわい。ほっほっほっ。」
オムが笑いながらエレンと同じように屋敷に戻っていった。
オムと一緒に屋敷に戻ろうとしたヘルトをコサックが呼び止める。
「ヘルトさん!」
「おおなんだコサック、大きな声を出して。」
「すいません。あの、稽古を、つけてもらえませんか?」
コサックが両手を握りしめてヘルトの目を見つめた。
そんなコサックのお願いをヘルトは首を横に振って断った。
「だめだコサック。早いうちに稽古をつければ、同世代の子供らなら抜きんでて強くなれるだろう。でもそれでは、私とコサックの実力の差はすぐには埋まらない。稽古はつけても良いが今じゃないと、私は考えている。それにコサック、君が死んでまた転生できるかわからんし、転生できてもまた赤ん坊からとなると、それこそ我々の行動範囲は狭まってしまう。あまり事を急いてはいけないよ。」
「なら、せめて自分を守る術を。」
「うーむ。君にはマクシムとソフィア、マギローブがいるから大丈夫ではないか?」
コサックが悲しそうな顔をして俯く。
ヘルトが苦笑いを浮かべながらコサックに提案する。
「まあ慌てることはない。そうだな。護身術くらいなら覚えていても損は無いだろう。仕事の合間に少しだけ稽古をつけようではないか。」
コサックの顔がパアッと明るくなる。
「ありがとうございます!ヘルトさん!」
コサックが屋敷の方にかけていった。
ヘルトは腕組みをしてコサックの後姿を目で追っている。
「私に子供がいたら、あんな感じだろうか。」
ヘルトが小さな声で呟いた。




