第6話 春
魔狼たちは洞窟を出た。
雪解け水が地表を洗い流している。
洞窟で共に過ごした獣たちは、出ると同時に弱肉強食の関係が復活する。
弱者は我先に森の奥へと姿を消していく。
強者は、悠然と洞窟から出ていくが、すぐに獲物を追いかけ食らおうとはしなかった。
世界に食料が乏しく、今すぐ狩ってしまうと次世代が生まれず食糧難になってしまい、自分の首を絞めてしまうことを、強者はよく理解していた。
洞窟から雌たちと梟が出てくる。
陽の光に当たった梟の姿はミミズクに似て羽角がある。
換羽期なのか白い羽から茶色へと変化している。
森の中に入り、雌はさっそく籠を新調するため魔法を使った。
一回りほど大きな籠を作り、布を敷き詰めて行く。
布を敷き詰め終わり、寝ている赤ん坊をそっと移し替えた。
小さな古い籠は子供たちがバラバラに壊した。
魔狼たちは獲物が取れる場所を目指し、歩き始めた。
しばらく森の中を歩くと、少しひらけた場所に出る。
雌が休憩を取るため広場の真ん中に移動した。
子供たちは狩りに森の中は駆け出し、雄は雌のそばで周囲を警戒している。
籠の中で掴まり立ちをするようになった赤ん坊を、雌は面倒を見ていた。
洞窟内で梟と話したように、雌は赤ん坊に向かって念話を使っていた。
初めのうちは全く反応をしなかったが、最近呼びかけると振り向くような気がしていた。
赤ん坊はあーうーと声を出しながら籠から雌を触ろうと手を伸ばす。
雌は顔を近づけ触れさせる。
楽しそうに顔をまさぐり、その拍子に赤ん坊の指が雌の目を突いてしまい、痛みで雌は顔を勢いよく上にあげた。
赤ん坊はきゃっきゃと笑っている。
表情も多彩になってきた。
子供たちが獲物を咥えて雌のもとに帰ってくる。
子供たちの狩りも失敗が少なくなってきた。
久々の肉を魔狼たちはすぐに平らげ、少し休憩したあと広場を出て魔狼たちはまた森を進む。
何日も似たような日々を過ごしているうちに次第に木々の緑が深みを増し、夜も過ごしやすい日が増えてきた。
春も後半に差し掛かった頃、魔狼たちは都市の近くまで来ていた。
不浄の地の監視用の都市である。
魔狼たちは監視都市からの討伐隊に警戒した。
監視都市にとって脅威とされる獣は須く殺され、食料になる。
脅威とされない獣は討伐隊の前に出ない限りは努めて狩られることはない。
監視都市は、弱者が強者から身を守るための手段と一つとなっていた。
魔狼たちは、危険と隣り合わせだが、狩りが楽になる監視都市の近郊をしばらくの拠点とすることを決めた。
もうすぐ夏になる。
赤ん坊が産ぶ声をあげてから一年を迎えようとしていた。