第57話 最新の図鑑
コサックたちは孤児院を出た後リザルに連れられ、案内されるままにあっちこっちに顔を出した。
武器屋、防具屋、服屋、本屋、肉屋、鮮魚屋と商店が軒を連ねている、ひと際活気のある通りにさしかかった。
コサックは荷馬車に揺られ、孤児院でのことを道中反省していた。
「まあそんなに気を落とすなよコサック。ここで何か買ってやろうか。」
コサックが顔を上げると、ちょうど本屋が目の前を通り過ぎるところだった。
「図鑑が欲しい!」
コサックが叫び、エクサが慌てて荷馬車を止めた。
「いきなり大きな声出すなよ。わかったどういうやつだ?」
「魔獣図鑑。」
「それなら辺境伯の屋敷にも」
「そうだな、最新版の魔獣図鑑を買うか。屋敷にあるやつは古いしな!リザル!セルヴェ!ここで少し買い物がしたい!」
エクサがヘルトの言葉を遮り、先を行くリザルとセルヴェを呼び止めた。
「じゃあ図鑑、買ってくるぞ。」
「私は食材でも見てこようかな。」
勢いよく御者台から降りて行ったエクサと対照的に、ヘルトは寂しそうに肉屋へと歩いて行った。
オムはマギローブと今朝作った転移石の魔法陣を見て何かをやっている。
しばらくしてエクサが戻ってきた。
「ほらよ、図鑑だ。」
御者台に座っているコサックにエクサが魔獣図鑑を手渡した。
早速コサックは魔獣図鑑を読み始めた。
(確か、ヴェノセルペンテスとブラークテスディスだったな。蛇と亀。)
ヴェノセルペンテスのページを開くと、エルフの挿絵を対照に巨大な蛇が描かれている。
鱗はまさに蛇のように並んでおり、背中に行くほど鱗の一枚一枚が尖っていき、鉤爪のような突起物が背筋をなぞって生えている。
尖った鱗は上からの攻撃に対処したものだろう。
色は全体的に白で描かれており、目は黄色をしている。
鱗の隙間を大きく開いて神経毒の霧を噴霧して動かなくなった相手を捕食するとあり、カウスの屋敷でセルヴェが説明したとおりの内容が書かれている。
魔獣ごとに危険度が載っており、星の数で示されているが、ヴェノセルペンテスの危険度は星が10並んでいる。
コサックは続けてブラークテスディスのページを開く。
これもまたエルフと対称に描かれた巨大な亀の絵が目を引く。
陸亀のように足が長く、甲羅が山なりで六角形の模様をしている。
顔は嘴があり首も尾も長く、黒を基調とした色で描かれている。
氷魔法が得意とセルヴェの解説のとおりの内容が書かれており、星は8つだ。
参考にアルトゥムカニスのページを開いてみてみると、星が6となっている。
(えーっとなんだっけ。)
コサックはページを行ったり来たりしてようやく見たことのある魔獣のページにたどり着いた。
アクシピトリ、魔獣大陸に住む鳥の魔獣で大きな鉤爪で相手を切り裂いたあと丸飲みにするか、火魔法で攻撃し仕留めた後で丸飲みにする。
エルフが対峙している大鷹のような絵が描かれている。
星の数は9になっている。
(あの鳥、こんなに危険だったのか。)
「コサック、ヴェノセルペンテスとブラークテスディスだが、かなりの大物だ。俺らの人数ではとても歯が立たない。辺境伯の屋敷に帰ったらみんなで相談しような。セルヴェ、その魔獣たちはまだ生きているんだよな?」
「ああ?ああ、穢れてはいない。生きているぞ。」
エクサの問いに少し考えたセルヴェが、馬の上から返事をした。
「そうじゃの。たとえ倒したとしても、穢れて甦れば厄介じゃ。不浄の地の外でとどめを刺し、穢れないようにしなければならん。どうするか検討せねばならんのう。」
エクサがオムの言葉を聞いて御者台の上でため息をつく。
「はあぁ、考えることは俺には向いてないよな。オムじいさんとかシビルとか頭脳組で考えてほしいぜ。・・・ちょっと服屋に行ってくる。」
エクサが面倒くさそうに御者台からおりて服屋に入っていった。
行き違いにヘルトがストラジを抱えて荷馬車に帰ってきた。
顔は行く時に比べだいぶ明るくなり、満足な買い物ができた様子でいる。
ヘルトはストラジを荷馬車の積荷に重ねて後方のヘリに腰を下ろした。
しばらくたってもエクサが帰ってこない。
「・・・エクサはまだか。」
セルヴェが馬の上で独り言をつぶやき腕組みをしている。
ようやくエクサが大きな荷物を抱えて帰ってきた。
「どうしたの?そんな荷物。」
「服だよ服。コサックの服とかいろいろだよ。あ、ちゃんと男の子のだぞ。」
エクサは、荷物を乱暴に荷馬車のストラジの上に置くと御者台に飛び乗った。
「悪い悪い、時間かかっちまった。それじゃあ行こうぜ!」
エクサが前方を指さした。
セルヴェが大きくため息をついて馬を前進させた。
リザル、荷馬車がセルヴェに続く。
一行はエルフェンの出入り口を過ぎて辺境伯の屋敷への帰路についた。
帰路もまた、行きと一緒で魔獣に襲われることも、野盗に襲われることもなく5日の昼に、屋敷にたどり着いた。
コサックはこの5日で図鑑を読み漁り、魔獣についての知識を獲得することができた。
「ふいぃぃ帰ってきたぜー。」
結界を過ぎて屋敷の中庭に荷馬車をとめると、エクサは飛び降りて伸びをして腰をとんとん叩く。
ヘルトがストラジを荷馬車から降ろし、屋敷の中へと消えていった。
オムとマギローブの姿もすでにない。
魔狼たちも見回りに行ったのか姿を消している。
「皆行ってしまいました。リザルさんセルヴェさん、屋敷の中で寛いでいてください。」
セルヴェがコサックの提案に手を顎に当てながら少し考えている。
リザルは馬を降り、適当な木に手綱を結ぶと、お邪魔するね、とコサックに笑顔で答え玄関の方へ歩き始めた。
セルヴェがそれを見て慌てて馬を降りリザルに続いた。
「コサック、荷物を運ぶから手伝ってくれ。この服だが、確か服しまってる部屋があったろ。そこにしまってきてくれ。」
エクサがドカッとコサックの両腕ぎりぎりで持てる大きな荷物を預けてきた。
荷物が上に積まれていき、3段になった。
(大きさに比べて軽いな。でも前が全然見えない。)
コサックは横歩きで玄関の方へ向かった。
コサックは、落とさないよう慎重に進み、ようやくクローゼットの前にたどり着くと、一度荷物を下に置き扉を開けた。
クローゼットに荷物を放り込み、開封してハンガーにかけていこうとしたのだが、いきなり女性、よりは年齢層が低めの露出度高めの服が出てきた。
コサックが肩のところを持って広げて見ていたところにクローゼットの扉が開けられた。
「コサック、ここにいるかい?」
少女が入ってきた。
「これは服かい?エルフェンで買ってきたのかい。ちょっと他にも見せておくれ。」
少女のエレンが服を引っ張り出し、着替えては鏡の前に立つ、脱いで放り投げては次の服を引っ張り出して、鏡の前に何度も自身の姿を、ポーズを変えて見ている。
「この脇の下から腰までかばっと裂けてる服は動きやすくていいね。この短いスカートも邪魔にならない。まったくお嬢様の服は動きにくいものばかりだから困ったもんだよ。ん?どうしたコサック。」
コサックはただぽかんとエレンの着替えを見ていた。
エレンも下着を着ることは覚えたようで上と下の下着までは脱がずに着替えをしていた。
「ほれ、コサック。これはお前さんのだろう。着てみせておくれよ。」
コサックがはっとして目の前に差し出された服を見た。
見た目は男児用といったものだった。
コサックは服を受け取ると、エレンと同じようにその場で着替えて鏡の前に立った。
「そんなに女の子みたいかな。」
「まだ言ってるのかい。コサックは可愛い顔をしているからね。男用の服でも女の子に見えてしまうのは仕方ないね。」
コサックはエレンが散らかした服をハンガーに掛けていく。
荷解きが全て済んで服を全てかけ終わると、一番奥にかけられているボロの布をコサックが手に取った。
エレンはボロ布を手に取るコサックの姿を見て、黙ってクローゼットから出て行った。




