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第55話 家内

「事情はよく分かりました。」


リザルを主人と言った女性のエルフが何が起きたのかの説明を受け、納得したような顔でリザルの方に歩いていく。


「主人は、従属魔法に憧れていました。適正は全くなくて、それでも使えるようになりたいと、従属魔法が行使できる者に付き纏っては、結局何もできずに終わることが幾度もありました。主人はただ、獣と話がしたいだけだったらしいですけど。」


リザルの妻が、まだ天を仰いでいるリザルを見た。

リザルを見る目は、念願叶ったことへの喜びを分かち合う感情と、侮蔑が入り混じったような目だった。


「それにしてもセルヴェさん、また逃げ腰だったのですか?喋る狼くらいなんですか。そんなことでは主人の護衛など務まりませんよ。」


リザルの妻が今度はセルヴェに説教をし始めた。

セルヴェの態度も存在も、どんどん小さくなっていく。


「あの、不躾ではありますが、あなた方はどういったご関係で?」


ヘルトが事態を飲み込めず、単刀直入にリザルの妻に聞いた。


「私は、リザルの妻であり、セルヴェの剣の師として鍛えております。またこの家では私が一番の年長者になります。」


リザルの妻の言葉を聞いて、男たちは誰がこの家一番の権力者かを悟った。

リザルの妻が優しくマクシムとソフィアを撫でると、リザルに張り手をかました。

とても良い音と同時にリザルが横へと吹っ飛ぶ。

リザルが頬に手を当てながら起き上がった。


「お目覚めでしょうか。お食事の準備ができておりますので、みなさんあちらの部屋までお越しください。セルヴェさん、ご案内して頂戴。」


雌以外、リザルの妻の迫力に気圧されていた。

男たちはリザルの妻の言葉に正直に従って部屋を移動した。


いただきますの挨拶とともに食事を始めたコサックたちに、リザルの妻がいただきますの意味について質問が入る。

コサックが説明しリザルの妻が納得、これからうちでも取り入れるとの宣言をして全員食べ始めた。

食事中は、リザルの従属魔法に対する熱い思いや、ヘルトとリザルの妻との料理談義、エルフたちと獣たちとの意思疎通などをして、比較的和やかに、食事を楽しんだ。

キリルとジーナも食事に同席していた。


「これだけの量、まさかあなただけでご用意されたのか?」


「いいえ、身支度は自分でやっていますが、食事には拘ろうと思いまして、雇っておりますの。」


「そこのそれを取ってくれ。っておい食べるな俺のだマギローブ!ああああ最後の一個だったのに!」


「これもおいしい!あれもおいしい!」


『坊や、たくさん食べて大きくなりなさい。』


他愛のない食事の会話が弾む。

食卓の団欒を終えて、男と雄、女と雌に分かれて体を洗うこととなった。

大勢で入るのは久しぶりとリザルの妻が張り切っている。

ウェラとジーナは遠慮しようと外に出て行こうとしたが、がっちりリザルの妻に捕まれ、そのまま引きずられて連れて行かれた。

洗い場はエルフ1名と体の大きな獣が3匹入っても少しの余裕があるくらい広いが、湯船は申し訳程度に小さい。

リザルの妻がワシワシとソフィアの体を洗っている。


「ねえソフィア。コサックを育てようと決意した時のこと教えてくださらない?私はまだ子供がいないの。なかなか子供ができなくて。これから母親になるものとして参考にしたいのよ。」


ソフィアは、コサックとの出会いや子供たちのことをリザルの妻に語った。


「・・・そんな、悲しいことがあったのね。同じ女としてその生き様には感服するわ。さあ流すわよ。」


お湯をゆっくりかけて汚れを洗い流す。

ソフィアはブルブルと体を振って水を弾いた。

ウェラとジーナは小さな湯船につかり目を閉じている。

すっかり湯あみが気に入ったようだった。


「さあソフィア、一緒に入りましょう。」


『む、これは小さすぎないか?』


「いいのです、さあ裸の付き合いをしましょう!」


リザルの妻が無理やりソフィアを湯船に抱えて入れた。


『お前、力持ちなのだな。』


「それはだって、男たちの稽古に付き合っているんだもの。力だってつくわよ。」


狭い湯舟がぎゅうぎゅうになり、はっていたお湯があふれ外に流れ出す。


「獣と話すことが夢だって、今日なんとなく理解できたわ。」


リザルの妻が湯気に向かって呟いた。


「先にお風呂を頂戴いたしました。どうぞ皆さん、ごゆるりとなさってください。」


ヘルトがコサックを連れて風呂場に直行する。


「あーやっぱりなー。」


洗い場や湯舟には魔狼の毛が浮いている。


「もしかして。」


「掃除を、始めようじゃないか!」


どこから出したのか、三角巾とエプロンを身に纏い、ヘルトが勢いよく風呂場を片付けていく。


(手際の良さは場所を選ばないのか・・・。)


あっという間にきれいになった。


「この毛はどうしようか。魔獣の毛なら買取もあるんじゃないか?しかも、アルトゥムカニスマジョアの毛だろ?」


「・・・それ奥さんのも交じってませんか?」


「っ!!いやぁうっかりうっかり。」


ヘルトが毛をまとめてゴミとして処分するように袋にまとめた。


「さあ入ろうぜぇ。今日は疲れたかんなぁっと。洗い場広!湯舟ちっさ!」


「エクサ、無礼が過ぎるぞ。」


セルヴェがエクサに拳を向ける。


「いやぁ、辺境伯の屋敷の風呂ってやっぱでかかったんだなって、これ見て思ったわ。リザルとセルヴェも次ぎ来たときは入って行けよな。」


エクサは前も隠さずたーと走って洗い場の蛇口前に座り、体を洗い始めた。


「エクサさんの体、見ましたか?」


「え?ああ。」


「古い切り傷などがいっぱいありましたね。よほどの死線を潜り抜けてきたのでしょう。」


「そうですね。リザル様はいつまでのきれいな体でいてください。あなたに戦場は似合わない。」


「ありがとうセルヴェ。これからもよろしく頼みます。」


2名のエルフが湯気の中に消えていった。


「さあ今日も背中を流すぞ!コサック!オムさんもどうぞ!」


「気合入ってますね。」


「ふふふ、コサック、仲間が増えるのはいいことだな。」


ヘルトの大胸筋が上下に動く。


「そうですね。」


「そうじゃの、まあお主とワシは犯罪者じゃけどな。コサックを犯罪者の仲間に引き込んでしまったの。」


「・・・それはおいおいどうにかなるでしょう。」


ほっほっほっ、とオムがしゅんとしてるヘルトの背中をバチンバチン叩いた。


男たちも全員風呂から上がり、祈りを捧げることとなった。

リザル、リザルの妻、セルヴェが不思議そうにコサックたちが祈っている姿を見て、まずリザルの妻が見よう見真似で祈りはじめ、リザルとセルヴェも続いた。


「この祈りは何の意味があるのです?これは・・・光っているのでしょうか。」


「祈りが浄化には必要なんです。そうだ、なにか人形とか像とか、そんなのありませんか?」


リザルが流木を持ちながら、コサックの問いにしばらく考え込む。


「孤児院などにはあるでしょうか。お時間が許すなら、明日行ってみましょうか。」


「お願いします。こういったものが多くあればあるほど助かります。」


コサックとリザルは孤児院に向かう約束をして、寝床が用意された客間に入ってすぐに眠りについた。

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