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第51話 波紋

「ここから首都エルフェンまで馬で3日ほどかかる。食料は荷馬車があるから十分だろう。道中の魔物の対処は、こちらはこちら、そちらはそちらでやってもらう。」


「魔物なんぞ襲ってくるかのう。」


「・・・確かにこの集団に襲い掛かってくるほど憐れなものはいないだろうな。」


屋敷の外、結界の外に出たコサック一行は、セルヴェとエルフェンまでの道程を話し合っていた。

エルフの親衛隊は規律正しく、リザルの乗っている馬を先頭に整列している。


「こちらはいつでも出られるぞ。リザル、歩法は荷馬車に合わせてくれ。」


親衛隊の1人が馬の上からエクサの方を向く。


「様をつけろ、エクサ。」


表情ひとつ変えずにエクサに忠告した。


「そっちも様をつけろよな。誰も成しえなかった不浄の地の浄化を成功させたんだぜ。」


親衛隊の眉がピクッと動き、手綱を持っている拳を強く握りしめている。


「あまり無礼な態度をとるなよ、エクサ、我ら親衛隊はお前ごときの首くらい簡単に刎ねられるぞ。」


「そうかいそうかい。だってよ、赤い旋風さん。荷馬車の護衛頼んます。」


「もしそういうことが起きようならば、僭越ながらこの赤き旋風と殲滅の魔法師が相手をしよう。」


ヘルトがワザとらしく二つ名を使って仰々しく親衛隊の方を睨んだ。

ヘルトの言葉を聞いたリザルの親衛隊はどよめき、みるみるうちに顔が焦りの表情に変わって行く。


「あ、赤き旋風と殲滅の魔法師だって?!」


「戦場で名を馳せた、一騎当千とも言われるフーマンの実力者たちじゃないか!」


「なぜそんな輩がここにいる!」


親衛隊が喚いている。


「エルフってのはもうちと知的で穏やかなのかと思っとったが、違ったようじゃの。ちなみに御者台にいるのは嘆きの死神じゃが、知っておるかな?」


オムの言葉に今度はリザルとセルヴェも驚きの表情を見せた。


「この商人が?!戦場で一緒になったことはないが噂は聞いている。対峙したものを安らかに一瞬であやめて行く様はまるで死神のよう、戦いが終わると戦場で散った命を憂いて悲しみ慟哭する。かの英傑がこのようなところにいるはずあるまい。」


セルヴェが嘲笑するように口角を片方あげる。


「なんじゃ、知りもしないのによく言えたもんじゃわい。エクサはな」


「昔話はいいんだよ。さっさと行こうぜ。」


エクサが面白くないと言った表情で御者台から声を上げた。


「お、なんだあれ?」


エクサが空を指さした。

小さな一つの光に見えたものは、次第に多くの光の筋が集まったものだと分かった。

エルフたちが空を見上げて、その明らかな異常事態に慌て、馬から落ちるものまでいた。

しかし、コサックたちはエルフたちとは対照的に、落ち着き払った様子で空を見上げている。


「帰ってきたのかな?」


「ああ、きっとそうだな!」


エクサが満面の笑みでコサックに微笑んだ。


「あれを見て笑ってやがる・・・!」


親衛隊がエクサの笑みを見て戦慄し、リザルに隠れるように陣形を整えた。


「(この方々は、いや!この方々なら!)さあ、行きましょう。まずはエルトラドに向かうということでよろしいですね?」


リザルは人知れず決意を胸に、オムの小屋のある街、エルトレドへと先陣を切って出発した。


「エルトレドを経由するとエルフェンまで、荷馬車の足で一週間か・・・。」


セルヴェが軽くため息をつきリザルの後を追う。


「マギローブ。ちょっといいかの。転移石への登録方法について教えるぞい。」


オムはマギローブを呼び、荷馬車の上で授業を始めた。

ヘルトはそんなオムたちを横目に荷馬車の後ろを仁王立ちで眺めている。

コサックはソフィアに跨り、マクシムと荷馬車を引く馬の前方を、ミハイルとキリルは荷馬車の左右の守りをかため、リザル率いる親衛隊にそれなりの速度でついて行く。

エルトレドまで丸二日、豪華な護衛に囲まれた荷馬車は危険な目に遭うことも、ましてや魔獣に襲われることもなく、平和な旅を過ごした。

オムとコサックは、文字を覚えるために初めて出会った小屋に行き、オムが保管していた未使用の転移石をいくらか持ち出して荷馬車のストラジに仕舞い込んだ。

コサックたちが転移石を取ってくる間に、エクサとヘルトで街の市場へ出向き大所帯の胃袋を満足させるため、食料品を買い漁る。

道中の炊き出しにとヘルトが料理道具を屋敷から持ち出し、エルフたちの分まで提供していた。

一回の食事でまんまと胃袋を掴まれた親衛隊は、ヘルトにだけは楯突くことは無くなっていた。

エルトレドで半日を過ごして、コサックたち一行は改めてエルフェンを目指し出発した。


「地図を買ってきておいたぞ。エルヴス領全体の地図だ。」


エルトレドを発った初日の野営の食事後、エクサが地面に地図を広げる。


「不浄の地を記しておきたいんだが、リザル、場所は把握していないか?」


問いかけられたリザルは、おもむろに筆記具を取り出すと、思案顔をしながら地図に筆記具を走らせる。


「屋敷があるのはここですから、ここに書いた地は浄化済みでいいですね。エルヴス領にある不浄の地はこことここの2箇所です。かなり侵蝕が拡大しています。」


リザルが描いた2つの不浄の地は広大で、地図上にあるいくつかの街が不浄の地に飲み込まれてしまっている。


「いくつか不浄の地があったのですが、不浄の地の範囲が拡大するに連れ境界が近くなると、一体化するようです。あなた方がここを浄化させなければ、いずれエルヴス領は不浄の島となっていたことでしょう。」


ヘルトが食事の片付けを終え、地図を覗き込んだ。


「浄化したところはこの2つのところよりも広かったのか。なんとかなりそうか?コサック。」


「なんとかなりますよ。なんとかするのが使命です。」


「そうか、頼もしいな。」


ヘルトはコサックの背中をバンっと力強く叩き、笑顔を見せた。

リザルはそんなコサックを観察するように眺めていた。

エルフェンまでの道中もエルトレドまでと同様に平和に進み、セルヴェの見積りから少し遅れて1週間かかって到着した。

森の奥深い何もないところでリザルが馬を止めると、親衛隊が先行する。

どこからともなく現れた、武装したエルフが3名、親衛隊の前に立ちはだかった。


「リザル・パトリアルチ様のご帰還である。」


そう親衛隊が言うと、武装したエルフたちが立て膝をついて両腕を胸の前に交差させた。


「ご無事で何よりです、パトリアルチ様。皆、到着を心待ちにしておりました。」


入り口で立ち止まっている親衛隊にセルヴェとリザルが近づいていく。

セルヴェが大きな声で武装したエルフに声をかける。


「後ろにいるものたちも連れて入るぞ。」


立て膝をついているエルフはハっと顔をあげる。


「は、あ、しかしあの荷馬車は持ち物を検査しなければなりませんし、そこのアルトゥムカニスも中に入れるのでしょうか。」


「無論だ。全員入る。持ち物も事前に全て確認している。このまま入るぞ。」


立て膝からすぐ立ち上がり、セルヴェとリザルを見ているその目には動揺の色が映っている。


「私の大事な客人です。全員通してください。」


リザルが武装したエルフ全員が押し黙った。

そして自分たちは責任を取らないといった表情をしてリザルの言葉に従い、道を開けた。


「どうぞお通りください。お前らも、パトリアルチ様に続いて入れ。決して離れるなよ。離れたら侵入者として排除、もしくはその場で処刑する。」


エルフたちが先に奥へと進んでいく。

水滴が水面に落ちたときにできるような波紋が、街と外の境界で揺れている。

エルフたちに続いて、荷馬車が水面を揺らした。

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