第49話 来訪者
「っだあああ・・・。それにしても、なんか疲れたな。」
伸びをするエクサの一言が皆の心境を物語っているようだった。
コサックたちは屋敷に戻り、今日起きたことの整理が頭の中でつかないのか、疲れた顔で自室に戻って行った。
翌日、今後について少しの話し合いがあったが、次の不浄の地、目的地についてどうするか悩んでいた。
他の不浄の地の場所を確認するため食堂に集まり、コサックが食卓地図をひらく。
「次の場所なんだけど。」
場所の検討が全くついていなかった。
「この地図ではエルフ領の全体がわからんな。オムさん、この領全土の地図はありますか?」
「それがのう、ないんじゃよ。こんな出会いをするなんて思っていなかったしの。いつ死んでもいいように物を持つのは最低限にしておったからな。この領のことなんざ気にもとめんかった。」
「オム先生。死なれては困ります。訳の分からないものが研究所にごまんと転がってるんですから。全て片付けてからそれから死んでください。」
「辛辣じゃのうシビル君は。」
ほっほっ、とオムが笑っている。
「一度街まで出ようぜ。地図や不浄の地の情報は人が集まるところに転がってるもんさ。」
「そうじゃの。ここをしばらく留守にすることになりそうじゃな。」
「私は行きませんよ。」
「これシビル君。和を乱すのは良くないぞい。」
「オム先生に言われたくありません。真面目に言いますけど、魔法陣の研究はここか研究所に戻らないと設備が整っていないので、研究がままならなくなってしまうと考えられます。オム先生が転移石を作っていつでもここに戻って来られるようにするのがいいと思うのですが。研究所は、指名手配から外れない限り無理でしょうし。」
「ふむ、なるほどのう。転移石か、ワシの小屋にあったかな。」
「研究所には腐るほどありましたよ。腐っているのもありました。あと女の子用の服をください。」
「石って腐るのかよ。転移石は顔が割れてない俺が研究所から取ってこようか。女の子用の服って何するんだ?ここにある分じゃ足りないのかよ。」
「足りないわ、そう全く足りない!露出の多い服が圧倒的に足りていないわ!」
シビルが拳を強く握り力説する。
「何だよ露出って。よからぬことだろうから放っておくぞ。」
エクサが心底面倒くさそうにシビルを見て言った。
「オムじいさん任せとけ。キリル、ジーナ、フマトまでの護衛頼めるか?」
『我々は顔が割れている。逃走する時に見られてしまった。』
「そうか、なら護衛どうすっかな。」
「なによ、服くらいいいじゃない・・・。行って帰ってくるだけなんだから、一人で行けばいいでしょ!女心を微塵もわかってないんだから!」
「今日はどうした、やけにつっかかってくるな。何かあったか?よくわかんねーな。まあいいか。しかし、ミハイルとウェラも姿がキリルたちと一緒だからな。護衛は諦めて、シビルの言うとおり単独乗り込むしかなさそうだな。こんな動ける商人いねーんだから、ありがたく思えよ。」
食堂でひと通り今後の方針を話し合い、夕飯を済ませて流木だけとなった神聖なものへの祈りを捧げた。
次の日の朝食後、エクサは荷馬車と馬の手入れ、ヘルトは掃除に勤しみ、シビルは魔狼を影から気持ち悪い動きをしながら追跡、オムはマギローブとエレンに魔法を教えていたところに、魔狼たちが外に気配を感じ取った。
『誰か来るぞ。数は、5くらいか。』
『外に出るぞ。』
キリルとミハイルが外へ急ぐ。
ヘルトは2階に登り、キリルとミハイルの様子を観察し、悪意あるものなら上から飛びついて無力化する算段だった。
「 このはずだ。屋敷が いな。」
声が途切れ途切れだが聞こえてくる。
魔狼たちが姿を見せない程度に近づき、気配を消して様子を見る。
『まだ飛びかかるなよ。ミハイルたち。相手はまだ屋敷がどこにあるかわかっていない。悪意があるか観察してからだ。』
マクシムが指令を飛ばす。
「ここに屋敷があるはずなんだ。昼の光の筋といい、ここには何かある。」
「報告します。ここら一帯にあった不浄の地が綺麗になくなっております。やはり、あの光は不浄の地の浄化によるもので間違い無いかと。」
「報告ありがとう。何かあるはずだ、手がかりを隈なく探すんだ。」
「はっ。」
『ワシがでるぞい。』
『オム!』
マクシムの制止する声をよそに、オムが玄関を出て結界の外に出た。
「何か御用ですかな?」
「あ、いや、あなたは、どこから?」
「この森に住まうものです。今は帰り道ですが、迷われたのかと気になりましたもので。失礼ですが、どちら様ですかな?」
突然の老人の登場に来訪者は驚いている様子だったが、オムの一言で仕えているだろうものから怒号が飛ぶ。
「貴様、どちら様だと?!この方はエルフの族長の息子、リザル・パトリアルチ様であらせられるぞ。!」
「そうでしたか、それは申し訳ございませんでした。ここに住んでおりますと世の中のことに疎くなりますでな。ほっほっほっ。」
耄碌しているように来訪者にうつったのか、やれやれとあからさまに蔑むような態度でオムのことを見ている。
「して、お主は誰じゃな?」
「・・・ふう、多少の無礼は不問にしよう。私はリザル・パトリアルチ様に仕えているセルヴェというものだ。」
「そうですか、ワシはオムというものですじゃ。フーマンです。パトリアルチ様、あなたのような高貴なお方が、わざわざなぜこのような森の奥深くまで?」
「ここらあたりで光の筋が立ち上ったとの情報を耳にした。調査のためここまで来たが。確かここは不浄の地はなかったか?」
「ありましたよ。綺麗さっぱり消え去りましたが。」
「なに?!貴様、知っていてなぜ報告にこない!」
「どこに何を、この老ぼれに報告しろとおっしゃいますか。それにワシの足では街まで何日かかるかわかりませんぞ。」
「セルヴェ、私から話す、少し黙っていてくれ。」
「ぐっ、・・・仰せのままに。」
「ご老人、従者の非礼を詫びよう。申し訳ない。この地の様子を詳しく聞きたいのだが、教えていただけないだろうか。」
「ご丁寧にどうも、パトリアルチ様。ここでは何ですから、ワシの家で話をしましょう。こちらへどうぞ。」
『屋敷に案内するぞい。無礼のないようにな。』
オムが念話で屋敷のもの全員に伝えた。
『オム!』
マクシムが皆の気持ちを代表するかのように声を荒げた。
『・・・何か考えが、あるんですね?』
『なかなか察しが良くなったの、コサック。』
『まあ、見ておれ。』
オムが結界魔法を解いた。
「なっ!これは探していた屋敷!」
「貴様、何者!」
「さては我々を取って食うつもりだな!この魔物め!」
「パトリアルチ様、離れてください!」
リザルの取り巻きが驚き、口々にオムを罵り距離を取って警戒した。
オムと至近距離にいるリザルとセルヴェも、オムを警戒して腰の剣に手をかけた。
「しばらくそこで、そうしておれ。」
オムがそう呟くと、結界魔法を再度行使する。
オムから距離を取っていた取り巻きからは、すぐそこにいた老人と主人が一瞬でどこに消えてしまったようにうつり、結界の外をうろうろし始めた。
取り巻きたちが結界をまっすぐ行こうとしても途中でなぜか進行方向をかえ、入ってきた場所に戻っていく。
「これは見事だな。高度な結界魔法を幻影魔法が使われている・・・。」
セルヴェがオムの魔法に感心し、剣から手を離す。
リザルは最初驚いてはいたが、すぐにオムに対する関心が高まったようだった。
「まさかとは思うが、ご老人。あなたが不浄の地を?」
「ほっほっ、半分正解じゃな。さあ、こちらへ。」
オムが屋敷の玄関に手をかけ、ゆっくりと扉を開いた。




