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第5話 梟

本格的な冬を迎えた。

古戦場から持ち帰った布で、赤ん坊はなんとか寒さをしのいでいた。


魔狼たちは洞窟に身をひそめている。

洞窟には、冬眠ができるもの、できないもの、多様な獣が混在していたが、弱肉強食の世界はそこになく、ただ寒さをしのぐため互いに寄り添っていた。

冬眠できないものは、天気の良い日に洞窟の外に出て残った木の実などを採取しては持ち帰り、洞窟内で食事を共にしていた。


赤ん坊はまだ母乳以外口にしないが毎日母乳が必要である。

雌も母乳を出すために、木の実のおこぼれにあずかっていた。

そんな中でも赤ん坊は成長していき、泣く回数が減少、一人で座れるようになった。

子供の魔狼たちも凛々しく成長している。


雌は古戦場での出来事を思い出していた。

仇の魔鳥を討ったが、どこか釈然としない様子であった。

またあの魔鳥を狂わせた原因がなにか、雌は考えていた。

答えはまだわからないが、ただ漠然と、自分もああなる可能性があることを感じていた。

自分だけではない、雄も子供たちも、赤ん坊も、何かの原因で狂ってしまう。

この洞窟も、狂ってしまうものが出るかもしれない、そう考えていた。

雌はすぐ脱出できるよう入口でぎりぎり寒さを感じない場所をあえて選んでいた。


赤ん坊の籠を見ると、かなり傷んでいた。

赤ん坊の成長も進み、小さくなってきたようだった。

春になったら籠を新たに作り直すことを胸に決めた。


子供たちの赤ん坊に対する態度も変化していた。

出会って間もない頃はただの他人同然の扱いであったが、今では一番下の弟として可愛がっている。

雄も不浄の地を抜けて以来ずっと雌と行動を共にするようになった。

狩りなどで別々に行動するときは必ず、2匹1組となるように自然に分かれていた。

古戦場での一件が、魔狼たちの行動に変化をもたらしているようだった。


洞窟に来てしばらくたち、春の到来が間近となった頃、赤ん坊が高熱を出した。

今まで熱は出すことはあったが、母乳と安静で2.3日で快方していたが、今回は4日経っても熱がおさまらない。

雌はどうして良いかわからず、ただ赤ん坊を腹の近くに寄せていつでも乳が飲めるようにしていた。

排泄物も、自分が病気になるかもしれないことを厭わず、処理を続けた。

子供たちは外に出ており、雄はただあたふたしていた。

他の獣は、感染するのは御免とばかりに魔狼から遠ざかる。

ただそこに1匹の獣が近づいてきた。


その獣は洞窟内では単独で行動していた。

単に仲間が洞窟内にいないということもあったが、自らは行動せず、食事のときは雌と同じくおこぼれに預かるように他の獣にまぎれて空腹を満たしていた。

近づいてきた獣は、猛禽類のような鳥だ。

ただ魔鳥とは違い、大きさは赤ん坊と同じくらいで、魔鳥は鷹のような姿をしていたが、こちらは梟のような姿をしている。

雌と雄は警戒し、梟をよく観察した。

梟が近づくにつれ、雄が牙をむき威嚇を始める。


『よくないのか?』


雌と雄の頭の中に直接語りかけられた。

魔狼たちも直接頭に語りかける魔法、念話を使うことができる。

念話は同種だけでなく異種同士でも使用可能であるが、今回雌と雄は初めて異種から話しかけられ、返答できずに戸惑っている。


『その人族はどうなのだと聞いている。』


そんな様子を見かねたように梟がもう一度雌たちに話しかけた。

梟は赤ん坊を見ている。


『わからない、熱があり長引いている。』


雌は念話で梟に答える。

先ほどより熱が上がっているようで、赤ん坊は苦しそうに顔を歪めている。

ふむ、と梟は赤ん坊を観察した。

梟の目が淡く光る。

よくみると、瞳の中に魔法陣が展開されていた。

梟は赤ん坊に向けて何か魔法を使っている。


梟の目から光が消えた。

雌が初めて見る魔法だった

どんな魔法であれ赤ん坊に向けたことに怒り、雌は梟を威嚇して睨みつけた。


『この赤ん坊は死んではだめだ。病気もわかった。助ける、待っていろ。』


梟はそう告げると雪がしんしんと降る外に飛び出していった。

雌が呆気にとられているところに、早々に梟が帰ってきた。


『近くにあった。これを食べさせろ。病気に効く。』


そう梟が言ったが、雌は食べさせようとしない。

得体の知れない何かを母乳しか飲まない赤ん坊に与える気はなく、そもそもこの梟を全く信用していなかった。


『死なせたいのか。さっさとしろ。』


梟は語気を荒げ、さっきまで微塵も感じさせなかった気迫を全身で訴えるように両翼を広げる。

雌は梟の様子に驚いた。

雌は、他に手立てがなく、梟の様子に促されるように、木の実のようなものを赤ん坊が食べやすいように歯ですりつぶして口移しで与えた。

赤ん坊は口をモゴモゴさせて飲み込む。

雄はただ一連の様子を見守っていた。


次第に赤ん坊の表情が落ち着いてくる。

いつもと変わらない表情となり、寝息を立てた。

梟はまた目を光らせながら見つめる。


『すぐに効果が出たな。病気が消えている。』


雌は梟が何を見ているのか気になった。


『目が光っている。魔法か?』


『魔法だ。この魔法で見るといろいろなことがわかる。病気もこれでわかった。病気の名前はわからなかったが、病気に効く木の実は分かったから持ってきた。』


雌は、とにかく今は赤ん坊が救われたことに感謝した。

梟は遠くを見つめるようにして雌に話しかける。


『春になったらどこか行くのか?』


『あてはないが、安全に育てられる場所に行く。』


梟の問いに雌が答える。


『魔法でそいつを見た時、クレイブと見えた。もしかしたら神の使いかも知れない。この魔法でいろんなものを見てきたが、天地創造の神の名が見えるなんて初めてだ。そいつの行く末を見たい。観察が趣味だ。あんたの許可がなくとも、ついて行くつもりだが、一応言っておく。』


雌は梟の言葉にまた困惑した。

だが、赤ん坊に天地創造の神に関係しているとなると、生い立ちから考えて妙に納得した。

雄も問題ないだろう、と雌と話している。

子供たちが帰ってきた。

子供たちはなぜ梟がここにいるのか訝しがったが、途中で飽きて雌に近寄った。

赤ん坊がまた高熱で苦しまないよう、春まで耐えることを雌は願った。

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