第48話 停戦
「みんな、いっちまったな。」
エクサがそう言った瞬間だった。
草木が時の流れを無視して茂り始めた。
木はどんどん成長し、芽吹き花をつけ、散らし、葉が落ちる。
数百年間を数秒に凝縮したかのように土しかなかった土地が林となり、森となった。
「こ、これは・・・。」
コサックたちは目の前の目まぐるしく変わる光景に息をのむ。
瓦礫は苔むし、魔法陣のあった小屋は木々の勢いに押され崩壊。
魔法陣の石の板は木の幹に立てかけられるように木々に持ち上げられていた。
森はちょうど、若葉が茂り始める春の季節で成長を止めた。
「止まった時間が、また時を刻み始めたかのようじゃ。」
「神がかりとは、このことかよ・・・。」
「すごいわ・・・。時は止められるけど、時をここまで加速させることなんて、私には無理。」
「・・・あの声の主の目的は本当に神となることなのか?」
” サック、コサック、聞こえるか。”
「今度ははっきりと聞こえるようじゃな。」
”わたしも見ていた。まさかあのような存在がいるとは。”
「うん。クレイブ、今日は調子がやけにいいじゃないか。」
”お前が、沢山送ってくれたおかげだよ。皆わたしという存在を信じたからだろう。信じることから信仰は生まれる。ありがとう。”
「そうか、時間はかかったが、はじめの一歩だな。」
”そうだな。まだ世界には不浄の地に侵されている場所がたくさんある。コサック、浄化を進めてほしい。”
「わかった。まずはこのエルヴス領全土の浄化を目標にするよ。」
”任せたぞ。それと、浄化の魔法陣を参考に私なりに作ってみたものがある。受け取ってくれ。”
木に立てかけられた石の板が宙に浮き裏返ると、大きな魔法陣が描かれていく。
全て描かれると、静かに石の板が地面に着陸する。
シビルが魔法陣を見た。
「なにこれ、どんな魔法陣でも応用できるわよ・・・。」
「そうなのか?シビル君。」
「小型化がここに記されているんですけど、これを使えば、例えば剣の束に浄化の魔法陣を描くことが可能。しかも、ここ、神気を纏うように描かれてる。剣を神聖なものとして祈りを捧げれば、剣が神気を纏って浄化が可能な武器になりますね。」
「とんでもねーな。神様って。」
”頼んだぞ、コサックのもとに集いしものたちよ。やつはわたしが信仰により力を取り戻すことは知らないようだな。神を殺すと言っていたが、わたしにかかわらず浄化をすすめてほしい。わたしは来るべき時までに力を蓄える。”
クレイブの声は聞こえなくなった。
エクサがフロアトを使って神の描いた魔法陣を持ち帰ろうとしたとき、エレンの体が光始めた。
「エレン!」
『大丈夫さね、なんだか、とてもあったかい気分だよ。』
やがて光が収まると、コサックは真実の瞳でエレンを見た。
種族 賢魔猫
種族名 シュードフェリス
名前 エレン
性別 雌
魔力 特大
魔法特性 月 火 水 土
耐性 月 土
特技 真実の瞳 爪撃 柔軟 転写 瞬間記憶 変身
『あれ、特技が増えてるよ。変身だって。』
『使ってみるかね。変身ッ。』
エレンの体が白に包まれると、体の形が変化していく。
見る見るうちにフーマンの少女の体に変化していった。
白が晴れると、エレンはリージオンの娘の姿に変わっていた。
「お嬢様に変身したのかい?鏡がないからわからないね。これがフーマンの体かい?なんだか動きにくいったらありゃしないよ。」
「あーうん、お嬢様になってる。あとエレン、直ちに元に戻ってくれない?」
「なんでだい?」
「裸だよ。」
「なんだい、この麗しい体をもっと見たくないのかい?甲斐性がないねコサック。」
「目の保養にはなる、ならない。変身してフーマンになるとき、いつもそんなじゃ困るよ。」
「はははっ、そりゃそうかもね。わかったよ。解除ッ。」
エレンは猫の姿に戻った。
(お嬢様、ありがとう。新しい力をつけることができたよ。これならいつも一緒だね。)
エレンは空を見つめていた。
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「皆よ聞いているか?」
「聞いていますよ神様。ただ悪いのだけど、早く転生させてくれませんか。」
「一刻も早く坊主のもとに早くいきたいんだ。転生できんなら早くしてくれ。」
「ヘルトだけでは心配だ、私もすぐに向かいたい。」
「わかったから、落ち着いて話を聞いてくれ。これはコサックにも言ったが、今までの記憶は残したままでいいんだな?」
「もちろん。」「当たり前だろ。」「無論だ。」
「誰かの子供として転生することとなる。妊娠、出産の過程を踏む。種族は選べないが、人族、エルフ族、魔族のどれかになる。」
「心得た。」「わかったわ。」「関係ない。」
「最後に言いたいことはあるか。」
「そうだな、少しいいか?」
ティーヴァの魂がそう言ってエクサの姉とスアヴィに話しかけた。
「なあ、合言葉を決めないか?」
「合言葉?」
「転生したら、顔も名前も何もかも変わるだろ?坊主のところで合流できればいいが、そうもいかないだろ。坊主のところに行く前に俺らでまず合流するんだ。」
「なるほど。だが、フーマンが街の外で単身で活動できるようになるのは15年歳になってからだ。それまで遠出は難しいだろう。門兵にも止められてしまう。まあ力量としても、街の外に出るにはその齢じゃないと生き抜けないだろうな。」
「ティーヴァでも同じような感じだ。」
「エルフはそこのところは自由だけど、やっぱり生まれてすぐは自由が利かないわね。単身で森を駆け抜けられる頃には、コサックたちはエルフ領を出ていると思うわ。」
「よし、なら合流地点と合言葉を決めようか。合流地点は3領の中間にある、中立都市でどうた?」
「中立都市?」
「ああ、君らがいた頃は、中立都市はまだなかったかもしれないな。3領の中間にちょうど島があるんだ。一切の種族同士の争いが禁じられた島だ。」
「そうなのね。転生先で詳細は確認するわ。」
「次は合言葉だが、そうだな・・・。」
「スアヴィ、でどうだ?」
3体が振り返ると恭しく顎を手で撫でている様子の魂がいた。
「なんだお前か、どうした?」
「我々も転生したら加勢したいと思ってな。」
「私も!」
リージオンの魂と小さな元気のよい魂が会話に参加する。
「皆、同じ時機に転生を果たすなら、種族は違えど同い年だろうし。仲間、友達は必要ではないか?できれば我々もコサックたち、いやエレンの力になりたくてな。」
「私も!」
「はは、ならいいんじゃねーか?合言葉はリージオン・スアヴィでどうだ?」
「ほほう、なかなか良いではないか。」
「私も!お父様と皆さんとお友達になりたい!」
「ははは、これこれ。なかなかいい娘だろう!」
「お嬢様、楽しそうですね。とても嬉しそうでもあります。」
「エレンのためにと張り切っておる。私はまた、爵位のある家に生まれたいがな。そうすれば、爵位を利用してすぐに駆けつけられるだろう。」
「寝ても覚めてもあんたは高貴なお方だよ。」
「うふふ、それじゃあ、転生先で会いましょう。」
「うむ、それまで達者でな。」
「おい。」
「レボルトか!」
「もうその名前で呼ぶなよ。話、聞いてたんだけど。僕も仲間に入れろよ。」
「なんだと?!」
「下でのこと、覚えてるだろ?神になって世界を支配しようとしている存在がいるのを。僕はそいつの存在が許せない。ここはしばらく君たちと同行する方が都合がいいと思ってね。魔王は、この世界に、2つと必要ない!」
「貴様、そんな理由で。」
「まあお前のその意志だけは買ってやるよ。あの老ぼれ魔法師に一泡吹かせてやれんなら、魔王にでもなればいいんじゃねーか?」
「っ!くそっ!!この件が終わったら君らとは再び敵同士だ!」
「話はまとまったかい?今手を取り合ってくれるなら、歓迎しようではないか。行っておいで子供たち。コサックの力になっておくれ。」
数百といた光の玉が一瞬で消えたかと思うと、流星群のように世界へと降り注いでいった。
降り注ぐ光の雨は、地上では天災の兆候などと騒がれた。
光の雨のひと月後、フマニテ領王妃、ティーヴ領王妃の懐妊が報告された。
王族だけに留まらず、世界に住まう生物が一気に子を成した。
領内は久々の吉報にお祭り状態となり、とても戦争を続けられる雰囲気ではなくなったため、王都フマトと王都ティべリスより一時停戦の申し入れがされ、フマトとティべリス両国はこれを受け入れた。
エルヴス領首都エルフェンは、戦争の始まりから指揮していた族長が死亡、反戦争派が次期族長となり、今回の一次停戦を機に、エルヴス領は戦争から手を引く声明を各領に出したのだった。




