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第40話 着替え

昼食後に掃除を再開し、従者用の寮と地下室以外の部屋の掃除が終わった。

夕方になっており、空が茜色に染まっていく。

従者用の寮近くに衣類のクローゼットがあり、辺境伯のものや、家族のものが大量に出てきた。

ヘルトは着られるものとそうでないものを手早く分類し、コサックに着替えを手渡す。


「これ女の子の着替えじゃ?」


「辺境伯に男子は生まれなかったようだな。そうか、男子が欲しくて浄化の研究をし始めたのだろうな。それしかコサックが着られる服はないようだ。」


「じゃあこのままでいいですよ。」


「そうはいかん。浴室や洗い場の修繕も終わったが、その服を洗っている間着るものがないだろう。それとも着方がわからないか?」


「あ、いや、知らないですけど、知ってるんですか?」


「・・・騎士団にいたころ、王子殿下とそのご息女と、親しくさせてもらっていたからな。殿下は息災だろうか。あの方は今の戦争に疑問を持っておられてなぁ。ご息女はおてんばでな、よく服を、お色直しをされていたからな。侍女によく服のことで怒られてな、その時に色々学んだ。」


「うー、とりあえず受け取っておきます。」


コサックは、フリフリの布が多く使われている服を抱えて、いつも寝ている客間に持っていった。


「コサックいいか?ちょっと浴室を試しに使って欲しいんだが。頼めるのが他にいなくてな。」


コサックたちは浴場に向かった。


(見慣れない突起物?蛇口かな?どうやって使うんだ?)


「この部分は魔道具になっていてな、魔力を当てると、こうやって手に魔力を集中させて触ると、適度な温度の湯が出るんだ。魔道具は生きていたからちょっと細工して使えるようにした。この水栓を触ってみてくれ。」


(なんかもう凄いなこの世界のひとたちって。)


「おー!お湯出た!」


「じゃあさっそく体を洗ってやるから服を脱いで来い。」


「え?」


コサックが両手で前を隠すようにして、内股になる。


「ん?コサックなんか変な想像してないか?汚れているから早く服を脱いでここ行きなさい。」


ヘルトの言われるがまま服を脱いで水栓の前に来ると、ヘルトはどこから用意したのか木製の風呂椅子にコサックを座らせて、木桶でお湯を頭からかけた。

良い温度のお湯が全身を濡らし、コサックが身震いした。


「大丈夫か、寒くないか。」


「うん、大丈夫。」


(こんな小さな体にこの世界の命運がかかっているとは。私にもっと力があればっ。くそっ。せめてこのくらいはせねば。この子の思い通りに事が運ぶよう、ふりかかる火の粉から全力で守ってやらねば。)


ヘルトは、髪を留めていた蔦を取ると、少し乱暴にコサックの髪の毛をワシワシ指で擦った。

茶色い液体がコサックの全身を覆う。

コサックはヘルトに全身の汚れを落としてもらい、最後にお湯を頭からぶっ掛けられた。


「やっぱり男だな。」


「ついてるものはついてますから。」


「そうだな。そこの湯舟でゆっくりするといい。私は服を洗ってくる。体を拭く布と新しい服は脱衣所においておくぞ。夕飯までには上がってこい。」


「はい、ありがとうございます。」


(はぁ~しみる~。この世界にも湯舟に入る文化があってよかったー。)


コサックは風呂をしばらく堪能した。


脱衣所に行き、体を拭いた後、コサックは新しい服を広げて悩んでいた。


(女の子が着る服じゃないのかな、これ。下着は、まあ厚手だからいいか。この齢の子供服の下着って男女兼用って感じだな。だけど、これは・・・。下着姿で出てもいいかな。)


コサックは下着を着て浴場から出ると、ヘルトの用意した服を抱えて客間に向かった。


「あらコサック。何をもっているのかしら?」


シビルが現れた。

コサックは不意を突かれ固まっている。


「こ、これをヘルトさんに渡されて!」


「そっかー、いいのよ気にしなくて。そういうのもアリよ。」


「ちがっ。」


「はいはい、そういうことにして、あ、げ、る。そうだ!うふふ、お姉さんに任せなさい♪」


シビルはコサックを拉致し、適当な客間にコサックを押し込むと、服とコサックを見比べ、入念に確認しつつ服を着せ始めた。

シビルは服を一つ着せ終わるたびに、コサックを下からなめるように見る。


「お姉さん、新境地に目覚めそうで怖いわ♪」


コサックがげんなりした顔でシビルを見やった。


「コサックたら、女の子の格好も似あうのね♪顔も中性的だものね。この長い髪も、横で束ねている感じも、この服に合ってるわね。これはね、スカートっていうのよ。爵位のある高貴なものたちを貴族って呼んでいてね。フマニテとティーヴには貴族ってものたちがいるの。夜になると、それは豪奢な服装に身を包んで、社交界に出るのよ。エルフやドワーフは、王というより種族の代表って感じで、爵位がないの。貴族って考え方ももちろん無いわ。」


(スカートっ!!)


手際良くシビルがコサックに着付けていく。

されるがままになっているコサックの額から汗がにじみ出てきた。


「さあこのスカートを穿いて、はい、貴族のお嬢様のできあがり♪かわいいわねー。お姉さん、食べちゃいたいくらいよ。」


「シビルさん、勘弁してください!」


コサックは走って逃げだした。

今まで履いてこなかった靴をここで履かされ、慣れない足取りで客間に向かうコサックに声がかかった。


「おーいコサッ・・・。」


「ヘルトさん、自分で用意しておきながら固まらないでください!」


「おおっとすまん。随分と見違えたな。かわいいぞ?」


コサックががっくりうなだれ、食堂に入る。

コサックの服装をみたマクシムは困惑し、ソフィアは目を輝かせている。


『坊やは女の子だった!』


「あらソフィアちゃん!あなたもイケルくち?かわいいわよねー。」


どさくさに紛れてソフィアをモフモフしながらシビルが言った。

外から戻ってきたミハイルは硬直し、ウェラはソフィアと同じ目線でコサックを見ている。


『コサック、これは動きやすいのか?』


マギローブが疑問を投げかけ、


『女の子の服装をしても遜色ないなんて、整った容姿してたんだねぇ。見違えたよ。』


エレンが感嘆している。


「ほぅ、これまたかわいいお嬢さんが現れたわい。」


「からかわないでください!」


「ほっほっほっ!」


賑やかな夕飯のあとコサックは誰よりも早く食堂を出てた。


『祈りは?坊や。』


『着替えのあとで!』


コサックは客間に戻り動きやすい服装に着替え戻ってくると、女性陣の残念そうな表情をしていた。


「お祈りして寝ます!」


コサックは宣言通り、お祈りを済ませた後、客間から一歩も出てこなかった。

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