第39話 掃除と修繕
荷馬車が去り、屋敷の警戒に当たるもの、魔法陣を研究するものなど、それぞれ屋敷の中に散っていく。
(一人になったな。どうするか。書斎を物色するか。そういえば今年は何年だろう。)
「オムさん、今年って陽月歴で何年ですか?」
「んむ?今年は605年じゃぞ。お主がこの世界に来たのは600年かのう。じゃあワシは地下に潜るでな。」
(ん?てことはエクサは270歳以上ってこと?あれ?じゃああのティーヴァのフィルシズは?)
コサックは静かに恐慌状態になった。
「コサック!大丈夫か?何度も呼んだが返事がなくてな。ちょっと掃除やら修繕やら手伝ってくれないか?玄関の扉をあのままにしておくわけにはいかん。」
コサックが我に返る。
そこには三角巾とエプロンをつけたヘルトが立っていた。
コサックはヘルトに近づき手伝うと宣言。
ヘルトは器用に屋敷の修繕をしていく。
「ちょっとそこを、そうそう、押さえておいてくれ。」
玄関扉は容易く蝶番が修復されていき、扉の枠の補強もいつの間にか終わっている。
見る見るうちに観音式の扉へと修復された。
(早い!ヘルトさん早い!頭が、理解が追いつかない!)
「これでよし、っと次はー階段やるか。」
階段は掃き掃除から始まった。
掃き掃除のヘルトは普通の早さだった。
「傷んでいるところは、ここと、ここ。それにしても立派な広間だな。昔は管理が行き届いていたのだろうな。時間がたってもあまり傷んでいないのはここを作ったものが優秀だったのだな。私も負けていられん!」
ふんぬと鼻息を荒くしたヘルトの掃除の速度が上がっていく。
コサックがようやく階段のゴミを下に落としきり、ちりとりでごみを集め終わったところで、ヘルトが階段の修復を終えて戻ってきた。
「おし、ここはこのくらいでいいだろう。コサック、なかなかいい掃除っぷりだな。早いぞ。」
「(褒めてるの?それ。)あははー。」
「次は2階を終わらせよう。」
「書斎とか物が結構ありますよ。」
「そうなのか?まずは実際見てみないとな。あとコサック、着替えはあるのか?」
「え?ありません。」
「そうか、目ぼしいものがあったら確保しておこう。大人の着替えは辺境伯の服が残っていれば見ていこう。」
「よし、まずは書斎からだな。」
ヘルトは窓を開けていく。
開かない窓はその場で修理し難なく窓が全開になった。
ヘルトはコサックに布を寄こし、口の周りにまくよう指示する。
コサックがまき終わるのを確認したヘルトは、舞を踊るかのように棚などに被った埃を叩き落としていく。
風の流れが竜巻のように回転し、風に乗った埃は竜巻の中心に集まっていく。
舞を踊りながら書棚を確認し、書物を棚に手際よく入れている。
(同じ人族のなせる業じゃない。これで魔法を使っていないというのか!まさに旋風!)
「よしっと、コサック。真ん中のゴミをこの袋に入れておいてくれ。」
見事に集まったごみをコサックは袋の中に入れていく。
「よし。よくできたな!」
(何か、さっきから何かするたびに頭をくしゃっとなでられるな。嫌じゃないけど、初めてお手伝いする子供の扱いと一緒?)
書棚はきれいに並んでいる。
あとでコサックが見に行くと、文字列順にすべて並べ替えられていることがわかり、驚嘆していた。
書斎の隣の部屋を開ける。
「ここは辺境伯の侯爵の部屋か?大きなベッドが一つ。きっと夫人と一緒の部屋だな。ここを出て隣の部屋は、辺境伯の子供の部屋だろうな。小さなベッドが一つ。女の子かな、この感じだと。」
次々と部屋に入っては掃除と修復を終わらせていく。
コサックはヘルトのこの特殊技能について、途中から考えるのをやめていた。
「屋根裏がありそうだな。どこからかー、あーここか。」
屋根裏に通じる梯子をいとも簡単に見つけていく。
コサックが真実の瞳で見る前に、目の前の出来事がすべて片付いていった。
屋根裏に登ると、屋敷の屋根に穴が開いているのか、外からの光が差し込んでいる。
「ちょうどいい、ここでは私の全力をぶつけられそうだ。コサック、あそこの窓を開けたら下に戻っていなさい。」
コサックはヘルトの言うとおりに固い窓を何とか開け、準備が整ったと梯子を降りていく。
「っしゃ!はぁっ!おらおらおらおらおら!」
(どんな戦いが繰り広げられているんだろう。っは、いけない、考えてはいけない。)
しばらくしてヘルトが屋根裏からコサックを呼んだ。
見事にきれいになり床まで新品そのもののように輝いて見える。
「ここには大したものはなかったな。日用品、季節用品、子供のおもちゃなどが収納してあった。」
「あ、子供のおもちゃになにかお祈りに使えそうなのはありませんか?」
「人形遊びで使う人形ならあったが、可愛い女の子の人形だ。」
「一応持っていきましょう。」
「了解した。」
ヘルトが宝箱のような収納箱から人形を取り出した。
「屋根の修理はまた今度だな。資材が無い。雨はあまり降らないからいいがな。ここの冬は雪が降るのか?」
「降りますよ。なぜかここは雪は降ります。」
「魔法で天候を操るものがいる。恐らくここエルフ領は天候を操れるものがいて、季節ごとに雨や雪を降らせているのだろう。もちろん、フマトにもそう言った魔法師はいる。各領の王都ではもはや天候は魔法師頼みなのさ。魔法師の恩恵で作物に実りがあるのは事実だしな。ただ天候を操る範囲は王都周辺のみの所が多い。他の地域は無視だ。だから川があったところは干上がり、海に水が流れ込むことはほとんどなくなる。」
(そうか。考えたこともなかったな。)
「不浄の地ができる前は、それはきれいな海が一面に広がっていたらしい。そんな景色を私は見てみたい。」
「そうですね。」
「さて、1階に戻ろう。食事の後で続きをしようか。」
コサックたちは1階の調理場まで戻ってきた。
ヘルトは、子供が触ると危ないからと、コサックに一切の料理の手伝いをさせなかった。




