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第38話 挨拶と二つ名

昨日の喧騒が嘘のような静かで暖かな朝を迎えた。

ヘルトが早朝から朝食の準備をしており、もうすぐで出来あがりそうな、あさげがあたりに立ち込める。

エクサが荷馬車で準備に追われているのをコサックは確認し、忍び足で通り過ぎた。

オムは、マギローブとエレンを呼び出し、魔法の特訓をしているようだった。

シビルは結局、キリルとジーナに追跡を撒かれて玄関ホールに一晩座り込んでいた。


「この恨み、晴らさでおくべきか。」


(隈が凄いことになってるな。ドス黒い感じの立ち込める邪悪な雰囲気は・・・。触らぬ神に祟りなし。)


外に出ると2匹1組で、ミハイル組とキリル組が屋敷周辺の警戒に当たっている。

キリル組があまり元気がない。


『おはよう、コサック。エクサはまだ出発しないのか?毎日追いかけ回されては体がもたないぞ。』


『キリル兄さん、おはよう。今準備しているみたいだよ。やっぱり嫌だよね。』


『ジーナが嫌がっている。というか怖がっている。それに、見られていい気分のものではない。』


『まあそうだよね。』


キリルたちとわかれると、ミハイルたちがコサックの元にやってくる。


『あのシビルとやらはどうにかならんのか。キリルたちがエクサと出かけるようでは、我々の負担が大きいぞ。』


『本人に言ってみるよ。』


(はあああ、不浄の地以外でまさかの問題がああ。)


コサックは座っているシビルの目の前までやってきて、魔狼が嫌がっていることを伝えると、シビルがガバッと顔を上げた。


「そうなの?!嫌だったのね!てっきり私そのものが嫌われてるのかと思ったわ!」


「いや、その、あまりに追っかけ回されるんでシビルそのものが怖いって。嫌だって。」


「追っかけ回さないように適度な距離感を持って接する私ならいいのね!わかったわ!」


シビルが足取り軽く地下室の方へと消えていった。


(たぶん全然わかってない。)


『おはようコサック。どうした、朝から疲れてるな。』


『あ、父さん、おはよう。シビルのことでね。』


マクシムにミハイルやキリルとシビルのこと、シビルが打っても響かないことをコサックはため息を漏らしながら伝えた。


『そうか。』


マクシムはそう一言コサックに言って去っていった。


(おおうい父さんよーい。)


「よう、おはようコサック。朝飯だ。悪いがみんなに伝えてくれないか。シビルと、オムさんマギエレン、はもう食堂についている。ああおはようソフィアとマクシム。あとは外の連中だけだな。」


ヘルトの呼びかけにコサックは答え、魔狼たちとエクサを呼びに外に出る。

魔狼たちに朝食を伝えると、食堂に飛ぶようにかけていく。

ちょうど準備が整ったらしいエクサが御者台から下りて食堂に向かった。


「いただきます。」


「んなんだ?コサックは。それよりも朝飯もうまいな。これが食べられなくなるのはちょっときついぜ。」


「お前の料理の腕もなかなかだろう、エクサ。」


魔狼たちはがっついて目の前の食べ物に食らい付いており、その姿にシビルが熱視線を送っている。

ほぼ魔狼たちを見ていて食事の方には見ていないにもかかわらず、上手いこと口に運んでいた。

オムたちは今朝の魔法の特訓の話で持ちきりのようだ。


「ごちそうさまでした。」


コサックがそう食事の終わりに挨拶をすると、皆不思議そうにコサックを眺めている。


(エクサもいただきますに何か反応してたっけ。この世界の文化には食前食後の挨拶はないようだな。)


「あ、うん、食前食後の挨拶だよ。作ってくれた人に感謝します、料理として出てきたその命を血肉に返させていただきますとかで、いただきます、かな。ごちそうさまは、おいしい食事でしたありがとうございました、命を分けていただきありがとうございました、とかかな。」


「律儀だな。でもまあ、悪くはないと思うぞ。作った私としてはそうして言葉にしてくれることはありがたいな。」


「ふむ、そうじゃの。じゃあワシも、ごちそうさまでした。」


『『『『『『『『ごちそうさまでした。』』』』』』』』


獣たちが揃って挨拶をする。


「ごちそうさまでした。デュフフ。聞こえたわ、揃った声が。特にアルトゥ・・・。」


「ヘルトのダンナ。ごちそーさん。へへ、崩していってもいいか?」


「うん。良いよ。その人に気持ちが伝われば。」


「エクサー、気持ちが足りねーなー。洗い物手伝っていけよな。」


「うげ、首、しまってる!」


食堂からそれぞれの持ち場に戻っていく。


「キリル!ジーナ!洗い物が終わったらすぐ出るから、荷馬車の近くにいてくれ!」


エクサが調理場の出入り口から大声で叫んだ。

キリルたちは了解したとばかりに一声エクサに向かって吠える。


コサックが玄関前に座っていると後ろからエクサの声がかかった。


「出発するぜ。」


コサックはエクサについていき、荷馬車の前で立ち止まった。

拠点組が勢ぞろいしている。


「よろしく頼むぞエクサ。今回はちと難題が多いが、お主なら何とかなるじゃろうて。」


「高く買ってくれるのはいいけどよ。まあ気長に待ってくれると助かるぜ。また1か月後に戻ってくるから、その時に盛大に帰宅を祝ってくれ!」


「おう、食料もよろしくな。」


「ヘルトのダンナ、いや、赤き旋風さんよ、この屋敷をよろしく頼むわ。」


「殲滅の魔法師がいるんだ。私の出番などなかろう。」


「それってなんですか?」


「ああ、戦場でな、戦果を挙げた者たちへの称賛というか、二つ名というやつだな。


「エクサは嘆きの死神と呼ばれていたな。泣き叫びながら対峙するものを倒していったからな。殲滅の魔法師は、昔のオムさんだが、容赦のない魔法で文字通り小隊分隊を駆逐していた。オムさんが戦場に出るだけで敵陣を撤退させるほどだった。そして私だが、大剣を主に扱っていてな。振り回しているときについた名だ。皆、あまり良しとは思っていないだろう。相手を殺して生き残った者の名だからな。こうやって相手を揶揄するときにしか使わんな。」


「嘆きのエクサさん、いってらっしゃい。」


「おうやめろ、コサックは言うな。しかもそれだと俺がいつも溜息ばかりの陰気野郎みたいじゃないか。」


「それじゃあみんな、行ってくるぜ!キリル!ジーナ!よろしくな!」


荷馬車が大きな庭を抜けて、屋敷の敷地から出て行った。

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