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第36話 食卓

(いい匂いがする。これは料理に匂い?)


まどろんでいるコサックがベッドから降り、匂いのするほうへと歩いていく。


匂いは調理場のすぐ隣にある食堂から発せられていた。

コサックはまだ寝ぼけてフラフラ歩いている。


(あー、なんでこんな美味しそうな匂いがするんだっけ?たしか人が来て、えーっと、ヘルトさんか!)


コサックが完全に覚醒した。

屋敷の外はすっかり暗くなっている。

匂いにつられてきたものがもう一人。


「ようコサック、よく寝たか?秋は日が短いよな。」


エクサが調理場の方に入っていく。


「くおらエクサ!つまみ食いするな!手を洗え!俺の料理を何だと思っていやがる!」


調理場の中から、昼のヘルトからは想像もつかないような怒号が飛んだ。

エクサが逃げ帰ってくる。


(あ、捕まった。)


「配膳手伝えやエクサゴルァ!あ、コサック、目が覚めたか。皆を呼んできてくれないか?料理ができたぞ。」


「はい!わかりました!」


礼儀正しく大きな声で返事をしたコサックは、地下室の方に走っていく。

扉を開けてオムたちを呼ぶ。


「いいところに来たわねコサックうう!」


シビルがそう叫ぶと同時にこちらに向かって全力疾走してきた。

そのまま階段を駆け上がっていく。


「ほっほっほっ、元気が良いのう。コサックや、呼んでくれてありがとう。少し片付けをしてからすぐ向かうでの。先に行っとってくれ。」


次にコサックはソフィアとマクシムのいる客間に向かった。

部屋に入ると、すでに2匹の姿はなかった。


(先に行ったかな?)


客間から出て、外の魔狼たちを呼びに行く。

4匹とも警戒を解いて戻ってくる。


(誰か見張りを立てた方がいいのかな?)


4匹はすでに食堂の中に向かって走っていった。


(いっかな。扉倒れたままだけど。)


コサックは食堂に向かった。

ソフィアとマクシムの姿だけなく、他は集まっていた。

するとコサックの後ろからソフィアたちが入ってきた。

マクシムの体はすっかりきれいになっている。


『待たせたか?』


「いや、今全員集まったところだ。さあ適当に場所を決めてくれ。腕によりをかけて作ったんだ。お前らアルトゥムカニスやストリーギ、フェリスに合うかどうかがわからんがな。」


エクサがそれぞれに配膳していく。


「全部そろったか?よし、じゃあ飯にしようぜ!この鳥の焼いた奴!焼き色が良くて香ばしい味が口全体に広がるんだ!塩加減も絶妙だ。っだ!いでっ!」


「なぜエクサ、お前が料理の解説をしておる。まさか配膳中もつまみ食いをしていないだろうな!」


「ほほほーん、なんのことだかさっぱりだぜ。さっぱりと言えばこの葉野菜の和え物だな。味が濃い料理とか油が強い料理の間に食べると口の中がさっぱりしてまだまだ食べられるようになるぜ。」


「それはサラドというものだ。おいこら口に何かついてるじゃないか。調理場に行こうかエクサ君。」


「わーマジで首掴むなってヘルトのダンナ許してって。」


「飯の恨みはこえーぞ。」


ヘルトがエクサに対してこの世のものとは思えないほどの恐ろしい形相で凄む。


「ひっ。」


ヘルトとエクサが退場した。


「おいしいじゃない。研究所のお粗末な料理とは比べ物にならないわね。」


『この焼いた鳥が美味だな。』


『わたしはこの獣を焼いたものが好きだねぇ。』


マギローブとエレンがおいしそうに食べている。

魔狼たちは一心不乱に食べていた。


『肉を焼くとこのように美味しくなるのか。』


『そういえば肉を焼くということは、この匂いも外に漏れているのでは?』


「心配は無用じゃマギローブ。ワシの結界魔法で匂いもすべてかき消しておる。外も見張りがいなくとも良いようにイルシオンのような結界魔法を使っているでの。」


『ほほう、便利な魔法だな。使えるようになりたいが、どうだろうか。』


「お主なら使えるじゃろうな。」


『ならば食事が終わり次第さっそく教えてもらう。』


「ほっほっほっ。端からそのつもりじゃ。この屋敷にワシも滞在するでな。シビル君のこともあるしの。」


「なんですか?私がこれしきのことで逃げ出すと?そんなことありません。成し遂げることをソフィアちゃんと約束したんですから。ねぇソフィアちゃん♪このあとモフモフ成分を補充させてぇん。」


『む、また引っ付くのか。むむむ、約束をした覚えもないが。坊やのためならやぶさかではない。』


「そうよ、コサック君のためよ。ふふふ、なんて素晴らしいところなのかしら。私ここに住もうかしら。」


キリルとジーナが震えている。


『あまり我がソフィアを困らせるでないぞ、シビル。』


一瞬の静寂の後、皆がバッとマクシムとソフィアを見る。

調理場にいたエクサも顔を出して覗いていた。


『父さん、今、なんて?』


『ん?困らせなるよ?』


『いやそこじゃなくて我が?』


『コサックの父と母なのだろう?我々は。』


『いやそうだけど、うんそうだった。』


「いや待ってよおかしいでしょそんな結論。あなたたちツガイになったの?」


シビルが身を乗り出してマクシムに問う。


『ああ、そうだなツガイになった。』


また静寂が訪れる。


『それなら俺たちもだな。』『俺らもだ。』


ミハイルとウェラ、キリルとジーナが静寂を切り裂いた。


「何よそれ魔法陣の研究何てしている場合じゃないわ!アルトゥムカニスの群れって一家で構成されているって話だけど、あなたたちはそれぞれ群れってことになるの?」


『2匹だけのときは群れとは言わないだろうな。今は全員で群れだろう。我々のいた群れは別にすべて血縁のものというわけではない。群れを守るため別の群れ、1匹でいるものなどを引き入れることがある。ミハイルとキリルはソフィアの子供だが、ウェラとジーナは別の群れから来たものだ。』


「そんなことが・・・。ああだから昔、私の見たの群れは陽光と月光が大勢いてきらきら輝いていたのか・・・。」


『利害が一致している間は群れをなすこともあるな。』


「私は、ここにきて、幸せの、絶頂です。こうしちゃいられない!交尾の場面をこの目に焼き付けなくちゃ!次は誰!いつするの!」


「これこれシビル君。食事中じゃぞ。コサックもいるのじゃし。」


「中身は大人でしょ!大人しかいないんだからいいじゃない!」


「困ったやつだな。」


「お前も大概だが、シビルはその上を行きそうだな。」


オム、エクサ、ヘルトが大きくため息をついた。

コサックもただただ苦笑いをするだけだった。

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