第35話 家族
「ふむ、これが浄化の・・・。神聖なものとな。うーむ、転写は可能じゃ。大きな石板に描いて不浄の地に設置すれば良いだろうがのう。」
「この大きさの石板を運ぶ術がありません。神聖なものも、どんなものかわかりません・・・。」
「そうだのう。四方3メトレの石板などそうはないじゃろうて。それに、普通に運んでいる間に、落としたり振動で割れたりするじゃろうな。ここもそうじゃが城など建築するときに大きな石材を浮かして輸送する魔道具もあるがなぁ。あまり世の中には出回らないのう。作るとしても季節がひとつ変わるじゃろうて。石材よりも、イロンとかならいくらか扱いやすいじゃろうが。」
「イロンとはなんですか?」
「コサックは物を知らねーな。剣とかに使われてるやつだ。ドワーフたちが鍛造に使ってる。俺も取置きがあるがこの量はな・・・。神聖なものか。天地創造の神の偶像をとりあえずとっとと探してくる必要がありそうだな。」
(イロンは鉄か。神聖なもの、流木はどうだろうか。)
「誰か彫刻の上手い人いない?」
「いや知らねーな。彫刻なんてそれこそドワーフの範疇だろうな。」
「その腰に差しているものはなんだ?」
ヘルトがコサックの腰にある流木に興味を示した。
「これは海を渡った時に拾った流木です。クレイブに似ているような気がして、毎日、夜に祈りを捧げています。」
「信仰の対象か。毎日祈りを捧げているなら、神聖な力を宿しているかもしれんのう。試しに置いてみるのはどうじゃ?」
オムに促されたコサックは魔法陣の中心に流木を置いてみた。
反応はない。
「やはり、この床ではダメなようだな。床材で所々途切れているしの。シビル君、しばらくここでこの魔法陣の小型化を研究しないかね?」
「やりませんよ。」
「即答じゃな。何故じゃ。」
「私に何の旨みもないじゃないですか。こんな薄汚い暗い陰険なところで研究なんて、気でも触れますよ。」
『どうか、お願いできないか?』
ソフィアがシビルに念話を使った。
シビルが音速を超える速さでソフィアに振り返る。
「やります。ねえソフィアちゃんちょっとモフモフさせてもらっていいかしら?研究には絶対必要なの。」
『?モフモフとはわからんが、研究に役立つならいいぞ。』
シビルが恐る恐るソフィアに近づき、飛びかかった。
ソフィアに抱きつき手当たり次第に撫で回している。
「んふーんほー。んあああ。」
言葉にならない歓喜の声が聞こえてくる。
ソフィアは研究のためならと微動だにしない。
オムはため息をつきながらシビルの様子を見ていた。
「ドワーフか。エクサ、何か伝手はないかの。」
「ないだろー。ドワーフの現状ならオムじいさんも知ってるだろ。俺らを私的に手伝うなんてあり得ないだろうな。」
「そうじゃのう。とりあえず上に戻るかの。」
「ドワーフと何かあったのですか?」
「コサック君は知らないか。玄関ホールに戻るついでに私から説明しよう。」
ヘルトがドワーフについて語り始めた。
戦争に使用されている武器はドワーフがそのほとんど、全てと言っていいほどの量を作り出している。
最初は各国に店を構えてるドワーフたちが住んでいる国のために作っていたが、戦争が激化するにつれ、武器の供給源を止めようと優先的にドワーフが狙われるようになった。
殺されることを恐れたドワーフたちはドワーフ領に逃げ帰り、自領で製造、出荷を開始。
今度はドワーフ領での諜報活動が横行し、ドワーフ領が各領に対して自領内におけるドワーフ以外のすべての行為を侵略行為とみなし、ドワーフ領に害をなす領には武器の製造と供給を停止する宣言を出した。
各領はドワーフ領を武力で屈服させようと試みたがすべて失敗。
各領のドワーフ領に割ける戦闘員が不足したため、ドワーフ領への侵略が終息した。
各領の武器資源は今やドワーフ領に集まっており、武器を供給し続けている。
「ドワーフが武器の製造を止めれば戦争はおわるのではないですか?」
「ドワーフの性分だろうな。資源はある、作らずにはいられない、作ったからにはその効果を知りたい、のだろう。ドワーフ領でも戦闘が起き、不浄の地が発現している。彼らも不浄の地に対する対抗手段を持ちたいことには変わりないだろうな。」
「それを理由に交渉できないかってわけだな。よし、ちょっくらここを留守にするぜ。神聖なものとドワーフ探しで営業再開だ。」
「まあそう慌てるでない。エクサよ、心当たりがあるのかね?冬まであまり時間はないぞい。」
「気がはやってしょうがねーんだよ、オムじいさん。姉さんも頑張ってんだ、何かしてねーとだめだ。明日にでもここを発つぜ。何か欲しいものはあるか?」
「では、ドワーフだけでなく、収納魔法を知っている人物もあたってみてくれ。商人なら何かとそういう話はあるだろう。あと君がいない間の食料がほしい。」
「食料なら今すぐ30日分くらいなら持ち合わせがあるぜ。なんとここに食べ物専用のストラジが!ほらヘルトのダンナ、驚いて驚いて。」
「このストラジでは、入口が狭くて石板は入らないな。収納力はなかなかある。これだけあれば生活には困らないだろう。よし、私はこの件が終わるまでここに滞在する。調理室も使えると言ったな。食事は私が用意しよう。冬に備えて屋敷の修繕もしなければならないな。」
「驚かねーなダンナは。それはそうと料理とか大工仕事はできんのかい?」
「与えられた住まいがそれはもう、王国一汚くて傷んでいるところではないかと私は思っているが、そんな場所で生活していたのだ。料理や掃除などの身の回りのことや大工仕事まですべて自分でこなせるようになったさ。」
「戦争の物資確保が最優先って感じか。まったくやってらんねーな。」
「君のような目新しい商品なんか置いてあるとつい買ってしまうな。」
「へへへ、その節はどーも。」
「エクサ、探し物が見つかるかどうかは関係なく、1か月ごとにここに帰ってきておくれ。食料の補給と各国の状況をワシらに教えてくれんかの。」
「任されたぜ、オムじいさん。」
オムがエクサと約束事をしていると、ヘルトがエクサの目の前にドカッと麻袋のような袋を3袋落とした。
「おいおい、収納魔法じゃねーか!でこの袋はなんだ?」
「ここでの生活資金の前払いだ。受け取ってくれ。あと俺の収納魔法はこれくらいしか入らん。四方3メトレの石板など入らんよ。」
「そうなのかよ。まあこんだけ身近に収納魔法があるんだから、すげーの見つけてくるさ。資金、遠慮なく受け取るぜ!ってうわなんだこれこんな大金見たことねーぞ。」
袋を解いたエクサが目を丸くして袋の中を覗き込んでいる。
「こんだけあればしばらくこっちは活動に困らねーな。ありがとなヘルトのダンナ。コサックたちを信じてくれてよ。」
「ああ、傷だらけの魔狼を見て、コサックと握手をしたときに決めた。こんな子供が大義をかかえ成し遂げよう邁進しているのに、私が猜疑心をもって接している場合ではないだろう。」
ヘルトが玄関に集まったものたちを見渡す。
コサックとその周囲に凛々しく座っている獣たち、師事しているオム、自分を担ぎ上げて助け出してくれたエクサ、ソフィアにまだ引っ付いているシビル。
「私の冒険は、ここから始まるのさ。」
ヘルトは笑顔でそう言うと、その言葉に皆うなずいた。
「さてと、これから料理を始めようか。」
ヘルトが調理場に姿を消した。
「俺は掃除道具でも持ってくるか!」
エクサは荷馬車に走る。
「このモフモフがぁん。たまらないのぉん。」
「シビル君はこっちじゃ。」
オムはシビルの後ろ襟をむんずと掴み、シビルをソフィアから引っぺがす。
「ぎゃいああああああ。私のワタシノモフモフガアアアアァ!。返してえええええええぇ!」
断末魔を発してじたばたするシビルを引きずりながら、オムは地下室の方に歩いて行った。
『研究に興味がある。それともっと皆を守れる魔法を知りたい。オムのところに行く。』
『そうさ。あんなのがまた出てきたとき、あの魔法だけじゃ心配さね。』
マギローブとエレンもオムの後を追った。
『キリル兄さん、ジーナ、また屋敷の警戒をお願い。』
『わかった。あのシビルから離れるに越したことは無い。』
ブルっと震えてからキリルとジーナは玄関を出て警戒を始めた。
『コサック、我々も出る。』
ミハイルとウェラも外に向かって走って行った。
『さっきの部屋に戻ろう、母さん、と、父さん。』
『む、なんだコサック、父と呼ぶのか。』
『うん。あの時助けてくれたから、みんな無事だった。家族を守ってくれた。父親ってそんな存在かなって。はは、なんか照れ臭いな。』
『ありがとうコサック。家族となれて嬉しいぞ。』
部屋に戻り、マクシムを寝台に寝かせると、マクシムの両隣にコサックとソフィアが陣取り、再び眠りについた。




