第34話 屋敷
魔法師のフィルシズと対峙した次の日の午後、屋敷に向かっていたオムたちが到着した。
ヘルトが屋敷の正面入り口にある扉を開けようとして、扉の取っ手を触れた瞬間、扉が室内側に倒れてしまった。
戦闘で疲れてしまっていたのか、コサックと魔狼たちは扉が倒れる音がするまで1階の客間で寝てしまっていた。
エレンとマギローブは来客に気が付いてはいたが、来客をもてなす気分ではなく、扉が開いても出てこない。
オムが違和感を感じ取ったのかコサックに足速に歩み寄る。
(これは何かあったかの。)
起きてきた血塗れのマクシムを見てオムが驚く。
後れて入ってきたエクサもマクシムを見てオム同様驚いた顔をしたがすぐに平静を取り戻す。
「何かあったか?アンポウレはいるか?皆生きてるか?」
「うん。大丈夫。アンポウレって?」
「回復薬だ。生命力を回復させるやつだ。見張りも立ててないもんだから心配したぞ。キリルとジーナに外を見張るよう言っといた。」
「ありがとう。昨日色々あって、薬よりも、今は食事かな。みんなちゃんとしたもの食べてないかも。」
「調理場はどこだ?使えるか?使えるなら何か作ってやろう。」
コサックはエクサに調理場の位置を教え、エクサはそそくさと調理場の中を確認し、設備の確認に取り掛かった。
「オムさん、この子がそうですか?」
「そうじゃ、件の子じゃ。」
「あの、こちらのかたは?」
「ああ、自己紹介が遅れたな。私はヘルト・イダルツだ。訳あって罪人となり処刑されるところをオムさんに命を救われた。」
「ワシが現役から退く少し前の戦で知り合ってのう。魔法の才能はからっきしだが、武術はなかなかなもんじゃ。」
コサックが立ち上がりヘルトに近づいた。
「コサックです。オムさんには魔法を教えてもらったり、色々助けていただいています。よろしくお願いします。」
コサックが右手を出すと、ヘルトも右手を差し出し、握手を交わした。
「それと、そちらの女の人は?」
「わたし?私はシビル・ウィチよ。よろしくね。それよりもその、陽光魔狼、どうしたの?ただごとじゃないわよね。陽光魔狼にそんな傷をつけさせるなんて。」
「そうじゃな。何が起きた。マクシムの体はどうしたのじゃ。」
シビルがビクッとした。
マクシムという言葉に反応し、ままままくしむっていうのね、と独り言を呟いている。
コサックは不浄の地での出来事をオムたちに話した。
「ふーむ、厄介な・・・。ワシの教えた魔法が役に立ってよかったが、危ないところじゃったの。」
「何よそいつ、マクシムのことこんなにするだなんて。許せない、許せない許せない許せない!」
対峙した魔法師にマクシムがやられたことにシビルは怒りをあらわにした。
「おう、なんか皆難しい顔してんな。調理場の設備は生きてるから使わせてもらうぜ。」
『おい、なんだか変なやつが不浄の地にいるぞ!』
唐突にキリルから念話が飛んできた。
コサックたちは慌てて外に出て不浄の地との境界に急いだ。
フィルシズが誰かを探すようなそぶりで境界にいた。
だんだん近くにつれ、昨日の魔法師ではないことがわかった。
「よがっだ。ぶじだっだのね。」
エルフのフィルシズがそこにいた。
「なんと!」「しゃっべってる!」「こいつは!」
オムとシビルは驚いており、ヘルトは戦闘態勢に入った。
「・・・まさか、あんたは!」
「・・・えぐざ!」
「姉さん!」
エクサが境界のギリギリまで駆け寄り、エルフのフィルシズの顔を見て手を差し出すように前に出した。
「そんな体になっちまって、俺がもう少し強ければ!ごめんよ、ごめんよ!」
「なんであなだがあやまるの。ぶじににげでぐれでよがった。」
エクサが姉を抱きしめようとしたが、姉がそれを制した。
「だめ。あいづにぎづがれでじまう。」
「昨日の、魔法師ですか?」
「ぞう。あだじもあまりながぐいだらぎづがらでじまう。でみじがにばなずわ。」
エクサがグッと堪え、エルフのフィルシズの言葉に耳を傾けた。
「べんぎょうばぐをみづげだわ。でもがれ、じぼうじぎになっでる。もうずごじ、じがんをぢょうだい。まだごごにぐるがら。」
「わかり、ました。」
「姉さん、また来るならまた会えるなら、俺は大丈夫だ。そっちも無事でいてくれよ。」
「づよぐなっだのね、えぐざ。ええ、まだぐるわ。」
そう言ってエルフのフィルシズ、エクサの姉は不浄の地の奥へと消えた。




