第33話 辺境伯
「この感じは。」
「ああ、やつだ。」
「いじづのもの。うごぎだじだようね。」
「早く辺境伯を見つけるぜ。」
「わだじもざがずわ。ばだぎをもっでいぐわね。」
「私はあの子たちの方へ向かう。無事だと良いが。」
フーマンのフィルシズが泥に溶ける。
泥に溶ける方が走るより速く目的地にたどり着けるからだ。
コサックたちの姿が見えた。
(もう少しだ。)
すると前の方から何かに撃ち抜かれたように飛んでくるものがある。
(っ!!)
飛んできたマクシムを、地面にたたきつけられる衝撃を和らげるようにフィルシズが下敷きになった。
「立てるか?」
フーマンのフィルシズが声をひそめてマクシムに問う。
苦痛に顔を歪ませるマクシムが僅かにうなずいた。
「隙を見て飛び出せ。あいつもこの魔法陣を身に着けているならば、不浄の地とは繋がりが希薄なはずだ。お前は亡きものと、そう思い込んでいるはずだ。」
マクシムが勝機をうかがうように痛みに耐えながら泥の地面に腹をつけ伏せる。
(なんと強く逞しいのか。私は・・・。私は、私は今まで何を・・・。このような切迫した状況に何もできない私は・・・。)
フーマンのフィルシズがマクシムの姿を見て自身の非力を呪った。
(いや、何か、何かできるはずだ!私は、この者たちが与えてくれたこの機を無駄にするわけにはいかない。)
「死ぬなよ。」
マクシムにそうフーマンのフィルシズが伝えると、泥の中に消えた。
(やつの弱点はなんだ魔法陣のはずだ。魔法陣がなければ、須らく穢れ本能に塗りつぶされる。魔法陣を破壊する方法はなんだ。)
フーマンのフィルシズが着ている肌着が汚れて茶葉んでいる。
(よくできたものだな。このような状態になっても魔法陣の効果は崩れない。しかしこれはやつも同じだろうな。)
そうこう考えているうちにフーマンのフィルシズは小屋の前についていた。
(魔法陣は魔法陣の描かれた線や点、それらがずれたり、切れたり、消されたりするとその効果は消えるはずなんだ。やつの魔法陣は自己修復型ではないと思われるが。やはりの魔法陣を傷つけることが鍵と考えるのが妥当か。)
フーマンはフィルシズは小屋に残った肌着を手に持ち考えた。
そこにティーヴァ、エルフのフィルシズがほかのフィルシズを引き連れて戻ってきた。
「みづげだわよ。」
フーマンのフィルシズが身構えた。
「お初お目にかかります、私はフマト王国の第3騎士団所属スアヴィと申します。このたびはリージオン卿にこの地、不浄の地の研究成果を伺いいたしたく参りました。」
「そのような堅苦しい挨拶は良い。貴様も私と同じ穢れた存在、フィルシズではないか。爵位もなにもないだろう。」
「それではお言葉に甘えて、お伺いしたい。あなたは屋敷で浄化の研究をしていた魔法師に殺されたのですか?」
「そうだ。従者、家族もろともな。」
「ではご家族もここに。」
「そうだ。それを聞いて何になる!すべてを失い、死ねずにさまよい続け、ただここに存在し続けるだけの無能の極みに何ができるというのだ!」
「・・・ここを浄化しようとするものがおります。」
「無駄だ。」
「私は、その子のことを信じております!」
「子?」
「齢4ほどの子供です。」
「!!そのようなものに!何ができるというのだ!」
「今私たちが身に着けているものを作り出しました!」
「・・・これをか、これは私を殺した魔法師の写しではないか。」
「写し、ではありますが、少し魔法陣の条件などを変更しています。」
「なに、あの魔法師の作るものは複雑怪奇で並のものでは解析や転写は不可能だ。一番近くで私が見ていたのだ。それを解析し書き換え描いたと?」
「ええ、先程、その子が魔法師と対峙しておりました。」
「何!」
「なんだと?!」
「ぼんどうなの?!」
「なんでそれを早く言わねーんだ!助けに」
「行ってどうなる!あの魔法師に瞬間、蹴散らさせるのが関の山だ!」
「だからって!身代わりくらいにはなれるだろ!」
「あの子には強い仲間がついている。今の私たちではただの足手まといだ。きっとこの苦難も今頃乗り越えている!私はそう信じる!」
フィルシズたちが押し黙る。
「リージオン卿、魔法師はこの魔法陣を身に着け行動しています。やつを無力化するためにこの魔法陣の弱点などありましたら、お教えいただきたい。」
「・・・お主も知っておろう。魔法陣の効果の消し方くらい。この体はいくら攻撃を受けても、またすぐ死んだときと同じ体に戻ってしまう。あやつは、自身の体に魔法陣を焼き付けておるのだ。」
「っ!そんな・・・。」
スアヴィが悔しそうに手を握りしめ項垂れる。
「・・・エルフの。この肌着だが、子供が身に着けるようなものはあるか?」
「ありまず、あのごがよういじでぐれでまず。」
「そうか・・・。私はこの地のどこかで彷徨っている家族を探しに行く。数着いただきた。」
「どうぞ。ごじゆうにおもぢぐだざい。ごやのながにありまず。」
リージオンは小屋の中に入ると、肌着をもって不浄の地の奥へと消えた。
「どうすればいいんだ!」
スアヴィが地面に崩れ折れる。
ただこぶしを強く握りしめて聞いていたティーヴァのフィルシズも顔に諦めが漂っていた。
「あのごがいるやじぎのぎょうがいまでいぐ。ごやでのまぢあわぜはあぶない。」
エルフのフィルシズがそう言って動き出した。




