第28話 フィルシズ
オムたちがヘルトの奪取から帰ってきたころ、コサックたちは拠点の屋敷にたどり着いた。
明日に向けて寝てしまうことになったので祈りを捧げて就寝した。
屋敷の中に寝台はあるが、基本コサックは獣たちと寝るため雑魚寝をしている。
次の日、早速コサック、ソフィア、マギローブ、マクシムが不浄の地にたった。
『このまま走っていった先に小屋があるから、そこまで全力で逃げて。』
マギローブが先行して小屋に向かう。
それを追うようにコサックを乗せたソフィアが続き、マクシムはソフィアの前に出てては囮となってフィルシズを撒き、また前に出て撒く、を繰り返していた。
飛行型のフィルシズがマギローブを攻め立てるが、身体強化の魔法を覚え行使しており、自ら避けることなく体当たりをしてくるフィルシズたちを無傷で跳ね返していた。
跳ね返されたフィルシズたちは地に落ちていく。
前回訪れた時より早く小屋にたどり着いた。
『入り口は塞いであるから2階の窓から入ろう。』
マギローブが先に窓から入り、中にいるフィルシズを蹴散らす。
後れてマクシムが跳躍して窓から入り、マギローブが蹴散らしたフィルシズを外に投げ捨てた。
『終わったぞ。』
ソフィアが窓まで跳躍し中に入った。
2階の窓を閉めて隠し部屋の回転扉を開け、魔法陣を確認した。
マギローブはすぐさま羊皮紙に魔法陣の転写を始める。
『描けた。屋敷へ戻るぞ。』
隠し部屋の扉を閉めて、1階の出入り口にある山のように積まれた家具の前に来た。
『ここからフィルシズをおびき寄せるから片付けておこう。』
コサックたちは手際よく片づけをして出入り口が通れるようにした。
出入り口の扉をあけると、そこには3体の人型のフィルシズが待ち構えていた。
完全に体が残っているものが1体、上半身のみのものが1体、かろうじて歩けているが体のところどころがかけているものが1体、どれも戦争で命を落とした種族のようだった。
交戦しようとするマクシムにコサックが語り掛けた。
『待った。この3体、隠し部屋の魔法陣におびき寄せてみよう。効果を確認したい。』
マクシムはコサックの提案に賛同した。
マクシムが3体の前に出て、威嚇しながら後ずさる。
うまく3体がマクシムに向けて寄ってきていたので誘導が容易だったようだ。
小屋の中に入ったところで出入り口の扉をしめた。
するとマギローブが隠し部屋の回転扉をうまくこじ開け、マクシムに向けていった。
『いいぞ。投げ込め。』
マクシムはマギローブの声にこたえ、1体ずつフィルシズを隠し部屋に向けて投げ込んだ。
隠し部屋の魔法陣が淡く光る。
コサックが隠し部屋の扉の前で様子をうかがっていると、フィルシズが淡い光に包まれた。
フィルシズは眩しそうに手を翳していたが、しばらくして手がだらんと下に投げ出された。
フィルシズが一斉にこちらを向いた。
「君はだれだい?フーマンのようだが。」
「さっきはひどいじゃないか。いきなり投げるなんて。」
「じゃべれでるのが、ごえばぎごえるがい?」
フィルシズが思い思いに語り掛けてきた。
「私はフマトの騎士団長、だったものだ。名前は、もうどうでもよいだろう。」
「俺はティーヴァの戦士だったものだ。」
「わだじばエルブのぜんじだっだ。」
コサックの目論見は結果的にうまくいった。
(3種族が揃っているなんて、やはりここで戦争があったんだな。)
「騎士団長様に伺いたいのですが、よろしいですか?」
「そんな改まらなくても良い。そのような地位も気位ももうないのだ。」
「わかりました。あの、フィルシズになってどのくらいになりますか?」
「さてな、どれくらいかもわからん。ただ長い年月ここに縛られている。」
「そうですか。」
「あなだばなにをじにごごまで?」
(ここは思い切って。)
「神に、天地創造の神クレイブの願いで、ここを浄化にしきました。」
エルフのフィルシズが驚くようなそぶりを見せた。
聞いていた2体のフィルシズも同じようにしていたが、ティーヴァのフィルシズが落ち着いたような眼差しでコサックを見据え、話し始めた。
「俺は戦に駆り出されここで死んだ。戦闘中にこの地はいきなり不浄の地となったのだ。誰かの魔法なのかわからないし、そもそも目的もわからない。フィルシズになった時は神の怒りを買ったかと思い、今の言葉を聞くまでそう思っていた。」
ティーヴァのフィルシズは続けた。
「神の仕業でないのなら、誰がこのようなことをしているのか理由がわからん。長い間ここに囚われていると理由などどうでも良くなる。それが今日ここでまた変わった。理由を知りたくなった。俺の知っていることならなんでも話そう。」
フィルシズは語り始めた。
不浄の地は、そこにいるフィルシズ同士が魂とか精神とかそういう類のもので繋がっており、また不浄の地とも繋がっているので誰かがどこから不浄の地に入ったかすぐにわかること。
侵入者を同じフィルシズに引き込むことがあたかも本能であるかのように、襲って飲み込み数を増やすこと。
この魔法陣の中にいると引き込み本能がなくなり、繋がりが切れたような感覚になること。
フィルシズになる前の記憶は残っており、フィルシズとして過ごした日々の記憶もあること。
不浄の地に飲まれたときにしていた格好がそのままフィルシズに受け継がれること。
早く本当の死を迎えたいこと。
「ここにこんな魔法陣があるなんて知らなかったぜ。誰かが俺らフィルシズを使って何かしようとしていたのかもな。」
「兵法としてフィルシズを用いて有利に戦うことも研究されていた。フィルシズは死なないからな。だが私は魔法陣でフィルシズを従えるというのは聞いたことがない。おそらくこれは私がフィルシズになった後で成功させたものだろう。だがこれでは実用的ではないな。投げ込んだところからして、ここでしか使えないのだろう?」
「そうです。」
「まあ私としてはこれがここに残されていたおかげで君と話をすることができていることは、素直に喜ぶとしよう。」
「じょうがのじゅだんばみづがっでいるの?」
「浄化の手段、はまだ見つけていません。どうすればいいかもわかりません。ですが、この魔法陣でやりたいことがあります。」
「ぞう・・・。」
エルフのフィルシズは残念そうにしている。
「みなさんはここを出ないで待っていてください。」
「おう、待つぜ、坊主。外に出ても仕方ないからな。」
コサックは一旦引き上げることを3体に告げ、小屋を後にした。
「貴殿はティーヴァか。貴殿がここの一番の古手か。私がきたときにはここはすでにあったからな。」
「まあそうだろうな。」
「わだじもごごにずんでいで、がえってぎたどぎにだだがいにまぎごまれでじんだわ。」
「そうか・・・。戦に巻き込んで悪かったな。」
「じがだないのよ。どのじゅぞぐもぜんぞうにやっぎになっでいだがら。わだじも、だぐざんのものをあやめだわ。」
「助かるなら、本当の死を迎えられるなら、それにすがりたい。私はあの子の力となってやりたいと思っている。」
「奇遇だな、俺もだぜ。」
「わだじも。」
3体は魔法陣の中心に来て、それぞれの胸の内を語っていた。




