第27話 休業
研究所にキリルとジーナが戻ってきた。
「よくやったぜ相棒!すぐエルブス領に飛ぶぜ。早く乗りな!」
エクサが大声でキリルとジーナを呼び、キリルとジーナは荷馬車に飛び乗った。
「エルヴス領、旅立ちの岬!」
エクサが転移石を握りしめる。
荷馬車は程なくして転移した。
オムたちは見事にヘルト・イダルツの奪取に成功した。
エクサたちがエルヴス領に降り立つ。
オムがジーナに声をかけた。
「ジーナよ、このヘルトを月魔法で治せるかな?」
『やってみるわ。』
ジーナが目を瞑ると魔法陣が展開する。
ヘルトが寝ている場所に魔法陣が展開され、優しい光がヘルトを包み込んだ。
シビルがその様子を、両手をがっちり祈るように握りしめ、目をこれでもかと言わんばかりに輝かせ口を半開きにして泣きながら見ている。
「器用なやつだ。」
エクサがシビルに呆れながらもジーナの回復魔法を見ていた。
徐々にヘルトの顔から腫れが引いていく。
ジーナが詠唱をやめ魔法陣が崩れると、穏やかな顔でヘルトは眠っていた。
「おいジーナ。シビルにもその魔法をかけてやってくれ。」
「なななななんでわわわわ私はいいいーわよ。怪我してないもーの。」
「時間魔法だよ。目から血が出てただろ。」
「あああれはいいのよ。あの魔法、消耗が激しいからそうなるのよ。」
話は聞いたとばかりにジーナがまた目を瞑りシビルを魔法陣で包む。
「あー、私もうここで死んでもいい。死にたい。憧れに癒されるなんてもうこんな奇跡起きないもの。」
シビルが大の字になって魔法陣の中を手足をばたつかせている。
魔法陣が崩れたが、シビルはまだ夢の中のようだ。
「さて、一度小屋に戻るとするかの。」
荷馬車が小屋に向けて出発した。
引いている馬たちは相次ぐ転移に少し疲れたようで足取りは重い。
いつもよりも時間をかけて進んでいる荷馬車の中が静かになったかと思えば、エクサ以外寝てしまっていた。
「まったく護衛まで寝ちまってよ。」
エクサが小屋の前にたどり着いた時はもう夜も遅い頃だった。
「あーあ、オムじいさんの勇姿を見られると思ったのによ。石いじってただけじゃねーかよ。」
まだ夏の熱気が残る秋。
「このまま寝ちまっても、まあ問題ねーか。」
エクサが結界を施すと荷馬車の中で眠りについた。
次の日、全員が目を覚ましたのは昼過ぎのことだった。
「あー、体痛ーい。」
「ヘルトを小屋の中で休ませるでな、手伝っておくれ。エクサ。」
「へいへい、っと。よく寝たなーっと。」
エクサが伸びをしてヘルトを抱えた。
オムが扉を開けて寝台にヘルトを寝かせる。
「目を覚ますまで様子見じゃな。」
「今回はめちゃくちゃ働いたからなー。ヘルトのダンナが目を覚ますまで臨時休業するわ。」
キリルとジーナはヘルトの寝台のそばで足を投げ出し横向きになっている。
「護衛も休業だな。」
ヘルトが目を覚ますまでの4日間は平穏だった。
シビルは近くの街にお忍び観光をして楽しんでいた。
キリルとジーナは奪取作戦後、絆が強くなったのかひとときも離れず過ごすようになっていた。
エクサは街に食品や生活用品を買いに出たりし、オムはヘルトの看病に当たっていた。
ヘルトが目を覚ます。
ヘルトはまず自分の置かれた状況をオムに尋ねており、オムが返答したところで何故オムがここにいるのかと驚いた様子で聞いていた。
ヘルトの意識が鮮明になるにつれ、状況を飲み込んでいくうちに、小屋にいる全員に感謝を伝えた。
オムは本題である話を切り出し、ヘルトは真剣にオムの話を聞いた。
「オムさん、それは絵空事ではないんだな?」
「そうじゃの。まだ何もなしてはいないがな。ワシは信じておるよ。お主が信じられんのなら、実際に見てみるといいかもしれんな。」
「おう、ヘルトのダンナ。目が覚めたんだな。死んだかと思ったけどなかなか死なないもんだな!」
ヘルトはエクサの言葉を聞いて苦笑いをする。
「ここから1日ほどかかるが、まあゆっくりと向かうかの。」
ヘルトはエクサから服を受け取る。
袖のない白のシャツに腕を通し、黒のズボンを穿いて、エクサと同じく脛まである編み上げブーツを履いた。
その鍛えられたたくましいからだがより一層誇張されたような格好だ。
オムはヘルトが着替え終わると、屋敷に向かった。
他のものもオムに続く。




