第26話 広場
フマト中央広場はごった返していた。
魔狼たちを街中で走らせるとまずいと考えたオムたちの考えは杞憂に終わった。
フマトに住まう人族がたちがほぼ全員広場に集中していたのだ。
王国騎士団という、羨望、憧れ、その揺るぎない地位をかなぐり捨てた者のに対する興味が、国民を動かし広場に集結させていた。
処刑人が断頭台に立つ。
「これより、この王国に仇となす者の処刑を執り行う。あろうことが国王陛下に意見したてをついたこの狼藉者の首を今日この場で刎ねる。刮目せよ。国王陛下様万歳!」
万歳の言葉の波が押し寄せる。
程なくして死刑囚が乱暴に処刑台の上にあげられ、断頭台に首をはめ込まれた。
死刑囚の顔は腫れあがり、頭からは鮮血を垂れ流していた。
もう何もしなくても死ぬくらいの拷問をすでに受けたのだろう。
それでも死刑囚は生きていた。
広場に集う者たちはひそひそ声、処刑を急かすもの、恐怖で叫ぶものと各々が声を出したいように出し、広場に近づく者たちの足音や息遣いを見事に消していた。
(ここまで簡単に近づけるとはの。ここで敵襲があったらどうなるものやら。フマトも質が落ちたの。)
オムがため息を漏らす。
「どうやって奪取するのですか?」
シビルがオムに問う。
「簡単じゃよ、シビル君が時間を止めて奪取するんじゃよ。」
「私、血まみれになりたくありません。」
「担ぐのはそこのエクサに任せなさい。シビル君は時間魔法に集中してくれればそれでよいのじゃ。エクサがワシのところまで戻ってきたら、転移石でまた研究所に戻るぞい。」
「そうじゃありません。はあ、わかりました。人使いが荒いのは昔からですよね。」
「おい断頭台の刃、あれミスリルじゃないのか?確実に殺すってことだな。あ、処刑人が何か刃物、斧か、持って縄のほうに近づいていくな。そろそろだぞ。」
「いちいち言わなくてもわかってるわ。陣消しできるから大丈夫よ。」
「時間魔法を陣消しかよ。とんでもねーな。」
「さあ始めるぞい。」
処刑人が斧を大きく振りかぶり、縄めがけて力の限り振り下ろした。
エクサは戸惑った。
音のない世界に入り込んだような気がしていた。
シビルがただ一点を見つめている。
断頭台にいる死刑囚をずっと見ていた。
エクサは動き出した。
時間を止めるということはそこにある物質すべての動きが止まる。
空気も壁になって動けないはず、とエクサは考えたが実際は動ける。
深く考えることをエクサはいったんやめて死刑囚のもとへ急いだ。
断頭台から首を外し、背負ってオムが潜んで待っているところまで首尾よく戻った。
シビルの目から血のようなものが噴出している。
エクサは慌てたがシビルがエクサをキッと睨むと、エクサはシビルから目線を外し、シビルより後方にいるオムのもとへ駆け寄った。
オムの時間も止まっていた。
キリルは屋根の上で止まっている。
背中には大きな筒状の布を背負っていた。
キリルとジーナはオムたちが転移したことを見計らって遠吠えをして、背負ったものを囮に街から逃げる算段になっていた。
シビルがオムのもとへ駆け寄り魔法を解いた。
「よおし、うまくいったな!フマト魔法研究所!」
ズドコン、と誰もいない断頭台に刃が降ろされた。
オムたちの転移が終わったことを見計らい、キリルが遠吠えをする。
広場の全員が屋根の上にいるキリルを仰ぎ見た。
キリルが踵を返して逃げると同時に、処刑人が大声を上げた。
「やつを捕まえろ。逃がすな。背中のやつを奪還しろ!」
広場で処刑に駆り出されていた王国騎士団や雑兵などがキリルを追いかけようとしたが、広場の集団に進もうにも進めずにいる。
すぐ後ろから迫る影をキリルは感じ取った。
屋根の上に軽装の部隊が乗ってきておりキリルを追っていた。
ジーナも追われている。
キリルとジーナはなんとか王都の外まで出て、背中の荷物を乱暴に地面にたたきつける。
軽装の部隊がキリルとジーナににじり寄る。
キリルはこの時を待っていたかのように、目の前に魔法陣を展開させた次の瞬間、激しい光がキリルとジーナを包んだ。
「目眩しなど!」
対策済みと軽装の部隊の1人が一歩前に出ようとしたが、膝をついてしまった。
「これは!おかしい!目眩し対策の魔法が効かない!」
キリルの放った魔法が軽装の部隊の対策魔法を凌駕した。
「あいつらは一体・・・。」
軽装の部隊の前から魔狼たちは忽然と姿を消した。
布の塊を残して去ったものを追おうとする者はいなかった。




