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第25話 研究所

エクサたちは、オムの使った転移石でフマト魔法研究所の中庭に転移していた。


「いきなり敵地ど真ん中かよ。」


魔狼たちも唸って周囲を警戒している。


「ほっほっ、慌てるでない。攻撃してくるような肝が座った輩はここにはおらん。さて、責任者を呼んでくるかの。そこで待っておれ。」


オムが荷馬車を飛び降りると軽い足取りで中庭を出てそのまま研究所の奥へ消えていった。


「俺らを残していくなよ・・・。」


幸いにも周りには誰もおらず、中庭にいきなり現れた荷馬車がいてもシンと静まり返っていた。

御者台の上でエクサが頬杖をついてアクビをしていると、オムが誰かを連れて中庭に戻ってきた。


「オム先生、いきなり荷馬車を研究所に運んでこないでくださいよ・・・。」


目の下のクマが濃く、見るからに疲弊し疲れ切った顔の若い人族の女性が更に悲壮感を漂わせる口調と顔でオムに訴えた。

女性は御者台のエクサを見て、エクサが、よっ、と片手をあげて挨拶したが女性は見なかったのか見えないことにしたのか、挨拶を返さずに目線を荷馬車の横で伏せて様子を見ている魔狼に移した。

女性の目が輝きだす。


「こここここれはこの獣はなんですかアルトゥムカニスの上位種ですよねなんで連れているんですかあああこっちにもいるこっちも上位種だえナニコレ雄と雌の番ですかなんて贅沢なことになってるんですかこれを見せびらかしに私のところに来たのですかなんて卑劣なんでしょう先生はでも小さいころからの夢が今目の前にいるなんて感激して倒れそういや待って倒れるわけにはいかないの・・・。」


女性は早口でオムにまくしたてたかと思うと独り言を息継ぎなしで呟き始めた。

エクサが御者台から降りてオムに話しかけた。


「オムじいさん、大丈夫なのか?それ。」


「それとは失礼ですよ!」


「ひえ。」


「これこれ、シビル君、彼はエクサ。ワシが贔屓にしている商人じゃ。」


「よろしくなシビル。」


「ふん、呼び捨てとは馴れ馴れしいエルフ族ですね!私にはシビル・ウィチという立派な名前があるんです。」


「そうかい、俺はエクサ・メルチャントだ。オムじいさん、なんでこいつを連れてきたんだ?」


「こいつとはなんですか!」


「うお。」


表情がころころ変わるシビルに、エクサはいちいち驚きながら若干距離を取った。


「シビル君はここで一番優秀な魔法の研究員でね、いわゆるワシの弟子みたいなもんだ。ここの研究所は国王が閉鎖を命じている場所でな。もうシビル君一人しか残っておらんのじゃ。ワシが閉鎖にたてついたからの。この王都フマニテから追放されたのじゃ。ほっほっほっ。」


「ああ、シビルも大変だったんだな。」


「わかってくれます?!」


「げぇ。」


シビルがエクサの一言にグイと距離を詰め、エクサの手を握った。

エクサは手を振りほどこうとしているが、シビルが固く話さないため、大振りに握手をしているように見えた。


「は、な、せ、よ、こ、ん、の!」


シビルが、はっ、と手を放し魔狼のほうにかっ飛んでいく。

キラキラした目でジーナを見ている。


「はああああぁいいですよね月光魔狼て種族ですよアルトゥムカニスでも雌しかなれないんですよ私も同じ女としてこの勇ましく逞しく全てを包み込むような慈愛に満ちた眼差しは感動しますよねはあああぁちょっと触ってもいいかしら触っても怒らないわよねつんつんああんヤダ言葉では触れられるのに手では無理なのでも触りたいいいいい・・・。」


一挙手一投足言葉攻めのように褒めてくるシビルに、ジーナは恐怖を感じていた。

ジーナの瞳は落ち着かず、ただシビルと目を合わせることだけはしないようにしていた。

痺れを切らしたキリルが威嚇して唸るが、さらに目を輝かせたシビルにとっては逆効果だった。

キリルも戸惑っている。

シビルの表情は恍惚の境地を通り過ぎて溶け始めていた。

キリルとジーナの恐怖が倍増する。


「なあオムじいさん。あんたに聞いて悪いんだが、あいつは、なんだってシビルはあんなに情熱を持ってるんだ?」


エクサがシビルたちの光景を見ながらオムに話しかけた。


「シビル君はね、幼い頃アルトゥムカニスマジョアの群れを見たそうだ。雄と雌の毛並みが光に反射して、それはそれは美しかったそうでな、その時から虜になってしまったそうだ。」


「そういやなんで連れてきたか聞いてなかったな。

なんでだ?」


「シビル君も仲間に引き入れようと思っとるんじゃよ。」


「ここの研究員でオムじいさんの弟子というだけじゃないんだろうが、実際使えるのかよ。」


「小さい頃から情熱を持ってアルトゥムカニス探しに森に入っていたそうでな、いつも危険と隣り合わせだったシビル君はいつの間にか生命力と魔力量が多くなっていたそうなんじゃ。ワシの研究していた魔法も、ワシの魔力量が足りなくても、シビル君の魔力量ならできることもあったほどじゃよ。」


「なるほどな。志が高いやつは嫌いじゃないぜ。一途に情熱を持って追い続けているなんて格好いいじゃねーか。」


「お眼鏡にかなったかね。」


「それは俺がどうこういうことじゃねーやな。」


「そういえばオム先生、なんでここにきたのですか?」


シビルが何かを思い出したかのようにオムの方をばっと見て聞いた。


「今かよ。」


「これから行くところがあるんじゃよ。そこに付き合ってもらいたい。」


「どこに連れて行かれるんです?」


「死刑囚となっているヘルト・イダルツのところじゃ。」


「ああ、その人なら今日の午後に処刑されるそうですよ。」


「すげー淡々としてんな!てかすぐじゃねーか!」


「ちょうどいい、ヘルトを奪取するぞい。それと、シビル君、伝えておきたいことがある。」


「なんですか?」


オムはシビルにコサックという少年の話をした。

最初興味なさそうに聞いていたシビルであったが、魔狼を上位種にした張本人であることを話した途端に目の色が変わり激情に駆られた表情になった。


「こうしてはおられません。さっさとその死刑囚を連れて行きましょう。」


「ここは大丈夫なのかよ。誰もいなくなるんだろ?」


「平気です。もともと閉鎖が決まっていましたし。」


「取り壊されたりは?」


「ここに特に思い入れはないので壊されても問題ありません。それに、今の王国にここを壊せるほどの時間と財力は持ち合わせていないと考えられますので。」


「壊す作業員と費用、ここにそれらを寄こすくらいなら戦争に注ぎ込んだほうがまし、か。」


「あら意外と顔に似合わず察しが良いのですね。」


「顔に似合わずは余計じゃない?顔には自信あるんだけど。エルフ族だし。」


「エルフ族だからなんですか?私の理想の顔立ちからはかけ離れすぎていてそこら辺の石ころと大差ありません。」


「ちょっとひどくない?オムじいさん、ちょっとひどくない?」


「ほれ、遊んでないでさっさと行くぞい。午後までもう時間がないぞ。」


オムのあとにキリルとジーナが続き、シビルが2匹を追いかけ、最後尾にエクサがどんよりした表情でついていく。


「今回は王都中央広場での公開処刑で、大々的に執り行われます。」


オムたちはシビルの言葉を聞き、広場まで急いだ。

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