第18話 転写
魔法陣を見つけてから数日後、コサックはオムからの電報を受け取り、魔狼2匹と梟と一緒に街の近くに来ていた。
オムが街のほうから歩いてやってくる。
オムと落ち合うと街から外れたところにある大きな木の下にやってきた。
「こちらにちょっと来てくれないか。」
オムがコサックを呼ぶ。
オムが指さす先の空間が何やら歪んでいるのがわかる。
コサックが真実の目を発動する前に、
「そらっ。よし。ここはワシの秘密の空間でね。内緒話はここが一番」
小さな小屋が目の前に出現した。
オムが中に入りコサックを手招く。
「さぁ、座ってくれ。電報は届いたよ。早々成果を出すなんて凄いじゃないか。コサック君。」
テーブルをはさんで向かいあうようにオムとコサックが座る。
梟はコサックの隣の椅子にとまり、魔狼たちはテーブルのそばと小屋の入り口近くに座った。
オムが顎を撫でながらコサックに話す。
「魔法陣を解析したいのだったな。転写の魔法はできるかね?」
コサックはできないと返事をした。
「そうか・・・。ぜひ見たいものじゃが。不浄の地にわしが入るのは難しいのう。この足ではな。それに転写は教えるのが難しい。コサック君は特にじゃな。魔力が乏しいからのう。そっくりそのまま写し取るのは不可能だのう。」
うーむとオムは唸った。
『この子の代わりに、わたしが覚えるのはどうだろうか。』
梟がオムに進言する。
オムが梟を見る。
「よもやストリーギに魔法を教えるとは思わなんだ。よし、じゃあまず魔力量などを見てみるぞ。少しの間じっとしておれ。」
オムが水晶玉のようなものを取り出し梟の前に置いた。
オムが座って水晶玉に手をかざす。
水晶玉が光り、光が梟を包む。
「・・・見終わったぞい。大したストリーギだの。魔力量は魔法師の大将並みにあるのう。ワシの魔法すべて教えてやれるんじゃが、数年はかかるなあ・・・。習う気はあるかね?」
『お願いしたいところだが、まずは転写だ。これができなければ、不浄の地が屋敷を飲み込んでしまっては、せっかくつかんだ糸口を失うことになる。』
「よし。お主なら転写はすぐ覚えられるはずじゃ。早速準備するぞい。」
オムが梟の前に羊皮紙など道具らしきものを次々と置いていく。
オムが白紙の羊皮紙に両手を翳し、魔法陣を展開する。
羊皮紙に魔法陣が描かれる。
魔狼たちとコサックは大人しく座っている。
「この魔法陣は、転写の魔法を魔法陣にしたものじゃ。解析の魔法と同時に転写を覚えてもらうぞい。この魔法陣を読み解き転写を覚えることができれば両方の魔法の修得終了じゃ。」
梟にオムが熱心に教えていく。
梟が魔法陣を目を光らせて見つめる。
暇になったコサックは小屋の周りを見渡した。
(街にかかっている魔法はこのおじいさんがかけているものなのだろうか。)
そうこう考えて再び梟に目を移したところ、別の白紙の羊皮紙に魔法陣が描かれはじめていた。
梟の目が強い光を発している。
羊皮紙に全く同じ魔法陣が描かれた。
『これで良いか?』
「これはまったく想像以上じゃの・・・。今まで教えてきた誰よりも覚えが早く筋がよい。」
(すごすぎじゃない?梟。)
コサックは目を白黒させて梟を見た。
魔狼たちはつまらなそうに寝そべっている。
「このストリーギに任せれば魔法陣は何とかなるじゃろて。」
「オムさんありがとう。」
「魔法陣の転写と解析が終わったらまたおいで。わしは今興奮しとる。このストリーギに魔法を教えたくてムズムズしとるでの。」
「わかりました。また伺います。」
「ところで、そのストリーギに名前はつけとるか?」
「いえ、つけていないですよ?名前をつけるのを嫌がるので。」
名前について梟が以前言っていたことをオムに伝えた。
「なるほどのう。名前があることが良いわけではないのか。だがのう、魔物は名を冠することで強くなるんじゃよ。従魔師たちが名前をつけたがるのはそういう理由じゃ。名前という魔法じゃな。不浄の地で活動するなら、少しは戦力を上げておかねばならん。みなとよく相談して検討しておくれ。」
「はい。」
コサックたちは小屋から出て早速屋敷への帰路についた。
『魔法陣のことは任せておけ。』
『うん、頼りにしているよ。』
オムはコサックたちが見えなくなるまで見送った。
「近年稀にみる逸材。絶対に手放さないようにせんとな。」
そう言って小屋の方に戻ったオムの目は、穏やかで優しい顔からは想像もつかないような、ギラギラした目をしていた。




