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第15話 学習

守衛が馬車に近づき、戻ってきた理由を商人に問う。

商人は、この街で奴隷の学習を忘れていたことを説明した。

守衛は馬車を通した。

学習などほんの一瞬で終わる行為に危険性はないと判断したのだろう。

商人は脇目も振らず文字の習得が可能な場所へと急いだ。


目的の場所に着く。


「奴隷に文字を学ばせたい。ひとつやってくれないか。」


窓が空いている小さな小屋に商人は語りかけた。

老人が窓から顔を出した。


「はいよ。覚えたいのはー、そこの子かい?」


「そうだ、あと変なことを言うが、このストリーギにも文字を学習させることは可能か?」


老人が驚いた顔をした。


「今時珍しいのう。昔流行ったもんだ。結論から言うと可能だが、梟の精神が耐えられるかどうかが問題じゃな。」


「できるならやってくれ。」


こっちへおいでとどこか優しげな顔の老人が手招きする。

白髪で長く、白い髭をたくわえ、髪と髭が一体化しているように見える。

くすんだ茶色のローブを羽織り、年季の入った杖をついており、よっこらしょと近くの椅子に腰掛けた。

コサックが小屋の中に入ると、武器の類が所狭しと置かれていた。

コサックが見回していると老人がため息をついて話た。


「戦争に駆り出されてのう。魔法師として前線で戦ってきたんじゃが、老いとともに前線で使えないと判断されてしまってのう。退役軍人の末路としてはマシなほうさ。さあ、ここに座っておくれ、縛らなければならん。」


オムが立ち上がり、コサックを拘束椅子にかけさせた。

手足と額を椅子に固定される。

梟も簀巻きにされてコサックの膝の上に乗せられた。


「それじゃあ始めるようかのう。この布で口を縛る。さあ嚙みなさい。歯をボロボロしないようにじゃ。」


口を縛ってコサックの前の椅子に腰掛けた老人は、両手をコサックに向け詠唱し、コサックの額の前と梟の嘴の前に魔法陣が展開された。

直後電撃のようなものが放たれる。

コサックと梟は電撃に痙攣する。

椅子が痙攣で揺れ、ガタガタと大きな音を出す。

魔法陣が消滅し、コサックたちの痙攣もおさまった。


「さて、生きているかの。」


老人は持っている杖でコサックと梟を小突いた。

梟がビクッと動いて鳴いた。

先に梟が目を覚ましたようだった。

ほう、と老人は手で顎の下を撫でた。

続いてコサックがブルッと震えて目を覚ました。


「早いのう。若さかのう。」


コサックは老人を見た。


「これこれ、勝手に見るのは良くない。」


老人の顔は柔和なままだ。


コサックの目は光っていた。

文字が浮かぶ。


種族  人族

種族名 フーマン

名前  オム・サピルス


(人族はフーマンって発音するのか。)


「さて、見えたかの。読めたかね?」 


「はい。でも見えるものが少ない?おじいさん、ありがとう。で、おじいさんは真実の瞳は使えますか?」


「使えるよ。魔法を使いこんでいくと、ほかの内容も見えるようになるじゃろて。」


「見ましたか?」


「何をじゃ?」


「真実の瞳で。」


コサックが自身を指さす。


「見たよ。冥土の土産に面白いものが見れたのう。世界の理とならんとしている現象に立ち向かおうとしているとはな。感心じゃ。」


「ん?こいつは何か特別な存在なのか?じいさん。」


頃合いを見計らって小屋に入ってきた商人が老人に聞く。


「そうだのう、特別だろうな。ワシがもう少し若くて無理の効く体なら、この子について行ってみたいがの。」


老人は優しい顔で答える。

商人は壁を背にして寄りかかり、足の裏を壁にあてて手を顎にあてた。


「(こいつを使って何か儲けられるか?こいつは何者かで決めるか。)おい、お前、何しにここにきた?」


「不浄の地を浄化しに。」


商人が吹き出す。


「な、んなことできるわけねーだろ。・・・真剣な目で見んな。本当にやるのか?はは、マジか?・・・マジで言ってんのか!・・・面白れえ、世の中こんな面白いやつがいんのか!媚びへつらって面白くねえ人生かと思ってたが、ここにきて運気が上がってきたぜ。俺にもその浄化の手伝いをさせろ。」


一枚噛ませろと商人はコサックに凄む。

梟がいつの間にか簀巻きから脱出していた。

商人を見る目が光っている。


『そこのうるさいやつは、嘘は言ってないようだな。』


梟はコサックに念話で伝えた。


『私も文字を覚えられた。これで情報を余すことなく把握できる。』


あまり感情に抑揚がない梟が珍しく興奮している。


「ありがとう、おじいさん。これでようやく不浄の地に向かえます。」


「不浄の地といっても、各地に大小散らばってたくさんあるが、まずはどこに行くのかな?」


「このエルヴス領から、おじいさんのいる場所から始めたいと思います。」


「よし、俺の活動範囲内だな。ここを出た後早速向かうか?」


商人が前のめりでコサックに聞いた。


「そうするよ。道案内お願いできる?」


「おう任せとけ!未来の英雄に先行投資だぜ。」


「なぜそこまで興奮してあるのか、聞いても良いかね?」


老人の問いに商人は答えた。


「俺の家族が不浄の地、ここからそう遠くないところで飲まれた。弔いをしてやりたい。商人として戦争に加担をしてしまってはいるが、戦争を指揮している王族たちにも、それに従うものたちにも、ここでの商売に辟易していたところだ。俺たちは遅かれ早かれ、戦争か不浄の地に飲まれて死ぬ。天寿を全うして死ぬなんてできやしない。そんな中不浄の地を浄化しようなんて本気で考えている大馬鹿野郎が現れたら、面白くって肩入れしたくなるじゃないかよ。長生きしてみるモンだな。」


「ほっほっ、お主もなかなか面白い男じゃな。」


老人が商人に優しい顔で答えた。


「しかし、不浄の地が神の怒りではないとすると、この世界の誰か、相当の力の持ち主が行使していることになるのう。いろいろ調べる必要があるようだ。」


今までの優しい顔から険しい顔に変わる。


「ん?じいさんも何かする気か?」


「ほっほっほっ、この老兵もお主らに感化されてしまったようだからのう。陰ながら助力するぞい。」


老人が怪しい笑みを浮かべ、また優しい顔に戻った。


「そういや自己紹介がまだだな。俺はエルフ族のエクサ・メルチャントだ。」


「ワシはオム・サピルスじゃ。」


「コサックです。」


エクサと名乗ったエルフ族の男が手を前に出した。

この世界でも握手を交わす文化があることをコサックはここで知った。

3人は固く握手を交わす。


「おうおう、商人としてできる限りのことはさせてもらうぜ!コサック!オムじいさん!」


「それじゃあ早速頼まれてくれんかな。」


オムと名乗った人族の老人は、羊皮紙を広げ魔法陣を展開した。

文字が刻まれていく。

ぽかんと見ているコサックに気が付き魔法陣を一旦消滅させた。


「不思議そうにみておるの。これは念写と呼ばれる魔法じゃ。手で書くよりも早くて正確で綺麗じゃからな。」


再び羊皮紙にオムは魔法陣を展開した。程なくして念写が終わり、羊皮紙をエクサに渡した。


「ヘルト・イダルツという者がおる。フーマンの王国騎士団に所属している、かなりの実力者じゃ。この書面をそやつに届けておくれ。あと、フィロソの石とザルーフの石は手に入るかな?」


「了解。書面は必ず届けるぜ。石はなかなか出回らない代物だか、手に入れてみせるさ。依頼必ず成し遂げてみせるぜ。」


エクサは馬車の御者台に駆け上る。


「善は急げだ、コサック、すぐ出るぜ。乗りな。」


コサックは梟を抱えて荷台に乗り込んだ。


「達者でな。朗報を待っとるぞ。」


オムは小屋の窓から手を振る。


(この世界でも別れの時は手を振るのか。)


コサックはそう思いながらオムに手を振った。


街の入り口に戻ってきて守衛に学者が終わったことをエクサが告げる。

馬車が街を出た。

街から少し離れたところで魔狼たちと合流する。


「味方ならこんなに安心できることはねえよなー。」


魔狼が取り囲みながら並走している荷馬車は、領土を南下している。


「今日はここまでだな。ここで野営をする。」


エクサが野営の準備を始めた。

魔狼たちは周囲を警戒してる。


「結界結界ーっと、あったあった。結界を張るぜ。みんな結界の中に入ってくれ。」


エクサが香炉のようなものを掲げると香炉を中心に地面に魔法陣が描かれる。

魔法陣が8角形になり8辺に沿って光の壁が出現する。

魔法陣はそのまま地面に水平に上がって行き、馬車より少し高い位置で止まって光って消えた。


「よし、これで襲撃も防げるし火を起こしていることもわからない。さあ飯にしようか。」


コサックはこの世界に来て初めて温かい料理を堪能した。

涙とため息が出ていた。

魔狼たちも火を通した肉を頬張っている。


「そんなにうまかったか。良かったな。明日で目的地に着く。ここより南にある辺境伯邸跡地でコサックを下ろすことになるが、大丈夫か?」


エクサがコサックに聞いた。


「これ、辺境伯の屋敷で見つけた。」


コサックが食べながらエクサに羊皮紙を渡す。

エクサは羊皮紙の地図を見た。


「・・・これは、コサック。あそこには厄介な化け猫が住み着いるはずなんだかな。」


「出たよ、猫。」


「まあいいか。地図の文字はもうわかるな。屋敷を東に行くと不浄の地だ。不浄の地の中に、俺と会った街と同じくらいの規模の街があった。俺はそこの出身さ。拠点に屋敷を使うといい。誰もこんなところ好き好んで来やしないし、文句を言う奴もいないだろ。で、何か作戦があるのか?」


「ないけど、とりあえず不浄の地に入って浄化の手がかりを探すよ。」


「そうか、必要なものがあったらいつでも俺を頼れよ。ん?何やってんだお前ら揃いも揃って。」


コサックは流木に祈りを捧げていることをエクサに伝えた。


「随分とご熱心だな。神って誰に祈ってんだ?クレイブ?天地創造の神に祈って何かいいことあるのか?」


「あるよ。」


「そうか、じゃあ俺もいっちょやってみっか。」


全員で祈りを捧げた。

コサックはこの日初めて獣以外と共に就寝した。

ストリーギ:魔梟。フクロウ科の学名Strigiformesを参考にしました。


フーマン:人族のこと。英語humanを参考にしました。


オム・サピルス:人族の魔法師の老人。ヒトの学名Homo sapiensを参考にしました。


エクサ・メルチャント:エルフ族の商人。英語のexiciteとmerchantを参考にしました。


ヘルト・イダルツ:人族。ヒトの派生の学名Homo sapiens idaltuを参考にしました。

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