第14話 商人
コサックたちは早朝に屋敷から北を目指して出発した。
上空にいる梟が周辺を確認しているが、町らしきものは見えてこない。
北上して数日が過ぎたある日、梟がそれらしきものを見つけた。
梟が先行して様子を見に行く。
魔狼たちは速度を遅めた。
魔狼の襲撃と思われて迎撃されないよう、慎重に行動する。
梟が帰ってきた。
『厳重な結界魔法が張り巡らされていて、中を探ることはもちろん、近づくことも不可能だった。迷彩の魔法も高度なものだ。規模もそれなりにあるようだ。入り口は二つ。大と小がある。』
『人が多いのは大きい方か?』
梟がそうだと肯定する。
『大きな方が頻繁に出入りしていた。街の窓口は大きいほうなのだろう。』
梟の念話を聞いてコサックが魔狼たちに言う。
『大きな入り口から梟と一緒に入る。』
母親の魔狼が心配そうにコサックを見ているが、コサックは笑顔で大丈夫と言った。
歩いて入り口近くまで行き、魔狼はここまでと、無言で頷き手を上げた。
魔狼たちはコサックが手を挙げるのを確認し散開した。
梟を肩にとめたコサックが、真実の瞳を使い入り口に近づいて行く。
ちょうど馬車が出てくるところだったようだ。
守衛が御者台にいる男に話しかけた。
何を言っているかは遠くてわからないが、商人は守衛にへつらうような顔をして言葉を交わしている。
馬車がこちらに向かって動き出す。
すれ違いざま御者台の男がコサックを一瞥すると、何事もなかったように前を向き馬車の速度を上げる。
(荷馬車のようだな。商人か?もしかしたら羊皮紙について知っているかもしれない。)
御者台の男は羊毛であつらえたつば広の帽子を深々と被り、耳は人族のそれより長く尖っている。
脛を覆うくらいの編み上げのブーツを履いており、動きやすそうな小綺麗にまとめた服装に身を包んでいる。
コサックが走って御者台に近づき男に声をかけた。
「文字を覚えられるもの、知らない?」
男は黙ったまま前を向き、さらに速度を上げた。
コサックは御者台の横を走ってついて行く。
梟は、荷馬車をコサックが追っていることを魔狼たちに伝えるため、肩から飛び立つ。
男は黙ったまま荷馬車を最高速度で走らせた。
それでもコサックはついて行く。
男の額には汗がにじんでいた。
5歳かそこらの子供が何食わぬ顔をして馬車に走ってついてくる。
只者ではないことを感じていたが話しかける気もなかった。
孤児であることが見た目より明らかであった。
孤児の元に梟が帰ってきた。
次の瞬間、馬が急停止して前足をばたつかせながら後ろ足で立つ。
荷馬車は魔狼に取り囲まれた。
「ねえ、文字を覚えられるもの、知らない?」
男は以上ない恐怖で顔を引き攣らせている。
取り囲んで唸っている魔狼がこの子供の仲間であることを悟った。
「アルトゥムカニスが、こんなに!い、いのち、だけはっ!」
「知らない?」
「知ってる!今は持っていない!」
「ところでおじさん、商人さん?」
「そ、そうだ!う、嘘はついていない!無いものはない!出回らないんだ!需要がない!街の魔法師に頼めばすぐ出来る!金にもならないものは扱わないだろ!」
「僕、身分証明ないんだよね、身なりを見てわかるよね。金もない。そんな僕でも知識は欲しいんだ。ねえ、貰ってきてよ。それか、一緒にあそこに入ってよ。(脅しとかするつもりなかったのに成り行きでなっちゃったよ。あーあどうしよう、これ。)」
「わかった!連れて入る!持ち出すのは、怪しまれてこの街で商売が立ち行かなくなるのはごめんだ!」
「ふふふ、ありがとう、おじさん。じゃあ、よろしく。」
荷馬車にコサックが乗り込む。
魔狼たちはコサックが乗り込んだのを見計らって四方に散った。
(くそ!何だってこんな目に。しけた街からやっと出られたと思ったのに!無視して速度を上げたのが間違いだったか、くそ!)
商人は入り口に向かうため馬車の方向を転換した。
「念のためだが、お前は俺の小間使いの奴隷として連れて行くことにする。皆らがそれだし怪しまれることはないだろう。おわったら解放してくれよな。」
落ち着きを取り戻し商人はコサックに言った。
「それから、この子にも文字を覚えさせるから。よろしくね。」
コサックが梟を指さす。
商人は帽子を取り頭を抱えた。
短く散切りにされた金髪が、風に靡いていた。




