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第111話 心の拠り所

イブリスと魔狼たちはシビルのもとを訪ねていた。


「あらソフィアお母様にマクシムお父様じゃない。あとー、どちら様だったかしら?」


「酷いなシビルさん。イブリスだよ、コサック君の友達の。」


「前世で私の旦那に酷いことをした者のことなど存じ上げませんが。」


「う、それはさ、ほら、狂ってたからさ、僕。」


「もう足は洗ったのかしら?」


「うん、今はコサック君のために尽力してるよ?でも僕が魔王になる野望は捨ててないんだ。できればコサック君も僕と一緒にいてくれると嬉しいんだけどな。」


はあ、とひとつため息をつく。


「それで、今日は何のようかしら?」


『ティーヴで浄化を進める。穢れの魔鳥と戦う。そのための何かが欲しい。』


ソフィアが簡潔にシビルに切り出した。

シビルはソフィアの言葉を聞いて顔色が怒りに近い色になる。


「それは」


『我々だけで浄化を行う。坊やには戦わせない。神気が使える何かが欲しい。戦うために。』


ベッドの上で枕を腰に当てて座っていたシビルが、ベッドから両足を出して降りようとしている。

よいしょ、とお腹をさすりながら立ち上がり、ソフィアの前で屈むとそのまま抱きついた。


『お母様、私はあなたに戦ってほしくないの。大切な人の母親だから。だから何も作りたくない。』


『これは坊やの願いでもある。力が欲しい。坊やと一緒に暮らすために。』


シビルはソフィアに抱きついたまま離れない。

ソフィアはじっと待った。


『んもう、お母様ったら強情なんだから。こんなこと、いつかは言われるんじゃないかと思って作ったのがあるんですよ。でも、私のさっきの思いは本心です。コサックを育て上げたお母様が浄化の前線に出るなんて私は反対です。だから、お父様!お母様に何かあったら私、許しませんからね!』


キッとマクシムを睨みつけたシビルの眼光はとても鋭く、だがマクシムは一切動じることはなかった。


『何を言っている。何かあるわけがない。ソフィアは回復の魔法を使える数少ない存在だぞ。イブリスと同じく境界の外で支援をさせるに決まっているだろう。境界を越えるのはこの3匹だけだ。』


マクシムはミハイル、キリルと順に鼻を向けた。

守るべきものは何か、自分の役割は、マクシムは考えるまでもなくその答えをシビルにぶつける。


『頼もしいことです、お父様。ですがアクシピトリは以前戦った時よりも強く大きくなっていると思いますよ。それに翼もないのにどう戦うというのでしょうか。』


『ウィリスの空を飛ぶアレを使えば良いだろう。』


『ああ、アレ、ですか・・・。私は二度と乗りたくないものですね。』


サヴィーヌの後ろにしがみついた時のことを思い出し、同行したウェラの陰でミハイルが震えているのを見たシビルがクスッと笑う。

文句を言いつつも浄化に向けて一生懸命になっていたことを思い出し、あの時の情熱が今も続いていることに驚き、お腹をさする。

もしかしたらもうあの時から、シビルは小さなコサックの姿を思い浮かべた。


『母の顔だな、シビル。坊やの子、任せるぞ。』


シビルは強く、ソフィアを抱きしめた。


『ええ、任せてください。元気な子を必ず。私の作ったものは屋敷の地下に全て置いてあります。探してみてください。』


『わかった。イブリス、行くぞ。』


『うん、わかったよ。うーん、あれかなあ、使い方分からなかった物がいっぱいあったから。真実の瞳の熟練が足りないのかなぁ。シビルさんの才能に嫉妬しちゃうよなぁ。あ、そうそう、なんかティーヴ危ないらしいから、もしかしたらこっちにエレンさんとマギさん来るかもって。』


『そう、わかったわ。バーリとシャーロットに伝えておくわ。』


イブリスを先頭にシビルの部屋から出ていった。

シビルはベッドに戻り、天井を見上げる。


「師匠、どうか、あの子達を。絶っっっ対、守りなさいよ!!」


拳を天に向けた。



ランドールは2名に追いつき、ウィリスから倉庫の鍵を受け取った。


「貴重なものだ。壊す、わけはないな。ランドールなら。ヘルトとこれから作戦を立てる。フロテラにも来るよう伝えてくれるか?」


「わかりました。ありがとうございます。」


丁寧にお辞儀をし、倉庫に向かう道すがら、フロテラとリズリーが手を繋いで廊下を歩いてくるのが見えた。

ランドールは2名に駆け寄りウィリスが呼んでいたことを伝え、両者駆けてすれ違った。

リズリーと一緒にいるフロテラの姿が頼もしく、ランドールは自然と笑みがこぼれる。

倉庫にたどり着き鍵を開けた。

外から差し込む光が綺麗に並べられた武具を照らす。

ランドールが一振りの剣を手に取った。

まだ子どもであるランドールにその剣は重く、両手でも扱うことは難しい。


神気の剣

付与 神気

効果 使用者の意思に呼応して神気を纏う

備考 神気を纏うと白く光る

   蓄えられた神気がなくなると崩れる


ランドールは両手で持ち上げた剣を目を光らせて見た。

剣を戻し、ひとつひとつ、並べられた武具を見てここにあるもの全て神気武具であることを確認した。

これほどの数を揃えていたのはコサックに何かあった時のことを予期してのことなのか、ウィリスは何を思って集めていたのかランドールは知るよしもないが、ただ、感謝をしていた。

自分の生まれ育ったこの領に、転生しても同じ場所に生まれ落ちたこの領に、ランドールは愛着を感じており、同じティーヴァが破壊の限りを尽くそうとしているこの領を、他領で生まれた部外者であるフーマンが自分の故郷を救おうとしている。

なんとも滑稽で、なんと勇敢なことか。

真実の瞳の熟練が足らず武具の魔法陣の作者まではわからなかったが、元を辿ればあの辺境伯の屋敷に着くのだろうと想像する。

繋がっている。

そして自分もその繋がりに一部になろうとしている。

ランドールはこの繋がりをこの上ない誉に感じて仕方がなかった。

自然と跪き、気がつけばランドールは中心で祈りを捧げていた。


(どうか、この戦いで誰も没することがありませんように、お守りください。)



「ランス殿下、それをどちらへ?」


「必要としている場所に寄贈する。フマトは、フマニテにはもうこの武具は必要ない。必要とするようなことがあってはならない。」


「ええ、それは重々承知しております。財産管理のため、せめてどこへ寄贈されるのかお教えいただけませんか?」


「ティーヴのタフト卿だ。」


「タフト、ですか。かしこまりました。ありがとうございます。今お持ちの装備のみではありませんよね?殿下の装備はまだ兵舎にもございます。」


ランスは内密に持ち出すつもりではあったが、どうしても目立つ装飾とその数に、通りかかった文官に見つかってしまい、面倒だと感じながらも嘘をつく必要がないと真摯に対応をしていた。


「ランス。」


「は、陛下!」


最も見つかりたくない相手に見つかってしまった。


「ティーヴに寄贈する、そう申しておったな。」


武具を持ったままのランスと文官がひれ伏す。


「は、ティーヴにおける穢れ、アクシピトリを討つとの情報が入りました。聞けば私と齢を同じくする少年少女も討伐に参加すると。であればこの武具を寄贈し、ティーヴに恩を売り、フマニテとの和平をより強固にいたしたいと存じます。」


「・・・よもや、その討伐に参じるつもりではなかろうな?」


「はい。寄贈だけでなく、私めも討伐に向かいます。」


ランスが顔を上げ、真っ直ぐフマト王の目を視線で貫いた。

王はランスの想いを受け止める。


「リージオン・スアヴィに所縁のある者たちか?」


「はい!」


確認するかのように、王がランスに鋭い眼光を向ける。


「パンテラ討伐の際に上がった光、話しかける魂、眼前で繰り広げられる信じがたい光景。前世の記憶を持ち生まれる者があってもおかしくないと、あの時初めて理解した。それまでお前を信じられず、余は避けていたのかもしれない。今まですまなかった。お前の天命は、ここフマニテだけではない、世界の浄化に寄与することにあるのだな。ならばどうしてその歩を止められようか。和平などそのような外交案件はそこにおる文官共に任せておけ。ランス、その力を存分に発揮し、フマニテにランスあり、とその名を轟かせてくるのだ。よいな!」


「は!ありがとうございます。」


勢いよく立ち上がり、目に涙を浮かべながら王を見る。


「父上!行ってまいります!」


更なる武具を求め、ランスは踵を返して兵舎へと向かった。


「そこの者。」


「はっ。」


「ランスを手伝ってやれ。」


「はっ。仰せのままに!」


王はランスと反対側に歩き去る。

王が見えなくなるまで跪いていた文官が立ち上がった。


「この領土は安泰だな。陛下が崩御されるようなことがあったとしても、後にランス殿下が控えておいでだ。今、私ができることは!」


文官はランスの後を追いかけた。

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