第105話 訃報
泣きつかれて寝てしまったシビルをベッドに寝かせる。
今度はウィリスの屋敷へと向かうが、ここでパトリアルチ家とシャーロットとその子どもたちは残ることとなった。
シビルの身を案じたバーリの選択だった。
だがリズリーはランスと一緒にタフトへと行きたがったので、パトリアルチ家の代表として同行することとなった。
ヘルトが転移石を使い、タフトに飛ぶ。
着くとウィリスとサヴィーヌが待っていた。
「こっちだ。」
ウィリスの後に続き、エレンとマギローブのいる部屋へと通された。
元気にもりもり食事を平らげている2名がいた。
「エレン、マギローブ。」
「なんだい?辛気臭い顔して。いい顔が台無しだよ、お父さん。」
エレンがお腹をさすりながらコサックに言った。
「本当にどうした?何かあったか?」
マギローブの声を皮切りに、オムが死んだことを伝えた。
「そうかい。いっちまったかい。いろいろ教えてもらったからね。寂しくなるよ。あたしはどうも、別れに立ち会うね。」
哀愁の表情を浮かべるエレンの手をコサックは握った。
「ありがとう。慰めてくれるのかい?嬉しいね。あたしはね、大丈夫だよ。コサックがこの世界に生きる意味を与えてくれたから。もちろんあたしもいずれ死ぬだろう。どんな最期かは想像もつかないけどね。いろんな種族との出会いと別れは、どこかで必ずあるもんさ。いつまでもくよくよしてられないよ。お腹の子に悪いからね。それに、じいさんが居なくなったのなら、屋敷の結界は無くなっているだろうね。ただここを動けない。助産師とかいったかい?そいつがうるさいんだ。」
「エレンの言う通りだ、コサック。ずっと泣いてはいられない。まだ不浄の地も残っている。あと少しのところまできているんだ。オムが次に生を受けた時には、平和な世界となっていることを我々がその平和をもたらそう。」
(あれだけオムと一緒にいる時間が長かった2名なだけあり、もうこういうことが起きた時の話もしてあったのだろう。強い。)
コサックは思った。
「あたしらがこの子らを産むまで、待っていてくれないかい?産んだら、派手に暴れてやろうじゃないか。」
「戦力に不安があるなら、我々の復帰を待て。男とラベリーだけではこちらが不安だ。」
「わかった、ありがとう。エレン、マギローブ。」
「言葉にするくらいなら、抱きしめてくれた方がよっぽど沁みるよ。」
「あはは、そうだね。」
コサックはエレンを優しく包み、顔が近づいたところをエレンが唇を奪う。
散々堪能したエレンは唇を手で拭い、ご馳走様、と言った。
マギローブにコサックが両腕を回すと、エレンへの当てつけのように濃厚に唇を絡めた。
一緒に来ている者が気恥しくなるほど、音をたてて吸い付いている。
マリッドが両手を開いて目を隠しながら、濃厚な口づけを見て顔を赤らめている。
栄養補給終了、とマギローブが離れ一言呟いた。
「それじゃあ、戻るよ。屋敷を空けておくわけにはいかないから。また来るから。」
「ああ、待っているよ。」
「またな、コサック。」
エレンとマギローブの部屋から出ると、ウィリスが話をしたいとコサックたちを食事に誘った。
エクサとヘルトは、家族のところに戻りたいとウィリスに告げ、傷心であることを理解しているウィリスは快く2名を送った。
イブリス、リズリー、ランス、マリッドとその侍女は、フロテラのところに行くといって足早に去っていった。
コサックとラベリーが残る。
ウィリスとサヴィーヌは2名を連れ、暖炉のある部屋に行き、中央に白いテーブルかけを敷いた長テーブルをウィリスと対面になるように座った。
「非常に残念でならない。私は、彼に憧れていたから、余計にな。」
「ええ、残念です。この世界で、文字の読み書きを教えてもらったのがオムさんでした。オムさんが居なければ、今頃はまだ浄化すらできていなかったかもしれません。」
「出会いと別れは、いつも突然だな。今日のこういう日くらいは、私に付き合ってくれ。畏まらなくてもいい。故人を偲ぶ、友人として、だ。」
昼すぎのあたたかな秋の日に、ウィリスたちは心行くまで、食事を会話を弾ませた。
―
何時間話しただろうか。
外はもうすっかり暗くなっている。
ウィリスももう限界なのか酔いつぶれて寝てしまいそうだった。
使用人がウィリスをたしなめ、自室に戻るように促し、ウィリスは素直に従った。
サヴィーヌも、お開きにしましょう、と言って泊るかどうかコサックに尋ねたが、コサックは帰宅を選択した。
イブリスたちはすでに帰ったと使用人から告げられ、ちゃんと帰れたか少し不安に思った。
寂しそうにしていたサヴィーヌに挨拶をして、コサックたちは屋敷へと帰ってきた。
コサックとラベリーは、そのまま書斎へと連れ立って入っていった。
―
ヘルトの稽古と屋敷に内の走り込み、お祈り、3名の見舞いを毎日欠かさず行った。
謎の多い神気がどのように自分に蓄積していくのか、
冬も間近になったころ、ラベリーが妊娠した。
フーマンとエルフは相性が悪く、子をなすことは奇跡に近いとされていた。
その奇跡が、ラベリーに起こったのだ。
バーリとシャーロットが妊娠と分かった時に歓喜の声をあげ、シビルと一緒に面倒をみると張り切っていた。
シビルのお腹はだいぶ大きくなってきていたが、まだつわりがあり、食事も流動食で栄養を取っていた。
「コサックのキスが食事より栄養価が高いの。もっといいのは、わかるわよねコサック。濃厚なのよ。」
バーリとシャーロットは、どうしてシビルがそのような要求をするのか、ただの変態ではなかろうか、頭を悩ませていたが、シビルの容体が安定し母子ともに健康でいられるならと了承した。
シビルに倣ってラベリーも要求し、バーリは頭を抱え、シャーロットはエクサに要求した。
エレンとマギローブも同じようにお腹が膨らみ、マギローブは胎生であることがここで判明した。
この2名もシビルと心がつながっているのか、全く同じ要求をして、助産師を困らせていた。
飲ませることになったのは言うまでもない。
エレンとマギローブも、フーマンと同じ妊娠期間ではないか、とお腹の出具合から助産師は推察していた。
次の春か夏に、出産となるだろう。
見舞いが4名になった頃、コサックの日課に瞑想を加えた。
日課といえば、リズリーとイブリスが屋敷に遊びに来ては、その足でフロテラのもとに向かっていく。
ランスとマリッドもイブリスたちと一緒になってフロテラのところに飛んでいる。
何を企んでいるのか、イブリスやランスにコサックが尋ねても、秘密ぅ、この件は他言無用なのです、と教えてはくれなかった。
王子であるランスは忙しいのではないか、と心配したが、パンテラ討伐によりフマニテ全土の浄化が終わり、王が執務に追われている間に各国の見聞を広めたいと王に進言したところ、了承を得られたという。
リズリーはイブリスに転移石を受け取っており、自由に屋敷と行き来している。
バーリはもちろんこのことを知っており、止めても聞かないからと諦めていた。
それからしばらくして、タフト家を中心にティーヴを揺るがす出来事が起こった。




