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第104話 見舞い

「これは、すごいな。」


フマト王が、不浄の地が緑豊かになっていく光景を見て感嘆の声を漏らす。

ランスも初めて見る光景を目の当たりにして絶句している。

神の息吹が収まると、コサックたちはランスの横を通り過ぎ、王の横も通り過ぎて、ここまで乗ってきた馬の方へと無言で歩いていく。


「あ、ちょっと、待って。」


イブリスがコサックたちの後を追い、イブリスの声につられるようにランスも走っていた。


「どこいくの?」


コサックたちは立ち止まり振り向く。


「馬を返したら、屋敷に戻るよ。伝えなきゃいけないから。」


「シビルさんと、あと可愛い弟子って言ってたね。そんな急ぐの?」


「うん。これ以上ここにいたら、また泣いてしまうかもしれないから。」


イブリスが黙り込んだ。

それは自分も同じ気持ちだったからだ。

話を聞いていたランスも、何も言わずに俯いている。


「それじゃあ。」


踵を返して歩き出した。


「待って!僕も行く!」


「!!私も!ついて行って構わないだろうか。」


コサックがまた振り向くと、いいよ、と言うように頷いた。

ランスがコサックたちに追いつくため走った。

馬に乗り、速足でフマトへと戻る。

行きはゆっくりだったが、帰りのこの速足なら夕暮れ前にはフマトに着くだろう。

馬で走り始めて少し経った後、後ろから1台の馬車が迫ってくる。

ランスの横につけると馬車の窓が開いた。


「ランス様!」


マリッドだった。


「ランス様!どこかに向かわれるのですね?私もご一緒してよろしいですか?」


馬車の走る音にかき消されながらも、大きな声で話すマリッドに、ランスは微笑んだ。



「いいのか?それで。」


「構わんさ。記憶など持っていても仕方ない。新しく始めるのに邪魔なだけじゃよ。せっかく全ての罪をここで洗い流せるんじゃ。記憶があったら、それもずっと覚えていることになるじゃろ。嫌じゃよそんなの。もうオム・サピルスは死んだんじゃ。」


「わかった。すぐに転生するか?」


「もう少し、お前さんといたらコサックのこと、見ていられるか?」


「ああ、構わない。だか特別だ。本来ならすぐに転生させる。さて、一緒に見るとしようか。」


「ありがとうよ。クレイブ。」



フマトに着き厩にいる兵に馬を引き取ってもらい、エクサが転移石を握りしめた。

コサックたちが屋敷に戻ってくる。

イブリス、ランス、マリッドとその侍女を連れて。

ヘルトとエクサはすぐに自宅に戻りたいと言ったので、後でシビルやエレン、マギローブに会いに行くときに声をかけることを約束し、別れた。

誰もいなくなった屋敷がとても広く、寂しい場所だとコサックは感じた。

もうオムはいない。

一緒に食事をした食堂、地下の研究室、石が山積みのオムの部屋。

オムの話しかける声が聞こえてきそうな気がした。

部屋を巡るコサックに、黙ってついてくるラベリーたち。

食堂に戻って、椅子に腰をかけた。


「ラベリー、そばにいてくれてありがとう。」


ラベリーは何も言わずに、コサックを背後から抱きしめた。

コサックはその温もりがどこにも行かないよう、ラベリーの腕も掴んで、泣いた。

イブリスは地下室に用があると言って食堂を出る。

ランスも自分のいた不浄の地を確かめると言って、マリッドを連れて屋敷の外へと出て行った。

コサックとラベリーは食堂を出て書斎へと足を運んだ。

部屋に入るなり、コサックがラベリーを求めて、ラベリーはそれを許す。

何度も、何度も、悲しい出来事を肌を重ねて塗り替えるように、快楽に溺れていった。

そのまま朝を迎える。

小さな寝息を立てるコサックの額にラベリーが優しくキスをする。

服を着て書斎を出て、屋敷の様子を伺う。

ランスとマリッドは、マリッドの前世の記憶で自分の部屋でランスと侍女とともに夜を過ごしたようだ。

地下室の扉を開けると、研究資料などを熱心に目を通しているイブリスの姿があった。

玄関ホールに向かう。


「ラベリー、おはよう。」


上からコサックの声がして、ラベリーは振り返った。

コサックが階段を降りてきてラベリーに近づき、そのままキスを交わす。


「ありがとう、ラベリー。」


もう一度、濃厚なキスを交わした。


「まずはシビルさんのところに行こうと思う。」


「わかった。私はヘルトさんを呼んでくるわね。コサックはエクサさんのところをお願い。」


「ふふ。」


「どうしたの?」


「俺って、言わなくなったんだね。」


「もう。結構前よ、使わないようにしたの。だって、母親が俺っておかしいでしょ?まだ母親にはなれてないけど。でもコサックの奥さんだから、やっぱり俺はおかしいわよね。」


うふふと笑ってコサックの腕に抱きつく。


「朝から仲良しだね。」


目が据わっているイブリスが廊下の奥から出てきた。


「ここ、僕も使っていい?面白いものがいっぱいあるから。」


もともとはイブリスことレボルトの研究施設でもあった場所であり、それを拒む理由はコサックにはない。


「いいよ。移動は。」


「オム先生の部屋にあった大量の未登録の転移石、あれ使っていい?僕も登録できるんだ。」


「それなら構わないよ。どんどん使って。あ、でも部屋の中に登録されるとびっくりするから、この屋敷は中庭の登録にしてほしい。」


「わかった、ありがとね。存分に使わせてもらうよ。ランスにも渡していいかな?」


「構わない。・・・。」


コサックが上を見上げる。


「どうしたの?コサック。天井なんか見て。」


新しい風が吹いている、そうコサックは感じた。


「コサック、シビルさんのところに行く時は、僕も呼んでね。」


そう言ってイブリスはオムの部屋へとかけて行った。


「ラベリー、また後でね。」


「うん、行ってきます。」


コサックはエクサ宅へ、ラベリーはヘルトのもとへ、それぞれ転移石を使って呼びに行く。

コサックが到着すると、エクサが子どもたちと戯れていた。

コサックを見ると、真面目な表情になり、シャーロットを呼びに行く。

シャーロットが出てくるなりコサックを抱きしめた。

メルチャント家全員で向かうこととなり、シャリスはコサックと手を繋いで屋敷へと転移する。

一方ラベリーは、ヘルトを呼びにウィリスの屋敷に転移すると、たまたま中庭にウィリスがいたため、ことの顛末をウィリスに伝えた。

ウィリスは目を瞑り、ヘルトならこの奥の部屋に、と場所をラベリーに教えて急いで向かうように伝える。

1人中庭に佇むウィリス。


「今日は、雨でも、降っているのか?」


空を仰いだウィリスの頬に涙が伝う。

ラベリーは教えられた部屋をノックしヘルトを呼んだ。

ヘルトは読んでいた本を閉じて、屋敷に向かおう、と一言だけラベリーに告げる。

屋敷にはコサックよりも先にラベリーが戻り、地下室に赴きイブリスを呼ぶ。

イブリスが出てくると、マリッド、旧辺境伯令嬢の部屋のいる部屋に行き、マリッドとランスを呼んだ。

玄関ホールに戻ってくるとコサックたちが転移してきたのが見えた。


「すぐ、パトリアルチ家に行きます。」


だいぶ大所帯となったが、パトリアルチ家に転移した。

庭に突然転移してきた大所帯にバーリは驚いていたが、事情を話し、シビルに会いにきたことを伝える。

バーリはリザルを呼び、シビルの元へと案内をした。

セルヴェは兵舎に行っており不在であった。

コサックがシビルのいる部屋の扉を軽く叩き、入ることを扉越しに伝えると、シビルが中から飛び出してきた。


「コサック。会いたくて仕方がなかったの。でも、何でこんなにいるのかしら?」


まだお腹は小さいが、つわりがひどいのだろう、げっそりとした顔をしているシビルに、真っ直ぐコサックはオムの死亡を伝えた。


「・・・オム先生の最期にしては、なかなか良かったのでは?」


「え?」


「私は大丈夫よコサック。みんなを連れて私がどうにかならないようにしてくれたんだろうけど、このくらいじゃ何ともないわ。それに、オム先生!見てるんでしょ?!そこから覗きですか?まったく、そっちに行ってもやること変わらないんだから!私はコサックがいれば大丈夫です。ですから、安らかに、やずらがに!」


シビルの本音が嗚咽に変わる。

ベッドに伏して泣きじゃくるシビルをコサックは優しく背中を撫で、振り返り抱き着いてきたシビルを抱きとめた。

コサックの肩に顔をうずめて泣いているシビルを見て、その場にいるものの涙を誘う。

子どもたちは何事かと、不思議そうに、シビルとコサックを眺めていた。

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