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第101話 転生先

コンコンと扉を叩くイブリス。

ここに来るまでまた、使用人や巡回の兵士とすれ違うたびに悶着があり、なんとか切り抜けてきた。


「入ってもよろしいですか?殿下。」


「イブリスか、構わん、入れ。」


中の声に従い扉を開けて部屋の中に入った。


「殿下、ご機嫌麗しゅう。」


「そういうのやめろ、レボルト。」


「だからその名前で呼ぶなって、イブリスだよ。」


「みなさん、ご無沙汰しております。元スアヴィで、今はランスの名を賜りました。コサック君、いや、君の方が今は年上か。コサックさん、救ってくれてありがとうございました。」


元調査騎士団のスアヴィが輪廻転生した先は現フマト王の第一子であった。

立て続けに第二子の王女、第三子も女と子宝に恵まれ、現フマト王は子孫繁栄の象徴としても国民から支持を集めている。

王女たちに前世の記憶はなく、王子だけがあるところ、辺境伯の屋敷近くで浄化されたものはほぼ前世の記憶を持って、この世界に生を受けたものが多いようだ。

もちろん、クレイブに出会った記憶もランスにはあり、毎晩欠かさず、使用人たちを巻き込んで祈りを捧げていると言う。

短く整えた金髪に齢10ながらも精悍な顔立ち、背丈は年相応だが姿勢が良く、大きな体をしているように錯覚する。

イブリスとは正反対の容姿だ。


「コサックさん。長い眠りについたと聞いた時は冷や汗をかきました。あなたが目覚めなければ、この世界はどうなっていたことか。今回の遠征はあの声の主が送り込んできた刺客と私は考えています。各領で蔓延る連中もそうでしょう。」


ランスは一呼吸置いて続けた。


「パンテラの調査報告ですが、やつは自分の骨、肋骨などを鋭利に尖らせて串刺しにすると言うものがあります。これまでのフィルシズとの特異点でもあります。フィルシズは、死ぬことはなくても体の一部が欠損すると、欠損した部分は元には戻りませんでした。ですが、やつは骨を伸ばした後、収納するのに皮膚などが再生します。おそらく再生の魔法をかけられているか、自身でかけているか、と考えられます。魔法、フィルシズは魔法が使えないはずです。ですがやつは使えるとなると、これも通常とは違うところです。先程骨で攻撃すると言いましたが、奴の体以上に骨が伸びるのです。これは骨を延長させる魔法、私では土魔法など物質の扱いに長けた属性の魔法で一瞬で骨を伸ばしているものと考えています。また、フィルシズは不浄地から出られませんが、半身ほど出ることができ、更に攻撃を仕掛けられることも、大きな違いです。再生と魔法の行使と外に出る、これが特異点です。ちなみにですが、攻撃方法はいくつかあります。骨を伸ばす、噛みつく、爪撃を仕掛けてきますが、遠距離の攻撃魔法は今ところ報告はありません。」


「再生とは、厄介じゃのう。しかしこの再生、パンテラに限ったことではなく、他の刺客たちにも備わっておるようじゃな。」


「ああ、パンテラも見たが、ドワーフのドラゴン、アクシピトリ、どいつも再生を備えていやがったぜ。獣人島は行っていないが、同じだろうな。」


オムとエクサが唸る。

せっかく神気で攻撃し、腕や足を切り落としても、再生してしまうことになる。


「あの、フィルシズを取り込んで再生しているのではないでしょうか?」


ラベリーが唐突に話し始めた。


「以前、エクサさんと一緒にパンテラの近くにある不浄の地を浄化した時、たまたま現れてエクサさんが攻撃をして足を飛ばしたのですが、再生していました。再生するときに、パンテラの足元、地についている足下がぬるぬると動いていて、ぬるぬるが止まったときに足が再生しました。」


「それ本当か?!俺は無事に切り抜けることだけを考えていたからそこまで見ていなかったぜ。」


「だとすればやつの体を刻んでいけばいずれ、その地のフィルシズが底を尽きるだろう。魔法で再生しているという線も捨てずに、皆で協力して手足を飛ばして見るのはどうだろうか。無闇に攻撃を仕掛けるより、こちらの消耗も少なくて済みそうだ。」


ヘルトが喋りながら顎に手を当てて考え込む。


「ええ、今回の遠征は討伐できるまで戻らないと、陛下は仰っていますので。作戦は多い方が良いと思いますので、この情報を陛下に伝えてみます。」


「お手柄じゃな。ラベリー。」


えへへ、とラベリーは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「やっぱり、来てよかったでしょ?ランスも、連れてきてよかったね。」


イブリスは楽しそうに、ぶかぶかの制服で口を覆いながらクスクスと笑っている。


「これから私は陛下のところに行きます。出発の時間も間も無くですので、皆さんは集合場所である騎士団の兵舎前までお越しください。」


ランスが軽くお辞儀をして、先に部屋を出て行ってしまった。

イブリスが部屋を見渡し、物色しているようだ。


「特に変わったものは置いてないや。」


何度もここに来たことがあるのだろう。

イブリスの好奇心は途切れ、早くここを出たいとうずうずしているようだ。


「丁寧な口調で、親と子でここまで違うものでしょうか。ランス殿下は好感が持てます。」


両者を頭に思い浮かべているのか、落胆した様子のラベリーがランスの出て行った扉を見つめた。


「まあ、仕方ないじゃろうな。生まれてきた子供に前世の記憶があり、人格も前世のままだとすると、今生まれた子の人格はどこに行ってしまったのか、と思うじゃろうな。ソフィアもそう話しておったぞ、コサック。」


いきなり話を振られどう答えて良いか言葉に詰まっていると、ヘルトが立ち上がり扉の前まで歩いて行った。


「まあ、長居は無用というやつだな。殿下がいない部屋に誰か来て、物取りと思われても詰まらん。行くぞ。オムさんは大丈夫ですか?」


「ああ、だいぶ歩いたが、まだ大丈夫じゃよ。」


「だめなら肩でもなんでも貸すぜ。」


「ありがとうよ、エクサ。流石はワシ贔屓の商人だけある。」


オムが杖で足の裏を叩き、杖をついて立ち上がる。

オムの歩調に合わせて、兵舎へと向かい、それほど時間はかからずにたどり着いた。

馬車や馬がずらりと並び、それと同じ数だけ種族があふれかえっている。

ここフマニテに住居のあるもの、商売をしているもの、騎士団を目指すもの、様々な思いで遠征に参加しフマニテに寄与しようとしているがわかる。

一つの馬車の中から、見慣れない女の子が降りてきてこちらに向かって歩いてくる。

場違いなほど豪奢なピンクを基調としたドレスに身を包み、金髪の髪を編み込んでティアラをつけて、少女ながらも整った顔立ちが目を見張る。

ハイヒールを履いていて兵舎前の土の上が歩きにくいのか、スカートの端を掴みながらよれよれ歩いている。


「どうもご機嫌よう。私はフマトの貴族にしてランス殿下の許嫁である、マリッドと申します。なんちゃってー。辺境伯の娘っていえば思い出していただけますか?」


かしこまった態度から急に年相応の態度を見せるマリッドに戸惑いながらも、もちろん覚えており忘れるはずがない、と口々に言う。


「よかったー。エレンちゃんは元気にしてますか?」


全員口ごもる。


「えっと、エレンがね、獣人になって、それで、子どもを授かったよ。」


コサックが意を決してマリッドに答えた。


「そうなんですかー!エレンちゃんよかったー!寂しい思いをさせてしまったかと思いましたけど、流石エレンちゃんですね。強いです。この遠征が終わったら是非会いたいのですけど、今はどこにいるのですか?」


「ティーヴのタフト家にいるよ。」


「そうなんですかー?!お父様、じゃなかったフロテラのところにいるんですねー?!うらやましいなーフロテラ。」


「お嬢様、勝手に馬車を降りられては困ります。そのような卑しい身分の者と話さないでください。」


馬車から飛び出してきた、マリッドの侍女らしき女性が軽蔑の言葉をコサックにぶつける。


「卑しいとは失礼じゃない?」


「ああ、これはイブリス様、常日頃お嬢様に妙なことを吹き込まないようにお願いしているところですが、あなた様が居ながらこんな者との会話を許すなんて、どういうことでしょうか。」


「あんたに言ってもしょうがないけど、こっちはオム先生、この人はヘルトさん。卑しいって言ったけど、あんたの仕えている貴族様よりも位は上だよ。口を気を付けるのはそっちだ。」


イブリスがいつになく怒りのこもった口調で侍女にぶつけた。

侍女も状況を把握したのか青い顔をするも、状況を打破しようと必死に食らいつく。


「そちらのお二方のことではありません。そこの青い目で黒い髪の男のことです。」


「彼はこの二人のツレさ。孫のように、息子のようにかわいがっている存在だ。卑しいかどうか、そこの英雄二人に聞いてみたらいいじゃない。」


侍女が口ごもる。

オムとヘルトが卑しい身分かどうかを聞くことにもなると受け取ったようだ。


「お嬢様、行きますよ。馬車に戻ります。」


マリッドの手を無理やり引いて馬車の方に地団駄を踏むように侍女は歩き去っていった。


「あいつにはいつも困ってるんだ。あんな感じでしょ?ちなみに、マリッドお嬢様がランス王子の許嫁ってのは本当だよ。リージオン、じゃなかったフロテラもびっくりしてたけど、娘の嫁ぎ先が安泰とか言って喜んでたな。もう何が何だかわからないね。皆同じ10歳なのにね。」


ぶかぶかの制服の中で両腕を広げ肩をすくめる。


「さて、馬にする?馬車にする?僕は馬車をお勧めするよ。オム先生は同じ馬車に乗ってくださいね。」


オム以外は馬を選択し、兵舎前で大声をあげて遠征の説明をしているのであろう兵に馬に乗ることを伝えた。


「名前は?」


「コサック。」「ラベリー。」「ヘルト。」「エクサ。」


「はいはい、っと。じゃあそっちの厩にいるやつに声をかけてくれ。ん?ヘルト?」


また騒がれると厄介なのでヘルトは急いで厩に入り、馬を受け取って兵舎から離れた。

コサックたちもヘルトに続き、馬を引いてオムの乗っている馬車の近くで出発を待った。

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